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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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セディル家のお家騒動の顛末について2-1

  2.


 ローゼムと別れた後、リアは携帯食を手に入れるために市場へと繰り出した。

「この乾パンって、どこにでも売ってるんだな」

 目の前に並んでいる見慣れた乾パンを見つめながらショウが言うと、リアが「当然だな」と答えた。

「この乾パンは旅人には必需品だからな。作り方もかなり広まっているから、基本的にどこの街でも買えるぞ。それこそ、小さな村だって作り方は知っているはずだ」

「そうなんだ。乾パンの時にはこんなに小さいのに、炙ったらあんなに大きくなるんだから作り方がめっちゃ気になる」

「私も元々は存在を知っていたのだが、実際に食べたのはこの旅を始めてからだったな」

「オレは存在すら知らなかったけど……」

「まぁ、乾パンが開発されたのは戦争が終わる直前ぐらいだったはずだ。戦争が終わった直後に、旅人が大陸中を行き交うようになって、そこから爆発的に大陸中に作り方が広まった感じだな。そして、開発されたからたった二年と少ししか経っていないのに、今では旅人の必需品とまでなっている。私もこれほどまでに便利なものとは思わなかった」

 確かに、乾パン状態の時はかなり小さいし、たくさん持っていても嵩張らないし持ち運びは便利だろう。ショウとパティは一個では足りないが、普通の人間であれば一個で充分にお腹は膨れるだろうし、これは大陸中に広まってもおかしくはない。

 紙袋に入れられた乾パンを受け取ったリアは、店主に礼を言って代金を支払った。

「今日はこの街にも一泊するか……」

 リアがそう呟いて、昨日泊まった宿屋へ向かおうと一歩を踏み出した瞬間、その服の袖を掴んで引き留める者がいた。

「ん?」

 リアが振り返ると、そこにはパティがいた。彼女はリアの服の袖を掴み、なにかを訴えるかのように見上げている。

「どうしたのだ?」

 リアが首を傾げながら訊ねると、パティは小さく「……監視されてる」と言った。

 その言葉に、リアの顔に緊張が走る。

 ショウもその気配はすでに感じていたので、驚きはなかった。

 ローゼムの家を出た頃から、遠くから誰かが見張ってるなとは思っていたが、殺気などは感じられないため放置していた。だが、パティは監視してくる気配がどうしても気になるようだ。

「……影っぽい」

 かげ?

 ショウは首を傾げる。どこかで聞いたような気がしないでもない。自然と、自分の足元にある影を見る。

 ーー影ってこれのことじゃないよな……?

 不思議に思ってリアを見ると、なんとも言えないような苦い顔をしていた。心底嫌そうな顔に、どうしたんだろう、と思ってしまう。

「もうこんなところから監視しているのか? 厄介だな……」

 どうやら、リアとパティには監視してくる相手に心当たりがあるらしい。しかも、リアがこんなに嫌そうな顔をするような相手でもあるようだ。

「ショウ、予定変更だ。この街を今すぐに抜けるぞ」

「え、あ、うん」

 足早に歩き出したリアの後を追い、隣りに並んだショウはちらりとその横顔を盗み見た。

 真剣な表情で、なにかを考えている様子だ。

 監視している相手は、リアになにかしらの用でもあるのだろうか。それとも、リアの動向を監視しているだけなのだろうか。

 ーー厄介なことには巻き込まれたくないなぁ……

 亜人の勘で、先ほどからなにやら嫌な予感がするのだ。全身が不吉な気配にぞわぞわとする。

「とりあえず、街を抜けるのが先決だ。街を抜けた後は、夜の闇に紛れて監視の目を誤魔化す」

 どうやって誤魔化すんだろうと、風に靡く赤い髪を見る。この髪は世界でも類を見ないほどの色だから、どこにいたって目立つはずだ。それこそ、夜の闇の中だったら少しは見えにくくなるかもしれないが、監視の目を掻い潜るようなことはできないのではないか。

 色々と疑問に思うところはあるものの、リアにはなにかしらの考えがあるらしい。だったら、自分は黙ってそれに従うしかないだろうと判断したショウは、余計なことは言わないようにと口を閉ざす。

「パティは、監視している気配をずっと追っていてくれ。今のところは一人か?」

「うん。一人しか感じない。でも、増える可能性もあるよ」

「私もその可能性は感じている。向こうは絶対に見失いたくないだろうからな。本当に厄介だ。まだこの街であればバレていないと思っていたのだが……」

 リアが大きくため息をつく。リアにしては珍しく若干焦っているようにも感じるが、状況をいまいち理解しきれていないショウはなにがなんだかわからない。

「幸いなことに、あっちにショウの顔はバレていないはずだ。だから、対策するなら私だな」

 あっち?

 なんの話だろう?

 リアとパティの間では理解できているようだが、ショウはさっぱりわからない。

 そのうち教えてくれるかな、と思いながら、二人が話し合う作戦に聞き耳を立てる。全然状況がわからないショウは、完璧に蚊帳の外だった。

 とりあえず、余計なことは言わないようにしようと心に決めて、街を後にした。

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