セディル家のお家騒動の顛末について2-10
魔物に関しては、最初は小さな魔物の目撃情報から始まり、しばらくすると少しずつ身体が大きな魔物の目撃が増え始める傾向であるようだ。
なので、小さな魔物が目撃された場合には、速やかに近くの街の役所に報告して注意喚起を行う決まりになっているらしい。
報告を怠ると、魔物による人的被害が起きやすくなってしまうようだ。
それもそうだろうな、とショウは思った。魔物目撃の噂を聞かない先で魔物と遭遇して怪我を負い、後からあそこで魔物を見たことがあると言われたら、怪我した本人はもっと早く言えと腹立たしいことこの上ないはずだ。命を奪われてたのであれば、遺族の怒りの矛先は黙っていた人に向かうだろう。
なので、魔物の目撃情報がない場所で魔物を見かけた場合は、速やかに近くの役所へ報告することが義務付けられているらしい。
そして、リアが言うにはここらへんは魔物の目撃情報がない土地であるようだ。
それは初めて知った。なにも考えずに蛇の魔物を処理したが、パティがそのことに気づかなかったらショウは誰にも言わずに終わらせるところだった。
リアはショウに対して役所に行ったら情報提供をするように約束を取り付けてから、三本の鉄串を手にした。
「とりあえず、朝ごはんを食べるぞ。そのあとは、お昼まで休憩なしで歩くつもりだ」
「わかった」
「はーい」
リュックに入れている紙袋から乾パンを取り出し、それぞれが鉄串に刺して炙り始める。
乾パンが食べられる大きさになるまで、ショウはこの際だから訊いてみるかなと思って、「そんなに次の街に会いたくない人がいるの?」と訊ねる。
途端に、リアが渋面になる。ここまで嫌そうな顔をするリアも、かなり珍しい。やっぱり、よほど嫌いな人物が次の街にいるようだ。
どんな人なのか、逆に気になってしまうのだが、そんなことを言えばリアに睨まれてしまうかもしれないので黙っておく。
リアはややって、大きくため息をついた。これ以上は黙っていられないと諦めがついたのだろう。
「……正直、会いたくない。会わずに済むのであれば、一生会わずにいたい」
その言葉に、パティがきょとんとした顔をした。
「でも、そういうわけにはいかないもんね」
「……」
パティの言葉に、リアが押し黙る。
妹は悪気はないのだろうが、リアが言われたくない言葉を的確に言ってきたらしい。
厳しい顔で焚き火を睨みつけた後、隣に座るショウへと視線を向けてきた。
「ショウ……」
「ん?」
「次の街でもしあいつに見つかったら、絶対に私に哀れみの視線を向けないでくれ」
「……え?」
どういうこと?
リアの言葉の意味がわからずにぽかんとしていると、炙り終わった乾パンをリアが食べ始めた。
これで会話は終わりだ、という雰囲気を感じ取り、ショウも自分の分の乾パンを食べ始める。
ーー本当にどういう意味なんだ……?
さっぱりわからない。
しかし、リアはこれ以上話すつもりはないらしい。助けを求めるようにパティに視線を向けると、それに気づいた彼女は、慌てた様子で首を横に振る。どうやら、リアが話したくないことを話すつもりはないらしい。だから、これ以上は自分に聞かないでくれ、ということなのだろう。
ちらり、とリアを見やる。その横顔はなにを考えているのかわからなかった。ただ、今の話はあまり触れられたくない部分であるのはよく伝わってくる。
やはり自分は部外者なのだろうか、と思いながら小さくため息をつくと、ちらりとリアが視線を向けてきたのがわかった。
それに気づかないふりをしながら乾パンを食べていると、先に食べ終わったリアが「本当に小さい頃、お前のように自分は好きな人と結婚するのだと思っていた時期もあった」と言ってきた。
え、と思って顔を向けると、リアはこちらを見ておらず、ずっと手元を見つめていた。何も刺さっていない鉄串をくるくると指先で回しながら、なにかを思い出しているかのような表情をしている。
「結婚は好きな人とするのだと、両親を見て思っていた。両親は本当に互いを想い合っていたし、いつも幸せそうに笑っていた。だから、自分もそんな人とと一緒になりたいと結婚に対して憧れを抱いた時期もあった」
「……」
リアにもそんな時期があったんだな、と思ってしまった。
その頃のリアは両親から愛され守られ、周囲からの悪影響などは受けていなかったのだろう。
そんなリアが、ふっと笑った。
「でも、現実はうまくはいかないな。好きな人と一緒になるって当たり前のことが、これほどまでに難しいことだとは思っていなかった。私は、普通の人間が普通にできることができない人生を送るんだろうと悲観したこともある。だが、それは私が私であることを否定することになるからな。すぐにその考えは消し去った」
「……リア?」
突然、なにを言い出しているんだろうか?




