セディル家のお家騒動の顛末について2-2
リアはパティに追ってくる気配を監視させながら、夜になるのを待っているようだ。日が高くて明るい間は石畳の街道を歩き、時折パティに気配を探らせながら進んでいく。
しばらく歩いていると日が落ち、辺りが薄暗くなってくる。ショウは夜目が効くので問題がなく、パティは気配に敏感なので視界が暗くても問題ないようだ。しかし、リアは暗いとよく見えないらしく、動きにくいらしい。それでも頑なに灯りを使わずに街道を進み、辺りが完全に真っ暗になったところで、パティが「こっち」と言ってリアの手を引いた。
それに素直についていくリアと後を追うショウだが、パティが連れてきたのは街道の両脇にある森の中の洞穴だった。どうやら、パティはこの洞穴の存在をリアから聞いて案内してくれたようだ。
すぐにリアが洞穴内に結界を張る。幻影の魔法もかけて、外から中が見えないようにしたらしい。こちらからは普通に向こうが見えるが、向こうから見たこちら側はなにもない洞穴のようになっているとリアが説明してくれた。
「一応、見失ってくれたみたい」
パティがそう言ったことによって、リアは少しだけホッとしたようだ。
「この周りをうろうろしてる」
この森の中に入ったのを見て追ってはきたが、この洞穴の中に入った瞬間は見られずに済んだらしい。
リアが灯り用の魔法を使うと、途端に洞穴内が昼間のように明るくなった。
「しかし、いつまでもこの中にいるわけにはいかんからな。何かしらの手立ては考えなければならん」
そう言って腕を組んで考え始めたリアは、「この髪と瞳を隠すなんてことはしたくないのだがな。致し方あるまい」と言って、魔鉱石に魔力を巡らせる。
中心部が夜空のように輝き出し、それで地面をこつりと叩く。瞬時にリアの足元に魔法陣が現れ、それがリアの身体を下から上へ通り抜けた。
ーーと思ったのだが、そこにはいつも通りのリアがいた。
「……え?」
魔法を使う前と使った後でなにも変わっていない姿に、リアが魔法に失敗したのかと思って小さな声が漏れる。
あのリアが、魔法に失敗したのだろうか。
「……」
思わず、まじまじを見てしまう。
ーーやっぱり、なんにも変わってない……
「わぁ、お姉ちゃん、僕と同じ色だね」
パティはそう言って笑っているのだが、ショウの目にはどこからどう見てもいつものリアだ。
「……」
ーーパティの目には、違うように見えてるのかな?
あまりにも見すぎたのか、リアがぎろりと睨んできた。
「見過ぎだ」
「あ、ごめん。いつも通りのリアだから、なにが変わったのかがわからなくて」
ショウのその言葉に、リアは肩を竦める。
「当たり前だ。お前は魔法耐性が高いからな。私が幻影の魔法を使っても、お前の目には通用しない。だが、ほかの人間の目にはしっかりと私の姿は変わって見えているはずだ」
「どんなふうに変わってるの?」
パティへ訊ねると、「ボクと一緒」と答えがあった。
パティと同じと言うことは、今のリアは金髪碧眼に見えている、ということなのだろう。
「なんで、髪と目の色を変えたの?」
リアは魔法使いであることがなによりの誇りであるはずだ。幻影とはいえ、その誇りである赤色を隠してしまうのだから、なにかしらの理由があるのだろう。
パティはその理由についてわかっているようだが、ショウにはさっぱり心当たりがない。
「……絶対に見つかりたくない奴がいる」
小さくそう言ったリアの声が聞こえて、さらに首を傾げる。
ーー絶対に見つかりたくない……?
「お姉ちゃん、あの人のこと苦手だもんねー」
楽しそうにけらけらと笑うパティを見て、リアはあまり見ないような渋い顔をした。どうやら図星であるらしい。
「……」
リアが苦手な人……?
そう言えば前にどこかでそんな話をしたような気がするが、考えてみても思い出すことができなかった。
「リアにも苦手な人とかいるんだね」
やっぱり、リアにもそんな感情があるんだな、と感心しながら頷いていると、「当たり前だ」とリアが嫌そうな顔をする。
「私をなんだと思っているんだ。私にだって苦手な人間の一人や二人くらいいる」
「リアにそんな風に思われるなんて、よっぽどの人なんだね」
「あの人はすっごいよ」
パティの評価は抽象的すぎてよくわからない。だが、かなり個性的な人なのだろうと思っていると、リアがなにかを思い出したのかげんなりとした表情でため息をついた。
「……あいつは笑顔の下でなにを考えているかわからない化け物だ」
「ばけもの……」
そこまで言われるということは、よっぽど性格が変わっている人なのかもしれない。
だったら、会わないほうがいいかもしれないなぁ、とショウが考えていると、「とりあえず、次の街は食料の補給だけして泊まることなくさっさと出るぞ」と言った。
見つかる前にさっさと通り過ぎてしまいたいのだろう。
でも、リアの目立つ赤い髪を隠してしまえば、そう簡単には見つからないんじゃないかな、と思ったが、それでもリアは不安そうだ。
「とりあえず、この街道を歩いて行けば明後日には到着するはずだ。それまで、なんとしてでもあいつの目から逃げ切る」
無理だと思うけどなぁ、と呟いたパティをリアがぎりっと睨みつけ、「絶対に逃げ切る」と宣言して、リアはその場に座り込んだ。どうやら夜はここで魔法を展開したまま過ごすらしい。
「夜が明けないうちにここを出るぞ。今のうちに身体を休めておけ」
そう言って、昼間にローゼムがいた街で買ったパンを取り出す。リアは葉物野菜とハムが挟んであるパンで、パティは炙った厚切りベーコンが挟んであるパン、ショウはスライスされたウインナーとトマトと野菜が挟んであるパンを食べる。
いつもは乾パンだけの食事なので、こうやって違う種類のパンを食べるのは素直に嬉しい。
食べ終わった後は、リアが魔法の灯りを小さくして薄暗くし、三人で並んで眠った。ショウはなにか会った時のために、外に意識を向ける。暗い森の中を見つめていると、しばらくは周辺をうろうろする気配を感じていたが、それも時間が経つと消え去った。
ーー諦めてくれていたらいいんだけど……
そう思って、ショウは眠るために瞼を閉じた。




