セディル家のお家騒動の顛末について3-2
「一生懸命隠れたのに簡単に僕に見つかったら、あの子はどんな顔をするかなぁ?」
それを独り言ではなく自分への問いかけだと判断した青年は、「嫌そうな顔はすると思いますよ」と答える。その表情はいつも見ているので、容易に想像することができた。というよりも、この主人と付き合いのある人たちは、ほとんどが一度はそのような表情をすることがある。
本人もそれがわかっているだろうに、行動を改めるようなことはしない。我が道を行く人だ。
実際に結果も残してきているので、関わりのある家の方々も無下にできないところでもあるらしい。これで口だけの無能であれば、この家ではすぐに切り捨てられて路頭に迷っていたところだろう。
主人は人の好き嫌いがはっきりしているタイプだが、この人自身に対する好き嫌いもはっきりと分かれる。父親くらいの年齢の人からは好かれる傾向があるが、同年代、もしくは年下からは嫌われることが多い。
主人はあの方のことが大好きでたまらないのに、当の本人は主人のことが心底嫌いでたまらないらしい。会いたくもないくらいに。その感情が、今回の行動に表れている。かなりわかりやすい。
それでも気にせずに楽しそうに笑っているのも、あの方が苦手としている理由の一つだろう。
それでも突き放そうとしないのは、家と家の付き合いを考えてのことなのかもしれない。
あの方の家は貴族の家の中でも抜きん出た権力を持っているが、それをひけらかして他家を言いなりにするようなことは一切しない。関わる場合には、一定の距離を保ったまま、対等な立場で会話をしようとする。それが、この家とは違うところだ。
この家も、国に与える影響が大きい家であるのは間違いない。それで他家に圧力をかけるようなことは基本的にしないが、今までなかったとは言い切れない。この家に生まれる人間の特性的に、歴史を見るとほかの家と衝突することは多々あったからだ。
「あの子の嫌そうな顔、すっごくいいよね?」
どうやら、その顔がお気に入りとなった要素の一つであるらしい。
「普段はそのような感情を顔に出されない方だと聞いています」
自分の問いかけに答えてくれた使用人に笑みを向けた主人は、組んでいた足を組み替えて、再び机に頬杖を突く。
「やっぱり、そうだよね? あの顔を向けてくるのは僕にだけなんだよ。どんなに僕のことが嫌でも、家が決めたことだから拒否できないのが悲しいところだよね。貴族の家に生まれた人間の宿命ってやつ」
家族で写った唯一の写真の横に置かれているのは、主人のお気に入りの子の幼い時の写真だ。嫌がるあの子をなんとか宥めて撮ることができた、こちらも唯一の写真だと言っていた。それをいつも使っている執務机に飾っては毎日のように眺めているくらいには、あの方のことがお気に入りなのだろう。
気に入っているというより、執着している気がしないでもないが、それは使用人である青年が口を出すことではない。なので、そのことに関しては沈黙を貫く。
前回会った時は戦場に行く直前だったから、写真の面影があったのを覚えている。あれから数年が経っているので、少しは大人に近づいているだろうか。主人は先に成人を迎えたが、あの方はまだ成人していなかったはず。
「僕も一応貴族の家に生まれたからさ、将来はどんな相手と結婚するんだろうって思ってたけど、まさか父上があの子との婚約話を持ってくるとは思わなかったよ。即了承の返事をしたね」
「たまに鼻歌で歌われる音楽が流れていた舞踏会ですか?」
「そうそう。それそれ。あの舞踏会にはほかに貴族の子供も結構参加してたんだけど、あの子は群を抜いて目立ってたからね。周りの注目を一身に集めてたよ」
そうもそうだろうな、と思った。
あれだけ目立つ人間は、この世界中には二人としていないだろう。それがあの方の特徴でもある。
なので、舞踏会でたくさんの注目を浴びている姿を、容易に想像することができた。
「僕も目を奪われた人間の一人だったよ。だから、話しかけて仲良くなって、それを父上が見ていたみたいでね。一ヶ月後に婚約の話を取り付けてきた」
そう言って、主人は当時のことを思い出したのか楽しそうに笑う。
「聞いた話では、あの子には多くの求婚の申し込みがあったみたい。誰もがあの家とのつながりが欲しいだろうからね。その中で僕が選ばれたのだとわかった時には、優越感でいっぱいだったよ。この家の血筋に感謝したね」
主人の青年の言う通り、この家の血筋はかなり特殊だ。




