セディル家のお家騒動の顛末について2-4
小さい身体にどれだけの力があるのか。殴られた男はくぐもった声を上げて、その身体は後ろへ吹き飛んだ。その際に手からは剣がこぼれ落ち、吹き飛ばされた身体は最終的に大きな木の幹にぶつかって動かなくなる。
その光景を見ていたほかの男たちは、パティが小さい子供ながらもただものではないことにやっと気づいたらしい。どうにか状況を挽回せねばと思ったのか、次にただ突っ立っているだけと思われるリアに目をつけたようだ。
それを見たショウは心の中で、あーあ、と思った。
ーーリアは一番手を出しちゃいけない人間だと思うんだけどな……
長身の男であるショウは男たちから無視されてすっかり蚊帳の外になり、目の前の光景が他人事のようになってしまった。黙ってことの成り行きを見守っていると、自然とリアに狙いを定めた男たちに可哀想なものを見るかのような視線を向けてしまう。
パティは、自分の相手をしてくれていた者たちがリアの方に行ってしまって残念そうな顔をしている。しかし、リアを庇うために動くとかそのようなことはしなかった。現に、つまらなさそうな顔はしているものの、その場からは一歩も動かない。
一気に四人の男たちが迫ってきているリアは、慌てる様子も見せない。
それもそうだろう。リアがこのようなごろつきたちに負けるわけがないのだから。
それに、今の彼らにはリアは髪色が金髪に見えているらしいから、魔法使いだとは気づいていないのだろう。だからこその暴挙だ。
黙って見守っていたショウは、リアが少しだけ楽しそうに笑ったように見えた。それを見て、あの男たちはもうダメだろうと思った。リアの手にかかれば、彼らはどう足掻いても逃げることはできないだろう。
杖は普通の人間が視認できないように幻影の魔法をかけているらしく、彼らにはまったく見えていないらしい。なので、リアの髪色と相まって、余計に魔法使いだと気づきにくくなっているようだ。
ショウは魔法耐性が高いために、一切の魔法の効果を受けない。なので、リアの手に握られている杖が普通に見えている。その杖についている魔鉱石の内部がキラキラと光り始めたのを見て、リアが魔法を使うのだとわかった。
かつん、と杖で小さく地面を叩くと、四人の男たちの足元に一瞬で魔法陣が浮かび上がったーーと思った瞬間に、その魔法陣から光の鎖のようなものが出てきて、男たちをがんじがらめに拘束した。
その場に倒れ込んだ男たちは、なにが起こったのかわかっていないようだ。なぜ、自分たちが動けないのか理解できずに呆然としており、その場で暴れるが光の鎖が解けることはなかった。
ーーこの鎖にも認識阻害の魔法がかかってんのかな……?
だとしたら、リアとショウには見えているけれど、パティとこの男たちには見えていないのかもしれない。
魔法使いであることを隠しているリアが魔法を使っていると知られたら面倒なことになるので、なるべく魔法だとわかりにくくした結果なのだろう。
リアは転がっている男たちを見据えたのち、彼らに背中を向けた。
少し歩いて遠ざかってから、「パティ、頼む」と短く告げる。
「わかった」
パティがそう答えると、男たちの顔がわかりやすいくらいに引き攣った。先ほど、パティの馬鹿力を目の当たりにしているために、容赦のないことをされるのだと察したようだ。
ゆっくりと近づいている小さな女の子に対して、悲鳴をあげて逃げようともがく男たちは、かなり滑稽な姿だった。この三人を狙ったのが彼らの運の尽きだと言わざるを得ない。
ショウは庇う気は一切ないため、その場から一歩も動かずに口も挟まない。
「まずは、一人」
パティがそう言って、トンファーを握った右手を仰向けに倒れている男の腹部に叩き込む。
鈍い音とくぐもった声が響いて、殴られた男が沈黙する。死んではいないだろう。パティは馬鹿力だが、そこらへんの力加減はできる子だ。それにショウが持っている長剣とは違って、トンファーは物理攻撃力は強いが殺傷能力は低めの武器だ。よっぽどのことがない限り命を奪うまではいかないだろう。
しかし、見ていてかなり痛そうではある。パティはリアが与えたイヤーカフに施された魔法によって身体能力が向上しているらしいし、普通の人間の骨くらいは簡単に折ることができるかもしれない。
殴った男が完全に気を失っているのを確認しているのか、パティが男の顔を覗き込んでいる。大丈夫だと思ったらしく、「二人目」と呟いたのを聞いて、ほかの男たちが震え上がる。
パティは、相手が絶対に逃げられないとわかっているため、恐怖心を煽るつもりなのか動作がかなりゆっくりとしている。
立ち上がって、次はその隣にいた男に狙いを定めたようだ。それに気づいた男は悲鳴をあげて命乞いを始めるが、パティは基本的にそういう言葉には耳を貸さないタイプである。
一切の表情を変えることなく、二人目の男の腹部に拳を叩き込む。一人目と同じく沈黙した。




