セディル家のお家騒動の顛末について4-5
表情も声も明るい感じなのだが、なぜだか響きに底知れぬなにかを感じ取ってしまった。
ショウが小さく肩を震わせて相手を警戒を込めた眼差しで見つめていると、リアが目を合わせないように視線を泳がして「……そうだな」と小さく返事する。
その言葉に、青年はニコニコと笑ってリアの目の前に立った。
リアと並んだ時に気づいたが、この人は少し背が高いように感じた。リアは成人していない女性なのだが、それでも同性の間では背が高い方である。そのリアと並ぶといい感じの身長差になるので、この青年も背が高い方になるだろう。
亜人のショウと比べると低くなってしまうが、人間の男性の中では長身の方だ。
少し俯き気味のリアの顔を覗き込むように、その長身をかがめた。
「悲しいなぁ。ここに来たのに僕に会わずに通り過ぎようとするなんて。僕は本当に悲しいよ」
少し責めているような声音に、リアはいたずらがバレて怒られている子供のように俯き続けている。
いつものリアとは違う様子に、ショウは思わず眉が寄ってしまった。
青年はいつまで経っても目を合わせようとしないリアの顔を覗き込むのをやめて、その肩をぽんぽんと叩いた。
「でも、会えてよかった。君の進行方向的には東門に行くべきだと思うんだけど、君はそっちじゃなくて北門に来るんじゃないかって思ったんだよね。大当たりだ」
「……」
完全に行動を読まれていたらしく、リアは言い返すこともできないようだ。
何事もなく街を抜けられると思っていたのだから、見つかってしまったことがよほどショックだったらしい。
そこで、ニコニコと笑っている青年の視線がショウへと向けられた。
「それに、僕という者がいながら男と旅をしているなんて悪い子だね」
表情は笑っているのに、こちらに向けられている視線は万年凍土のように冷たいような気がした。
顔が整っている分、冷めた視線がより一層冷たく感じてしまう。そんな視線を向けられたショウは、背筋に冷たいものが流れたような感じがして、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。
鍛えているような感じはしないのに、歴戦の猛者のような雰囲気を感じる。油断したら、ぱっくりと迫力に呑まれてしまいそうだ。
静かに見つめ合っていると、リアが顔を上げて青年を睨みつけた。
「……ショウは戦場で共に戦った仲間だ。嫌な考えは起こさないでくれ」
リアの反論に、青年は少しだけ目を見開いて驚いた表情をした。それからショウを見上げて、「あぁ……」となにかを納得したような表情になる。
「彼、《フレスト対戦》の時に君の護衛だった人だね。そういえば、報告を受けた時の特徴と同じだ」
リアは自分のことをこの人に話していたのだろうかと思っていると、リアが「……お前に隠し通すのは無理か」とため息と共に呟いたのが聞こえてしまった。
その言葉に、青年がより一層嬉しそうに笑う。
「君のことならなんでも知ってるよ」
そう言って、青年がにっこりと笑って、リアの髪を一房すくって口付ける。
その瞬間、薄いガラスが割れるような音が響いた気がした。ショウにはなんの音だったのかわからなかったのだが、パティが「……お姉ちゃんが戻った」と言ったのを聞いて、リアが自分にかけていた幻影の魔法が解かれたのがわかった。
ーーこの人が解除したのか……?
リアの魔法を?
どういう原理で魔法を解いたのかはわからないが、リアの悔しそうな表情を見る限り、魔法が無理やり解除されたのは間違いないだろう。
青年がすくっていたリアの髪を離した。
「なんたって、僕は君の婚約者だからね」
今度はショウは目を見開いて驚く番だった。
ーーこの人が……?
リアが言っていた、苦手な婚約者。
言われてみれば、先ほどからリアが大人しいし、必要以上に喋ろうとはしない。苦手な人間を前にした時のリアの特徴が出ている。
ショウは、思わずまじまじと青年を観察してしまった。
夕日を反射して赤っぽくはなっているが、元々は金髪だと思われる。その輝くような金髪を長く伸ばして、頭の後ろで一つに結んでいる。この髪型はショウと同じだ。
そして、底知れぬなにかを感じさせる瞳は、深い海の底のような紺色。夕方の薄暗さだと、黒と間違えそうになってしまいそうになる。
街を歩けば街ですれ違う女の子たちが振り返りそうなほど顔が整っており、ずっと笑顔を浮かべているのに、なぜだがショウにはその笑顔の裏になにかがあるのではないかと感じてしまう。
得体の知れない、が一番しっくりくる言葉かもしれないと思った。
貼り付けたような笑顔の裏で、なにを考えているかわからない人物というのがショウが抱いた第一印象だった。




