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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場17−3

 その言葉に、リアもショウも目を見開いて驚く。二人の視線がリアの杖の先に向かい、同時にローゼムを見る。

「レンゼムが……、これを採掘したのか?」

 信じられない、と思っているのが伝わってくるような声音だった。リアが本気で驚いている。実際、ショウもかなり驚いた。無意識に、視線がリアの杖についている魔鉱石へと向かう。

 これを採掘したのが、レンゼム?

「兄が言っていたので間違いないかと。当時は北の地方での採掘は一攫千金を狙える仕事でしたので、兄も参加していたんです。あの時の私たちはまだ未成年で、そんな子供が二人で食べていくだけの給金をもらえるだけの仕事を紹介してもらえず……。なので、兄は当たれば大金が手に入ると聞いて北の地方の鉱山に行っていたらしいです。私には、出稼ぎに行ってくる、とだけ言って家を出たのですが」

 そして、とローゼムは言葉を継いだ。

「ある日、突然帰ってきた兄は、かなり質の良い魔鉱石を採掘することができて、サウス=リアクターの名のある魔法使いの貴族が、かなりの大金で購入してくれたと言って大金を手に帰ってきたんです。まさに、兄は一攫千金を手にしていました。その魔鉱石を買ったサウス=リアクターの名のある魔法使いの貴族がヴェアールの方だとは思いませんでしたが」

「……そうか」

 だとしたら、レンゼムはリアの杖についている魔鉱石が自分が採掘したものであると一目でわかったはずだ。これほどまでのレベルの魔鉱石は、そんなに多くはないはず。

 サウス=リアクターの名のある魔法使いの貴族。その貴族が持っている魔鉱石は自分が採掘したものに似ている。レンゼムの中で点と点がつながったはずだ。

「……」

 レンゼムは、どんな気持ちでこの魔鉱石を見ていたのだろうか。

「ヴェアール家の方が高値で購入してくださったおかげで、兄が亡くなった後も国境を超えるだけの路銀はありましたし、ここに店を構えるだけのお金も工面できました。本当に、ヴェアール家の方には頭が上がりませんね」

 リア様、とローゼムは言葉を続ける。

「その魔鉱石は兄が残した形見のようなものです。それを見るたびに、兄のことを思い出してあげてください」

「ああ」

「今日は、本当にありがとうございました。もしも、私がヴェアール領に移住した時には、お会いできると嬉しいです」

「私も目的を達成したら、領地へ帰るつもりでいる。その時までに移住していたら会えるかもしれないな」

 リアが手を差し出したのを見て、ローゼムが少しだけ驚いた表情をした。貴族の人間が平民に握手を求めるなど、本来ならありえないことだ。でも、リアはそれを気にしない。

 ローゼムは嬉しそうに微笑んで、リアの手を握った。

「リア様の旅の目的が達成されますことを、心よりお祈りいたしております」

「ありがとう。私も、あなたの研究が無事に成功することを祈ろう」

「はい」

 二人は手を離す。

 ローゼムの店の前の通りに立つと、風が吹いた。リアの赤い髪が靡き、ショウの黒銀の髪が揺れる。ローゼムの少し長めの髪が顔にかかって、彼はそれを耳にかけた。

「行ってらっしゃいませ、リア様、ショウ様、パティ様」

 そう言って頭を下げたローゼムに、リアが背中を向ける。その後にショウとパティが続いた。

 リアは一度歩き出すと、後ろを振り返ることはしない。それがなぜなのかはわからないが、ショウはローゼムのことが気になり肩越しに振り返ると、ローゼムがこちらに向かって軽く手を振っているところだった。

 本当に、どこまでもレンゼムと似ていて、どこまでもレンゼムとは違う人だった。

 前を歩くリアに視線を向けると、戦場で過ごした日々を思い出す。あの時も、ショウはずっとリアの後ろをついて回っていた。

 しばらくして、リアがふと足を止めた。

「どうしたの?」

 ショウが不思議に思って足を止めると、リアは一歩後ろへ下がった。

 自然と、リアの身体がパティとショウの間に入る。

 三人で並ぶと、リアが「今はこうだな」と一人で納得したようにうんうんと頷いた。

 わけがわからないショウがわずかに首を傾げると、リアが赤い瞳で見上げてきた。

「今は目的を同じにする仲間だ。お前は私の後をついてくるのではなく、対等に隣りに並ぶべきだ。なぁ、パティ」

「うん」

 そうか。

 今の自分はリアと対等なのか。

 ヴェアール家の次期当主であるリアと対等だなんておこがましいかもしれないが、リア本人がそれを認めてくれている。

 対等な立場である仲間なのだと。

 戦場で後ろ姿を追いかけていたあの頃とは違うのだと、リアが言う。

 だから、ショウは躊躇いもなく一歩を踏み出してリアの隣りに並ぶ。

「行くぞ」

 リアがそう言って前を向いた。

 空は晴れている。

 背後から吹いてくる風は背中を押してくれているような気がした。


 ーー『……』


 なにかが聞こえたような気がして振り返るが、そこには誰もいない。大通りにはたくさんの人が行き交っているが、誰もショウのことを見てはいない。

 なにかを感じた場所を見つめるが、誰もいないはずなのにどこからか誰かに見られているような、そんな気配がする。

「なにをしているのだ?」

 リアの声が聞こえて、慌ててそちらを見る。リアが不思議そうな顔をして、こちらを振り返っていた。

 もう一度背後に視線をやるが、先ほど感じた気配はもうなかった。

「いや。なんでもない」

 ショウはそう答えて歩き出す。

 ーーじゃあな、レンゼム……

 心の中でそう呟いて、ショウは再びリアの隣りに並んで歩き出した。

『信頼と裏切りの戦場』は、今回で終了となります。

 明日からは、新しい話を始める予定です。

 プロットは一応作成しているのですが、結末が決まってないため、書きながら結末を考えていきたいと思います。

 予定では、今回の『信頼と裏切りの戦場』と同じくらいの長さになる予定です。

 よろしくお願いします。

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