セディル家のお家騒動の顛末について4-1
4.
第一印象は、かなり大きな街だな、だった。
今まで行った街よりもかなり大きく、活気がある。人の多さに比例するように、喧騒も大きかった。夕方に近い時間帯であるため、早めに仕事を終えた人々が通り沿いの食堂で酒を飲みながら食事をしている。
その前を通り過ぎながら、ショウは田舎者丸出しできょろきょろと見上げてしまう。
見えるものすべてが物珍しいの一言に尽きる。
煉瓦造りの高い建物が立ち並び、石畳の道には色が違うものを組み合わせて幾何学模様を作り出している。それが大通りの道には規則的に並んでいて、見ているだけで楽しくなってくる。
その大通りにはたくさんの人の姿があり、まるで祭りが開かれているかのような感じがしたが、リアに聞いたらこれがこの街の普通であるらしい。
通常でこの人通りであれば、この街にどれだけの人間が暮らしているというのか。
ほかの街とは規模がまったく違う。街並みを見ていても、かなり裕福な街であるのはわかった。
ーーものすごく大きな街だ……
街というより、都市と言ってもいいくらいだ。
ショウがきょろきょろと辺りを見回しながら、圧倒されているのに気づいたのだろう。リアがこちらにちらりと視線を向けてきて、「規模だけであれば、ヴェアールの屋敷がある街よりも大きいぞ。サウス=リアクター国内では、王都の次に大きな都市と言われているくらいだからな。貴族が治めている都市の中では、一番大きいかもしれん」と言ってきた。
これで国一番の都市ではないということは、王都はこれよりもすごいのだろう。
それを知ってしまうと、俄然王都にも興味が湧いてくる。ショウは王都には行ったことがないのだが、ここよりも大きくてすごいのであれば、一度でいいから行ったみたいな、と思った。すべてが終わった後に生き残ることができたら、観光がてら行ってみるのもいいかもしれない。
「ヴェアール領にある都市も国内では大きい方ではあるんだがな。ここはうちよりも大きいのは間違いない」
リアを見ると、悔しい思いをしているわけではないようで、少しホッとする。
貴族はプライドが高いと聞いているので、こういうのを目の当たりにするとイラついたり悔しい思いをしたりするのかと思ったのだが、やはりここは変わり者の貴族であるリアだった。まったくそのような感情は浮かんでこないらしい。
たんたんと、事実だけを述べている。
「へぇ……。ここら辺の領地を治めている貴族の人がやり手なんだね」
「……」
何気なく口にした言葉にリアが沈黙してしまったので、あ、しまった、と思ってショウは慌てて口を閉ざす。
ここにはリアの婚約者がいるのだ。リアと婚約できるってことは相手は貴族であるだろうし、このレベルの都市を治めているのであれば、かなり大きくて強い権力を持っている家に違いない。であるとするならば、いくらヴェアールに生まれたリアであっても簡単には婚約解消はできないはずだ。
どれだけ苦手だの嫌いだの思っていても、いまだに婚約関係が続いているのはそういう理由である可能性が高い。
リアは苦虫を噛み潰したような表情になって、すぐに背中を向けてしまった。
「……ショウは観光したいだろうが、ここはすぐに通り過ぎるぞ。危険すぎるからな。市場で乾パンを補充したら、すぐに出る」
そう言ってリアが歩き出した。その歩みに迷いがないのを見て、何度かここを訪れたことがあるのだろうと確信する。
こんなに大きい都市なのに、市場の位置を把握して迷いなく先導するということはそういうことなのだろう。
ーーやっぱり、リアってここを治めている貴族の人と婚約してるんだなぁ……
頭では理解していても実感がなかったのだが、やっと実感してきた。
家柄のつり合いとか、いろんなことを色々と考えた末の婚約なのだろうと察する。里にあった本にも書いてあったが、人間の貴族の結婚とはそういうものなのだと。
かわいそうなのは、リアの気持ちが相手にないところだが。
でも、リアが言うには貴族の結婚というものはそういうものが多いらしいし、リア自身は仕方ないと受け入れているみたいで、自由に恋愛ができたショウとしてはそういうのはなんだか聞いているだけで悲しい気持ちになる。
貴族とは、金銭的にも恵まれているがゆえに自由に生きれそうに見えて、一般人よりも不自由なんだな、と思った。思うだけで、こんなことは口になんてできないが。
しばらく先導して歩くリアに続いていると、周辺がいつもと違うことに気づいた。
「……」
違和感に周辺を観察してみると、リアに視線を向ける者は誰もいないことに気づいた。




