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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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再会2−5

「……クオシス=アレイが《神の失敗作》?」

 ショウが呆然としたように呟く。彼にとっては初めて聞く話なのだろう。それもそうだ。この話は人間の間に伝わる神話の話なのだから。外部との接触を絶っている里で生きてきたショウが知らなくて当然だ。

「きっと私たちが探しているクオシス=アレイは、風幻神話に出てくる《神の失敗作(クオシス=アレイ)》の可能性が高い。少なくとも、私はそう考えている」

『意思ある闇』であるクオシス=アレイが、ショウの故郷を燃やし、リアの父親を殺した。

 信じられる話ではない。

 他人が話を聞いただけであれば、その名を騙る不届き者だと思っただろう。しかし、実際にショウは銀髪の男に対して手も足も出なかったようだし、リアはリアで魔法が通じなかった。だからこそ、他人なら馬鹿げた話だと笑うかもしれないが、リアは銀髪の男が本物だと確信している。

 しかし、確信しているリアとは違い、ショウは初めて聞く話で信じ切ることができない様子を見せる。

「それは神話だろ? 神話に出てくるような奴が、本当に実在するのか?」

 リアだって実際にクオシス=アレイを名乗る者が現れるまでは神話の中だけの話だと思っていた。

 戸惑うショウをまっすぐに見据えて、リアが口を開く。

「――語り部(ジェンクス)は語る」

 ショウの疑問の言葉を、リアは聞き慣れない言葉で遮った。

 リアの顔は冗談を言っているようには見えず、とても真剣そのものだ。第一、リアは嘘をつくような人間じゃない。それは昔に背中を預けて戦った仲であるショウが一番よくわかっている。なので、ショウは彼女の話を聞くために口を閉ざして耳を傾ける。

「遥か昔、二人の勇者がいた。二人の勇者は世界を蹂躙する一方的な暴力に屈しそうになった人々を励まし、『意思ある闇』が生まれた場所【聖域】でその命を賭けてすべてを終わらせた。『意思ある闇』は封印され、世界には平和が戻った。これが語り部(ジェンクス)が語る伝説の概要だ」

「なんだよ、その語り部(ジェンクス)って……」

語り部(ジェンクス)の語源は、ヴェナカルタ=ジェンクスからだ。この者は勇者の旅に同行し、その旅路を克明に記録した。そして、その子孫が語り部(ジェンクス)と名乗って勇者の偉業を現在でも世界各地を回って伝えている」

 リアに言われ、ショウはヴェナカルタ=ジェンクスの名前はどっかで聞いたことがあるなぁ、と思った。どこで聞いたかは忘れてしまったが、確かにその名前には聞き覚えがある。

語り部(ジェンクス)は嘘をつかない。真実だけを口にする一族だ。だからこそ、遥か昔に『意思ある闇』は存在し、二人の勇者も確かに存在したと信じられている。残念ながら、私がクオシス=アレイを名乗る者に父を殺されるまでは、その存在を信じてはいなかった。だから私は、封印されたはずの『意思ある闇』が復活し、ショウの故郷を燃やして、私の父を殺したのだと思っている」

「……」

 復活した。

『意思ある闇』が。

《神の失敗作》が。

 しかし、なぜ彼がショウの故郷を燃やしてリアの父親を殺したのかはわからない。

「奴は確かに、『始まりの島』で待つと言った。だから、『始まりの島』に行くことを決めたのだ」

 リアは言葉を続ける。

「お前の腕の良さを私は理解している。だから、一緒に旅をしようと提案している。目的が一緒なら、一緒に旅をしたほうが道中の危険も少ないし、効率がいい。空腹のあまり人を襲おうなどと考えなくて済む」

 リアの言葉に、ショウはグッと言葉を飲み込む。

 確かに、空腹に耐えきれなくてリアを襲ったのは事実だ。それは言い訳のしようがない。

「襲ったことは……悪いと思ってる」

 ショウの反省の言葉を聞いて、リアは少しだけ唇の端を吊り上げた。

「反省しているのならそれでいい。私は無傷だったし、被害もない。常備している乾パンは2個ほど減ったがな」

 ショウはリアが怒っていないことにホッとした。リア自身もわかっているのだ。ショウがどうしようもなくて他人を襲うと決意したことを。だから、彼を責めることはしない。

「生活での金銭面は私が面倒を見よう。どうだ? 私と一緒に旅をしないか? 悪い話ではないはずだ。それとも、私と一緒では不満か?」

 別にリアが不満というわけではない。

 ショウの腕の良さをリアがしっかりと理解しているように、ショウもリアの腕の良さをよく理解している。世界トップレベルの魔力を持ち、魔法の才能に溢れ、他者を寄せ付けないほどの孤高の強さを持つリアのことを。

 2年前に別れたあの日まで、戦場で共に背中を預けて戦った仲だ。気心は知れている。赤の他人と旅をするより全然いい。

「……いや」

 ショウは苦笑する。リアの声音から、ショウが取る選択肢をわかっていることが伝わってくる。それでもリアは、ショウに選択させようとしている。彼が自分の目的のために最善の選択をするだろうとわかっていて。

「リアと一緒ってことが不満なわけないよ。リアの強さは充分理解してる。だから、一緒に行くよ。奴が『始まりの島』にいるのなら、オレもそこを目指すしかないし」

「よし。なら、交渉成立だ」

 リアが手を差し出してきたため、ショウはその手を握る。交渉が成立した証だ。

 2年前より大人びた姿になっているが、握った手はあいかわらず小さかった。里の者たちとは違って、剣を握ったことがない女の子の手だ。

「とりあえず、次の街でその格好をどうにかしよう。仮にもヴェアール家の人間と共に行動するのだ。汚い身なりでは困る」 

 久しぶりの再会なのに、相変わらずだなぁ、とショウは再び苦笑して思い出す。

 そう言えば、こんな風に笑うのはとても久しぶりだ。

 故郷を出てからは生きることに必死だったから、笑う余裕なんてまったくなかった。気心知れた友人に会って、少し気持ちが落ち着いたのかもしれない。それに、仇がどこにいるのかもわかったのも大きいだろう。

 今すぐ『始まりの島』まで飛んで行きたいが、あの時だって一人ではまったく敵わなかった。リアと共に戦ったあの頃のように、クオシス=アレイを共に倒すのも悪くはないと思う。リアほど心強い味方はいない。

 安心したら、少し眠くなってきた。里を出てから、ほとんど眠ることなく仇を探し回っていたから、気が抜けた途端にどっと疲れが襲ってくる。

 それに気づいたリアが、「もう寝ろ。今日は特別に探索魔法を広げておこう。安心して眠るといい。明日は荷物持ちをさせるからな」と言い、ずっと黙って様子を見ていたパティを連れてテントの中に入って行った。眠たい頭で戦場でこき使われた記憶を思い出す。

 ――昔から、リアは人使いが荒いもんなぁ……

 そう思いながら、ショウは眠りについた。

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