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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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セディル家のお家騒動の顛末について2-9


  ****


 朝になってテントから出てきたリアに、ショウは「おはよう」と声をかけた。

 リアは大きく伸びをする。貴族らしくない気の抜けた仕草に、思わず苦笑してしまった。

 リアは最初からショウの前ではリラックスしている気がする。それだけ気を許してもらえているのだと思ったら、少し嬉しい気持ちになった。

 リアは小さく欠伸をしてから、ショウに視線を向けた。

「ああ、おはよう。追っ手も完全に撒いたようだし、いい朝だ」

 どうやら、起きてすぐに探知の魔法を使ったようだ。それで、周辺に人の気配がないことを確認済みであるらしい。ショウもなんの気配も感じないし、一番気配に敏感なパティもなにも言わないので、本当に追っ手を撒くことに成功したのだろう。

 リアの後に、眠い目をこすりながらパティが出てきた。朝が弱いパティには朝日が眩しいらしく、眉を寄せて目を細めている。まだ完全に覚醒するまでには時間がかかりそうだ。

「パティ、シャキっとしろ」

 リアはそう言いながら、自分のリュックを漁り始めた。しばらくしてその手に櫛が握られる。 

「これから乾パンを炙るだろ? 枯れ枝を少し拾ってくるよ」

 ショウがそう言うと、半分寝ている状態のパティの髪を櫛で梳かしていたリアが「わかった。その間に、私たちはテントをたたんでおく」と答えてくれた。

 近くの茂みに入ったショウは、地面に落ちている枯れ枝を拾い始める。手入れがされていない森の中では、枯れ枝は簡単に手に入る。

 このあとは朝ごはんの乾パンを炙るだけなので、それほど量は必要ない。鼻歌を歌いながら二十本くらいの枯れ枝を拾った時に、少しだけ妙な気配を感じて足元を見ると、そこには真っ黒な蛇がいた。

「……」

 黒。

 その色に、なんとなく嫌な予感を覚える。

 ーー黒って言えば、あれだよな……?

 この世界で、黒い生き物といえばあれしかない。確かに、こういう大きさのもいると聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。いつもはもっと大きいのを見てきたので、少しだけ拍子抜けした気もする。

 それに、あまりにも小さいために気配に気づくのが遅れてしまったのは少しだけ悔やまれる。もしかすると、気づかないうちに素通りしていた可能性も高い。

 どうしようかな、と思っていると、その蛇はまっすぐにショウに向かってきて、ある程度の距離になると鎌首をもたげて威嚇するように音を立てながら口を開けた。

 真っ黒くて細長い体躯に、開けた口が異様に赤く見えた。その中に、大きな牙が見える。

 あれで噛まれたら痛いだろうなぁ、と思っていると、少しの予備動作の後で一気に飛んでくる。

 

 右足を狙ってきたのを半身を翻して躱し、無防備になったその身体に手刀を叩き込む。地面に叩きつけられて動きが鈍った蛇の頭を踏み潰すと、その身体は音もなく空気に溶けるようにサラサラと砂状になって消えた。

 ーーやっぱりそうだったか……

 魔物だった。

 基本的に魔物は動物の姿をしていることが多く、ある程度の大きさのをよく見かけるが、こうやって小動物の姿をしている魔物も少なからずいるのは聞いている。実際に見るのは初めてだが。

 小動物の姿をした魔物は攻撃的ではあるものの危険性は低く、訓練を受けていないような農民でも対処は可能だ。狼のような大きさになってくると訓練を受けた兵士でないと相手にならないが、蛇やウサギのような大きさであれば一般人でも充分に戦える。

 何事もなかったかのようにショウがリアたちの元へ戻ると、覚醒したらしいパティが「大丈夫だった?」と聞いてきた。

 気配に敏感な彼女は、ショウが魔物と遭遇したことに気づいているらしい。

 そんな会話を不思議そうな顔をして聞いていたリアが、「枯れ枝を拾いに行っただけだろう? なにも心配する要素はないと思うが」と言ってきた。どうやら、こちらは魔物の存在には気づいていないようである。

 そんな姉に顔を向けたパティが、「ショウは魔物と遭遇したんだよ」と言ったことで、リアが驚いた表情でこちらに視線を向けてきた。

「そうなのか?」

「まぁ、そうだけど」

 焚き火の近くに枯れ枝を置きながら答えると、「大丈夫なのか?」と心配するような声音で近づいてきた。

 ショウの得物である長剣はここに置きっぱなしにしていたから、素手で対峙したのはすぐにわかっただろう。なので、大丈夫だったのか、と心配しているらしい。

「魔物って言っても、小さな蛇の姿をした魔物だったから」

 その言葉に、リアはホッとした様子を見せた。

「蛇か……。だとしたら大丈夫だな。蛇のような小さな魔物にお前が遅れを取るわけがないからな」

 安堵したように息を吐いたリアは、「ここにも魔物がいるのだな」と周辺をぐるりと見回した。

「小さな蛇のサイズだったとしても、魔物がいたことには間違いがない。次に行く街で、役所に報告だけはしておこう」

「でも、役所に行ったらお姉ちゃんのことバレちゃうんじゃない?」

 パティの返しに、リアが眉を寄せて口を引き結んだ。よほど会いたくない相手であるらしい。リアにそんなに嫌われる相手ってどんな人なんだろうと、逆に興味が湧いてしまう。よほど癖のある人に違いない。

「……匿名で報告しておく」

 魔物の目撃を黙っておく、という選択肢はないらしい。

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