セディル家のお家騒動の顛末について3-3
父親はサウス=リアクターでも名高い魔法使いとして、戦争でも大いに活躍した。戦争に参加していた兵士たちは、一度でも彼の名前を耳にしたことがあるだろう。
この国内でもトップクラスの魔力量を誇り、特に風の魔法の扱いに関しては世界中を探しても右に出る者はいなかった。
世界でも有名な魔法使いの家系であるヴェアール家には劣るものの、この家も国内で屈指の魔法使いの家系であると言っても過言ではない。
しかし、魔法使いとして名を馳せた父親を持つその子供たちは、誰一人として魔力を持たずに生まれてきた。主人もその一人だ。髪や瞳を見る限り、魔力なんて微塵も感じられない。そして、主人の祖父にあたる人も魔力なんてまったくない普通の人間だった。
その祖父の父親は高い魔力を持ち、歴史に名を残すほどの大魔法使いだったと語り継がれている。
この家は、そういう家だ。魔力が隔世遺伝する、世界的にも特殊な血筋。そのため、父親は高い魔力を持っているのに、主人を含む兄弟たちは一切の魔力を持たずに生まれてきた。だとしたらその次は、と期待されて当然だ。
その期待を背負っての婚約なのだと、主人は言っていた。
伝説の《空の勇者》のような高い魔力を持つ子供が生まれるのではないか、という打算と思惑が入れ混じった政略的な婚約なのだと。
普通の政略結婚と違うのは、主人が相手をかなり気に入っていることだ。逆に、相手は主人のことをかなり苦手としているようだが。それでも家同士が結んだ婚約なので、なにも言わずに受け入れている、という状況らしい。
「僕の家もあの子の家には及ばないけど、それなりに歴史の古くて強い家だからね。僕と婚約が結ばれたって知ったら、ほかの家は不満はありそうだったけど黙って引いてくれたよ」
サウス=リアクターの貴族であれば、この家に文句を言うようなそんな恐ろしいことはできないはずだ。
主人の血筋は敵とみなせば徹底的に攻撃する、好戦的な性格をしている者が多い。特に、男性にその傾向が顕著に現れる。この青年も例に漏れず、その性格を受け継いでいる。表面上は和やかに笑うために気づかれにくいのだが、しばらく付き合っているとその本性が垣間見えてくるので、付き合える人間はかなり限られる。
たぶん、あの子もそれにいち早く気づいて主人を苦手だと思っているのかもしれない。
「父上も、揉めるってわかっていたくせに爆弾を残して亡くなるんだから。本当に勘弁して欲しいよ。僕はいずれこの家を出ていく人間だから、兄さんたちがどれだけ揉めようがどうでもいいんだけど、兄さんたちが揉めすぎてこの家が崩壊しても困るしな。あの子との婚約話がなくなっちゃうかもしれないし」
好戦的な性格をしている息子たちのせいで、この家は今現在、荒れに荒れてしまっている。今は内輪揉めだけで済んでいるが、そのうちこの争いが領民たちに知れ渡り、人伝に国王陛下に耳に入るかもしれない。
あまりにも目に余るようだったら、国王陛下から爵位返上を命令される可能性だってある。それだけは、絶対に避けなければならない。今の国王陛下は身内で揉めることを嫌う性格だと聞いているので、今の状況を知られると必ずなにかしらの行動を起こすはずだ。
兄弟間で揉めて爵位返上になった家も歴史の中では数多く存在するし、その中の一つになるのは絶対に避けなければならない。
主人もそれがわかっているため、すぐに状況を収拾したいと考えているようだ。そのために、あの方をどうしても見つけ出したいようだ。
少しだけ沈黙してなにかしらを考えていた様子の主人は、「さてと……」と言って立ち上がった。
「どちらへ?」
使用人の青年がそう訊ねると、主人は楽しそうな表情で片目を瞑る。
「そろそろ、お迎えに行こうかと思って」
そう言うということは、主人は影の報告を待たずに動くつもりであるらしい。
影を信頼していないわけではないと思うが、相手が相手なので自分でも動こうとしているのだろう。
そして、誰を、とは言わない。言わなくても、長年使用人を務めてくれている青年には伝わるとわかっているからだ。
赤髪の青年は少し目を伏せ、綺麗な姿勢で腰を曲げた。
「わかりました。お供します」
基本的に、主人には逆らわない。それが、長年この主人に仕え続けた青年の出した結論だった。
長年仕えてきた自分でも、逆らえば簡単に切り捨てられるだろう。この人は、それだけの非情さを持っている。
ーーあの方とはまったく違う……
人と人とのつながりを重視して領地を発展させてきたあちらとは違い、こちらの領地は完全実力主義で発展してきた。実力が劣っていると判断されれば、身内でも簡単に切り捨てるのことができるのがこの家に生まれた人間の特徴だ。
その中で一目置かれるこの人こそ、この家を継ぐのに相応しい人物だと思うのだが、残念ながら本人はこの家を継ぐ気はさらさらないらしい。
部屋を出て歩き出した主人の後を追い、青年はその後ろ姿を見つめて、本当に残念だ、と思った。




