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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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セディル家のお家騒動の顛末について2-6

「この魔法をずっとかけ続けられた人間は、魔法を解いたとしても他人に認識されづらくなるのだ。魔法耐性のある私やショウは問題なく存在を感じ取ることができるが、一般人ではまずその存在を認知することができなくなる」

「そんなことになるの?」

 あまりの大きなデメリットに、ショウは驚きを隠せない。

 魔法は万能じゃないってリアがよく言っているが、そんな副作用まであるなんて知らなかった。

 ショウの問いかけに、リアは腕を組んでこくりと頷く。

「諜報活動を主な生業としている者たちは、わざと認識阻害の魔法を長時間かけられて副作用を起こすようなこともしていると聞く。だが、副作用が起こってしまえば二度と元には戻らないからな。仕事を終えた後は、魔法耐性のある者以外からは認識されずに孤独に生きなくてはならなくなる。ゆえに、昔は影などは強制的にこの魔法をかけられていたのだが、今は本人の意志を尊重している。本人が希望し、デメリットも理解した上で、認識阻害の魔法をかけるようになった」

「へぇ……。で、前から気になってたんだけど、影ってなに?」

 リアが呆れたかのように大きくため息をついた。怒られるのかと思い、ショウの肩がびくりと震える。

 しかし、ショウの予想に反して、リアが怒るようなことはなかった。

 ただ、呆れた視線を向けてくるだけだ。

「忘れたのか? お前は影だった人間に会ったことがあるぞ」

「あったっけ?」

 記憶の中で思い返してみるが、まったく覚えがなかった。

 脳裏に今まで会ったことがある人間の顔を思い浮かべるが、そんな人いたかなぁ、と首を傾げる。

 それを見たリアが再びため息をつき、「戦場で会っただろうが」と言ってきた。

「戦場……?」

 戦場で出会ったのは、部下たちとリアと将軍とーーーー

「……あ」

 思い出した瞬間、口から小さく声が漏れた。

「副官の人だ……」

 確かに、あの時にリアが「副官は王宮にあった元暗部出身で、影と呼ばれる存在だった」って言っていた気がする。

 影ってなんとなく聞いたような気がしていたのだが、あの時だったらしい。数年ですっかり記憶の彼方に飛んでしまっていた。

 確かに、あの人は気配を消すのはうまかった。ショウでさえも、本気で気配を消されたら存在をまったく感知できないくらいだった。それで、当時は元暗部で諜報活動を行なっていたと聞いて納得したのだ。

「思い出したか。あの時、将軍に付き従っていた副官は元暗部で影と呼ばれる存在だった。今でも将軍の元で働いているぞ」

「そうなんだ。あの二人、まだ一緒に仕事してるんだ……」

「というよりも、将軍が彼を離したがらないのだ。副官はなんだかんだ言いながらも優秀な人材だからな。彼が副官でなければ、軍はスムーズに動かない。将軍もそれがわかっていて、ほかに副官をつけるって話も出たんだが断っている状態だ」

「へぇ……」

 あの当時、将軍が副官のことを信頼しているのはよく伝わってきた。その信頼関係がまだ続いているようで安心する。

「副官は影だった時に認識阻害の魔法の話が出たらしいのだが、彼は元々気配を消すのがうまかったからな。そんな魔法に頼らなくても、他人に存在を悟られることなく敵陣へ潜入したりとかもできたから、話が出た時に速攻で断ったようだ。今となっては、それが正解だと思うがな」

 確かに、気配を消すのはうまかったから、認識阻害の魔法の副作用は必要なかっただろう。

「忘れてしまっていたらしいお前のために念の為に説明するが、影とは主に主人の命令を受けて諜報活動を行う者たちのことだ。王族はもちろんのこと、強い権力を持つような大貴族であればほとんどが専用の影を持っていることが多い」

 そう言われて、はたと疑問を覚える。

「リアたちも持ってるの?」

 リアの実家であるヴェアール家も歴史が古くて強い権力を持つ家だったはずだ。そういうのであれば、ヴェアール家も影を持っていても不思議ではない。

 ショウの問いかけに、リアはこくりと頷いた。

「ヴェアール家も影を持っていることは持っている。王族や貴族が影を持っていることは、一種のステータスで公然の秘密のようなものだ。貴族の間では当たり前のように知られていて、基本的に庶民の間では知られていないことが多い。今の影の主な仕事は諜報活動だが、一昔前では暗殺も担っていたらしいぞ」

「暗殺を……?」

 なんだか、一気に物騒な話になってきた気がする。

 ショウが訝しげな表情になったことに気づいたリアは、誤魔化すように咳払いをしてから説明を続けた。

「しかし、数代前の国王陛下が影による暗殺を禁止して、今では暗殺自体がほとんど行われなくなった。一時期は影による暗殺が盛んに行われていて、国内がかなり乱れたらしいからな。当然と言えば当然だ」

 それもそうだろうなぁ、とショウは思った。国を動かす者たちが次々と死んだら、国が乱れて当然だろう。そんな暗殺が盛んに行われる時代というのが、この国にもあったんだな、と思ってしまった。

 戦争はあったものの、この国は歴史的に見ても平和な時代が多いような気がする。なので、そういう歴史があったというのは驚きだった。たくさんの出来事を経て手に入れた平和な時代なのかもしれない。

 それが、戦争で一気に崩れたのだろうと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

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