セディル家のお家騒動の顛末について4-2
改めて、リアの後ろ姿を見つめる。
ショウにはいつも通りのリアの後ろ姿なのだが、やはり魔法で魔法使いの特徴である赤い髪が変わっているらしいので、一般人にはどこにでもいるような普通の人間に見えるのだろう。どれだけ、赤い髪が目立つのかを思い知らされる。
リアは、生まれた時からあんな視線の中で生きてきたのだろう。しかも、それを自分の誇りだと受け入れて。
ショウは亜人であるが故に身長が高い傾向があるが、人間と違うのはそこくらいだ。あとは、人間となにも変わらない。だからこそ、リアよりも注目されない。
ショウにとっては見慣れてしまった赤色だが、魔法使いを見慣れていない人間は思わず目で追ってしまうものなのだろう。ショウだって人間の一般庶民だったら、リアのような赤色を見かけてしまったら目で追ってしまうかもしれない。
リアの後ろ姿を見ながら、小さく息を吐く。
正直、リアの赤い髪で人目が集まらないのは助かる。
どこにいても注目され、どこにいても遠巻きにされ、どこにいても人だかりができていたから。
しかし、魔法使いとしての誇りである赤い髪を隠してでも、リアは婚約者には会いたくないと思っているらしい。
「……」
逆に、そこまでして会いたくない婚約者とは、一体どんな人物なのかが気になる。
会ってみたいな、とは思ったものの、リアの様子を見る限り癖の強い人物なのかもしれない。そしたら、自分はどう接していいのかわからなくなるだろう。それだったら、会わないほうがいいかもしれないな。
色々と考え事をしていると、そのうち市場が開かれていると思われる大きな広場に到着した、だが、そこは大通りよりもさらに人でごった返していた。
大きな丸い広場で、壁に沿って円形状に露店が開かれており、中心部に向かって何層かにわけられて露店が置かれていた。
客を呼ぶ声と、値引き交渉をする声と、客同士が会話している声と、いろんな声が混ざり合って聞こえてくる。耳元で話さないと相手の声が聞こえないかもしれない。
亜人は耳がいいので、特に喧騒が大きく聞こえた。
「うわ……」
あまりの人の多さに、思わず声が漏れる。
人間ってこんなにたくさんいるんだな、と思ってしまうほどの人の数と、今からこの中を歩かなければならないのか、と思うと少しげんなりする。
あまり人混みが得意ではないショウだが、ここは行かざるをえないだろう。こんな場所で一人で待ってる、というわけにもいなかいし。
けれど、この人混みの中ではぐれてしまったら、リアたちと再会できる自信もない。
再び小さく息を吐いていると、広場から出ようとしている人の視線が、一瞬だけ自分に向けられるのに気づいた。
ほかの人よりも身長が飛び出しているので、興味本位で見てくるようだ。
リアの赤い髪の方が目立つので、いつもはそちらのほうに視線を向けられがちだが、その髪の色がなくなってしまうと途端にショウが目立ってしまうらしい。
こんなところは、さっさと出ていきたい。街が大きいとこんなにも人間の数が多いんだな、と思っていると、リアが「ショウとパティは手を繋げ」と言ったので、「はい!」とパティが返事をして手を繋いできた。
身長差もあって、パティとはいい位置で手を繋ぐことができた。
なんとなく、傍目から見ると大人と子供みたいに見えるかもしれない。実際、年齢的にはそうなのだが。
「で、パティは私と手を繋ぐぞ」
「はーい」
そう言って、パティとリアが手を繋ぐ。
「この人混みでは、確実に迷子になるからな。はぐれたら見つけるのは一苦労だし、この人混みから抜け出すのも大変なのは間違いない。原始的な方法だが、手を繋ぐのが一番効果的だ」
行くぞ、と言ってリアが一歩を踏み出す。
人混みを歩き慣れているのか、リアは他人にぶつかることなく器用に間をぬって歩いていく。
ヴェアール領にも大きな都市があるみたいだし、日頃からそこを歩き回っていたリアならば人混みを歩き慣れていてもおかしくはない。
パティは持ち前の身体能力ですいすいと人を避けて歩いていく。
慣れていないショウだけが、「すみません」「ごめんなさい」と何度も人にぶつかるたびに謝りながら先へ進む。
一応は体術も得意としているのだが、この人混みの中ではなんの役にも立たないらしい。
ぶつかった人に謝りながら進んでいると、それを肩越しに振り返って見ていたらしいリアがふと足止めて、「ふむ……」となにか考え込む仕草を見せる。
周りの人たちが急に立ち止まった三人組を、迷惑そうな顔をして避けていく。
余計に周りからの視線が増えたような気がして、ショウは苦笑いを浮かべる。今まではリアが注目を集めてくれていたおかげで助かっていたのだと、まざまざと見せつけられている気分だ。
早くリアに元の色に戻ってほしいと切に願ってしまう。
リアはパティと繋いでいた手を離し、持っていた杖についている魔鉱石でショウの足元をコツンと叩いた。瞬時に魔法陣が浮かび上がり、小さく発酵したかと思うとすぐに消えた。
「……?」




