再会3−1
3
ショウは夢を見る。
幸せだった頃にはもう戻れない。
失われた命が戻ってこないことは、戦場で充分理解した。悲しくてどれだけ泣いたとしても、死んだ者は生き返らない。死だけは、生きとし生けるものに神様から平等に与えられたものだ。
復讐を誓ったものの、あの男がどこにいるかさえわからず彷徨い続け、夜の暗闇の中、膝を抱えたこともあった。そのたびにルトが殺される瞬間が脳裏に浮かび、なんとかここまで生きてこれた。
憎々しい銀色の髪。
気持ち悪いほどの底知れない笑み。
説明できない不可思議な力。
寝ても夢に出てくる。そのたびに、身体中が怒りに震え、激しい感情が心の中で渦を巻き目が覚める。
そして現実を思い知らされる。自分は、この暗闇の中でたった一人なのだと。この世界で独りぼっちになってしまったのだと。
この大陸には人間がたくさんいるのに、自分は独りぼっちだ。
そう思うと、どうしようもなく寂しかった。狂ってしまうほど悲しかった。
復讐だけが生きる支えだった。ルトを殺したあの男を殺すことだけを考え、盗賊に襲われた時も、魔物に襲われた時も、ずっとあの男を殺すことだけを考えて戦ってきた。
だから、リアに再会した瞬間、緊張の糸がぷつりと消えた。肩に入っていた力が抜けた。
自分を見つめる赤い瞳が懐かしかった。名前を呼ばれた瞬間、独りぼっちではないのだとわかった。まだ、この世界には自分を知る人間がいる。それが心底嬉しかった。
そのリアは、父親を殺されていた。ショウの仇である男に。
その男のことを、リアは『意思ある闇』だと言った。
遥か昔、万能であるはずの神が犯した唯一の失敗。それが《神の失敗作》なのだと。
と言うことは、自分の敵は人間ではないということになる。自分と同族でもないこととなる。
一瞬だけ、そんな奴を殺すことが出来るのか? という不安に駆られた。
兵揃いの里の人たちを寄せ付けず、圧倒的な力の差を見せつけたあの男を、本当に殺せるのだろうかと。
しかし、答えは簡単だった。
殺すしかないのだ。
仇を討つしかないのだ。
たった一人生き残ったショウに与えられた道はそれしかない。
だから、そのためにならなんでも犠牲にできる。あの男を殺せるのなら、この命さえも差し出せる。
リアもそのつもりだろう。命を賭けて、あの男を討つつもりだ。
だからショウも、命を賭けて、あの男を討つ。
それを、みんなの墓前に誓ったのだから。
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遥か昔、クオシス=アレイを封印した二人の勇者の片割れの血を継ぐ家系。
それが、リアの生まれたヴェアール家だった。
世界中に存在するどの名門貴族の家より歴史が古く、由緒正しい血筋。時には王族すら頭が上がらない。
フーゲン大陸の長い歴史の中で、数多くの優れた魔法使いを輩出し世界を支えてきたと言っても過言ではない。
勇者の血を流すことを誇りとし、時には悪政を行う愚王を断罪さえしたこともある。ヴェアール家は、この世界の歴史にその名を深く刻んでいる。
ヴェアール家の名前を聞いて、「知らない」と言う者はこの世界には存在しない。それくらいヴェアール家の名は、世界中に知れ渡っていた。世界中に魔法使いを輩出する家系はあるが、ヴェアール家はその筆頭だ。
大陸が二つの国に分かれた時、戦争が起こらないように尽力を注いだのは、当時のヴェアール家当主だと聞いている。
リアはそんな家に生まれたことを誇りに思っていた。
ヴェアール家の者としての誇りを胸に、クオシス=アレイを討とうと決めた。
クオシス=アレイと名乗ったあの男が本当に歴史書に記されている《神の失敗作》であるのならば、勇者の血を引く人間としてその存在を無視することができないのも事実だ。
だが、あの男は父を殺した。それだけで復讐の対象に値する。
リアはなにがなんでも、あの男を討つと決めている。尊敬する父を殺されて、恨まずにはいられなかった。
そのために、同じ目的を持ったショウを誘ったのだ。一緒に旅をしようと。
ーー利用するつもりで。
リアはそう思った自分を汚い人間だと思った。復讐のために、戦場で共に戦った戦友を利用しようとしている。リアが利用しようとしているのだから、ショウがリアを利用しようとしても一向に構わない。ショウだって、そのことには気づいた上で行動を共にすることを了承したのだろう。
ヴェアールの名に賭けて。
誇り高き魔法使いの名に賭けて。
あの男を討たなければならない。
クオシス=アレイを討ち、家族が待つ屋敷へ絶対に帰る。
空っぽの父の墓前にも、絶対に帰ると誓った。
生きて帰って父の墓前に仇を討てたことを報告し、その時にリアは正式にヴェアール家を継ぐ。父が守った家を今度は自分が守る。
そのために、絶対に生きて帰らなければならない。
絶対に、生きて帰るのだ。




