セディル家のお家騒動の顛末について1-1
今日から、新しい話が始まります。
一応、第四章になります。
よろしくお願いします。
1.
「ーーあの子が近くに来てるらしいんだよね」
執務机に頬杖を突いて、楽しそうににこにこと笑っている主人に対して、使用人である青年が深くため息をついた。長年の付き合いから、彼が心底楽しそうに笑っている時は、なにか厄介なことを考えていることが多いからだ。
「なんだよ、そのため息は。だって、久しぶりに会えるんだよ?」
確かに、戦争が終わってからは一回しか面会していない。使用人である青年から見ても、主人があの子と呼ぶ人とは親しい雰囲気はまったく感じられない。主人が一方的に絡みにいっているような感じだ。
「会える時に会っとかないと、次はいつ会えるかわからないからね」
それぞれが離れた場所で暮らしているため、会うのは基本的に王都で開かれる貴族が集まる舞踏会くらいだ。そこで主人は思いっきり構いにいくのだが、相手はそれを嫌がっているのが誰の目から見てもよくわかる。
「あと一年くらいは会えないかなって思ってたんだけど、近くに来ているなら会いたいじゃないか」
嫌われているとわかっていながら、なぜそんなに気に入っているのか不思議でならない。
青年は再び深くため息をつく。この主人に気に入られてしまった相手の子に、深い同情を禁じ得ない。
「迎えを行かせたんだけど、街を出た後だったらしいからさ。今はここに向かって来ていると思って探させているんだけど、なかなか見つからなくて困ってるんだよねぇ」
心底つまらなさそうに言う主人は、執務机に頬杖を付いて大きく嘆息する。
あの人のことだから、全力で見つからないようにするのは目に見えている。この人に見つからずに通り過ぎてしまいたいはずだ。
「お言葉ですがーーーー」
青年が口を開くと、主人がこちらを見てニコリと笑った。その笑顔になにかしらの圧力を感じて、反射的に口を閉ざす。
「今はその名前を出しちゃダメだよ? どこに誰の目や耳があるかわからないからね。大丈夫だとは思うけど、念のため。ね?」
主人の言う通り、今はどこに誰の目や耳があるかわからない状況だ。外から部屋内部が見えないようにカーテンを閉め切っているため、部屋の中は薄暗い。だが、外の天気がいいためにカーテンの隙間から漏れてくる太陽光で魔鉱石で明かりを取らなくてもいいくらいの明るさは確保されていた。
「あーあ、僕も魔法を使ってみたいよなぁ……」
主人の髪は輝くほどの金髪であるがことが、魔力を一切持たない証でもあった。その代わり、使用人である青年の髪は赤く染まっている。この部屋は、赤い髪の青年の結界魔法によって外界とは隔離されていた。なので、この中でなにを話しても外部に漏れることはない。それでも、念のために相手の名前を出すな、と言う。
主人は青年の口の硬さに信頼を置いているため、誰にも聞かれたくない内緒話を結界を張った部屋の中でよくする。信頼されているのは嬉しいのだが、にっこり笑顔で無茶振りをされることも多いので、その度に転職しようかな、と遠い目で思ったりもする。
「でも、こっちに向かってきているのは間違いないんだよ。だから、久々に会えるんじゃないかなって楽しみにしてるんだよね」
本当に会えるのを楽しみにしているのだろう。目はキラキラと輝いているし、表情は満面の笑みだ。ただし、この主人はどのような時でも笑顔を絶やさないため、本当に笑っているのか愛想笑いなのかは付き合いが長くないと見抜くことができない。
今はお気に入りの子が近くに来ているということで、間違いなく会えるのを楽しみにしているのだろう。
この地方で独自の情報網を持っているこの人は、あのお気に入りの子の動向がすぐに耳に入ってくるのだろう。それくらいのお気に入りなのに、ずっと傍に置かないのだから不思議だ。何年も離れて暮らすことを許している。青年にはそれが不思議でならなかった。
「でも、残念ながら向こうは僕のことをあんまり好きじゃないみたいだから、挨拶もせずに行っちゃうかもしれないなぁ……」
心底残念そうに言う主人に、青年はそうだろうぁ、と心の中で思った。
主人はかなりのお気に入りだと思っているのに、逆に相手は主人のことをかなり苦手としている様子だ。それはとてもわかりやすいくらいだった。昔から、あの子は主人のことを苦手としていた。それでもお構いなしに、主人はグイグイと距離を詰めていく。そこがまた苦手と思われる部分なのだろう。
「会いたいなぁ……」
でも、今の状況では簡単に会うのは難しいだろう。主人もそれはわかっているはずだ。
そこで、主人が面白いことを思いついたような表情をした。




