再会4−1
4
「お姉ちゃん。それが最後だよ?」
そんな声が聞こえ、目が覚める。
目を開けると、一瞬、自分がどこにいるのかがわからなかった。だが、今までになく頭がスッキリしている。。
背後から話し声が聞こえショウが起き上がると、それに気づいたリアがこちらに視線を向け、「起きたか」と呟く。
「起きたのならちょうどいい。乾パンが炙り終わったところだ」
そう言われて、リアの手に乾パンが刺さった鉄串が握られていることに気づく。その姿に思わず、似合わないな、と思った。
しかし、そんな気持ちは一切表情には出さない。出したが最後、何を言われるかわかったものではない。悟られるのもダメだ。
「少しはマシな顔になったな」
ショウの顔色を見て、リアが安心したような声音で言った。昨日の自分はそんなに酷い顔をしていたのだろうか、と無意識に自分の頬を掻く。
「人間にも睡眠と心の余裕が必要だが、それはお前たちであっても変わらないんだな。人間よりも頑丈である分、並の人間より溜め込むのだろう。それが一晩のしっかりとした睡眠で回復するのだからさすがだな」
納得したように呟き、「さぁ、さっさと乾パンを食べろ」と、炙ったことによってほかほかになった乾パンを差し出してくる。
それを受け取ながら、なんだか夢を見ているような気がした。本当は自分は暗闇の中で一人きりで眠っているのではないのだろうかと不安に駆られる。目が覚めたら、現実の戻ってしまうのではないかと。
乾パンを手にしたまま瞳を伏せたショウを見て、リアは小さくため息をついた。
「まだ夢現のようだな。目が完全に覚めるまでゆっくりしていろ。その間に、私たちは片付けをしておく」
そう言ったリアは、パティと協力してテントを丸め始める。その手つきがかなり手慣れていたので、二人も旅に出てかなり経っているのだろうと察した。
焚き火を水魔法によって消してから、再びショウへと近づいてくる。
「どうだ? 少しは目が覚めたか?」
意識がはっきりとしてくると、これが本当に現実なのだと実感した。本当にリアと再会したのだと。戦場で過ごした日々が脳裏をよぎる。
そして、それと同時に昨日の夜にリアから聞かされた神話も思い出す。仇が待つと言った場所に、リアたちと共に向かうのだということも。
ここでやっとモヤがかかっていたような頭の中がすっきりしてくる。リアも表情でそれがわかったのだろう。唇の端を吊り上げた。
「よし。目が覚めたようだな。あまりにも寝ぼけていると、頭から水魔法をかけて無理やり起こそうかと思ったぞ。では、荷物を持て」
上部に丸めたテントを取り付けたリュックを差し出される。それをきょとんと見つめる。
ああ、と思い出した。昨日、睡魔に負けて意識を失う直前に、リアが「荷物持ちをさせる」と言っていた。
「今までパティが背負っていたのだが、今度はお前が持て」
リアは魔法使いなので魔法の訓練は受けていても、兵士のように重い荷物を持って山道を歩くような訓練は受けていないだろう。だから、パティが背負っていた。だが、パティにどれだけの体力があるかはわからない。小さい体でよくもこれだけ大きな物を持っていられたな、と思う。
そもそもパティは血は繋がっていないとはいえ、ヴェアール家に迎えられた人間だ。それなりの訓練を受けていてもおかしくはない。見ている限り身のこなしは軽そうだし、雰囲気から常に周囲の気配を感じ取っているのがわかる。
なかなかリュックを受け取らないショウを見て、リアが空いた手を腰に当てた。
「どうした? 忘れたとは言わせないぞ。私は確かにお前に荷物持ちをさせると言ったんだからな? 私はお前の体力が計り知れないことをよくわかっているつもりだ。これくらいの荷物を背負って歩いたところで問題ないはずだ」
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと目は覚めたから」
慌ててリュックを受け取る。確かに少し重いが、動きを制限されるほどの重みではない。問題ないだろう。だが、二人分の荷物にしは少ないような気がする。
「荷物はこれで全部なの?」
不思議に思って訊ねると、リアが足元に置いていたリュックを持ち上げて見せてくる。
「私たち個人の荷物は自分で持つ。お前が背負っているのは共同で使うものだ」
そう言って、リアはリュックを背負い、手に杖を持つ。パティもリアと同じくらいの大きさのリュックを背負った。ショウが持った荷物よりも小さい。
「街でお前の服も買おう。さすがにその服では一緒に旅をするのは難しい」
そう言われ、ショウは自分を見下ろす。確かに、あちこちが破けて汚れている。これから旅をするのであれば、この服装はダメだ。
「その服を処分するかどうするかは自分で決めろ」
つまり、大事にとっておきたいのであればとっておけ、ということだ。
リアの優しさにショウが思わず「ありがとな」と言うと、彼女は何も言わずに歩き出した。
その後にショウが続き、最後にパティが続く。ショウの片手には、まだ食べていない炙った乾パンがあり、どうやら歩きながら食べろということなのだろうと考える。
なので、歩きながらちぎって食べる。もう少しで広場を抜けそうだ。その先は、鬱蒼とした草木が生い茂る道があり、そこを通るためのナイフをリアが手にした時、最後尾のパティがぼそりと呟く。
「お姉ちゃん。嬉しそう……」
その言葉が聞こえたリアがバッと振り返る。常に冷静沈着なリアが慌てている様子は久しぶりに見る。
「パ、パティ! 何を言っているのだ! 私はまったく嬉しいとは思っていないぞ! だいたい、どこをどう見たら私が嬉しそうに見えるのだ!」
かなり慌てた様子のリアに、ショウは思わずくすりと笑った。
大人びたのは見た目だけで、中身はあの頃とそんなに変わっていないなぁ。大人びて見えるのは背伸びしているだけなんだなぁ、と口には出さずとも表情には出してしまったらしい。それを見逃さなかったリアの瞳がきらりと光る。
「何を笑っているのだ!」
リアの杖が振り下ろされ、それがショウの脳天に直撃する。
手加減はされているだろうが……結構痛い。




