信頼と裏切りの戦場17−2
質の悪い……?
どういう意味なのかがわからずに不思議に思っていると、その表情で理解していないのだとわかったらしいリアが、持っていた魔鉱石をショウの掌に乗せた。
ショウの拳くらいの大きさがあり、見た目よりも重かった。ずしりと重さを手のひらに感じて、油断していたショウは一瞬だけ魔鉱石を落としそうになる。
手のひらに乗せられた魔鉱石は中心部がキラキラと輝いており、リアが言うにはこれが魔力が込められている証らしい。中心部の煌めきが少なくなってくると、内部の魔力が減っている証であり、その煌めきが完全になくなってしまうと魔力切れとなり、明かりが灯らなくなるようだ。
一目で魔力があるかどうかがわかるのは便利だな、と思ってから、リアの杖の魔鉱石を見てみると、明らかに透明度が全然違うことに気づいた。
リアの魔鉱石は赤いのは同じなのに向こう側が透けて見える。鉱石ではなくガラスなのではないかと疑問を覚えるほどの透明度だった。手元の魔鉱石を見てみると、まったく向こう側が見えない。親指と人差し指で持って太陽に透かしてみたが、それでも全然光が透けるようなことはなかった。
そんなショウを見ていたリアは、「それが、質が悪いと言われる魔鉱石だ」と言った。
詳しい説明を求めるように、ショウはリアに視線を向けた。
「魔鉱石自体はこの大陸のどこでも採掘されているから、市場によく出回っている。ただし、私の魔鉱石のように不純物が限りなく少ない質のいい魔鉱石の主な産地はノース=カイマートのさらに北の地方だ。その地方では、質の良い魔鉱石が採れる鉱山が多く、魔法使いが持っている魔鉱石のほとんどはその地方で採掘されたものが多い。もれなく、私の魔鉱石もそのうちの一つだ」
「この国でも魔鉱石は取れるんだよね? それでも、ノース=カイマートのそこの地方で採れる魔鉱石を使うの?」
サウス=リアクターの魔法使いであれば、サウス=リアクターで採れる魔鉱石を使った方がいいのではないかと思っての疑問だったのだが、リアが首を横に振った。
「サウス=リアクターでも魔鉱石は採れることは採れる。実際、国中にたくさんの鉱山が存在しているからな。だが、この国で採れる魔鉱石は魔法使いが使うには質が悪すぎて、人々の生活で使うくらいでしか使い道がない。それに、そのような魔鉱石に価値なんてほとんどないし、供給過多なくらいに市場に出回っているからな。だから、庶民でも手が出るくらいの値段で売られている。ただし、その魔鉱石に魔力を込めるには魔法使いにお金を支払うか、魔力が込められている魔鉱石を繰り返し購入して使い捨てるか、だな。それゆえに、質の悪い魔鉱石はよっぽどのことがない限り、盗まれることもない。だから、こうやって明かり用として外に置いておくこともできる」
へぇ、と思わず声が漏れた。
どうやら魔鉱石は透明度や不純物の混ざり具合でランク付けされているらしい。
ノース=カイマートが魔鉱石の産地であることは耳にしたことがあったが、魔鉱石にも質のいいものと悪いものがあるのは知らなかった。世の中にある魔鉱石は全部リアが持っているものみたいなやつばかりかと思っていたから、普通に驚きだった。考えてみれば、今までリアやパティと一緒に行動していて、たくさんの魔鉱石を見たような気がする。意識していなかっただけで、身の回りにたくさんの生活用の魔鉱石が存在していたのだろう。
リアは自分の杖についている魔鉱石を、こんこん、と指先で叩いた。普通に鉱石がぶつかるような音がする。魔法を使う時は澄んだ金属みたいな音がするのに、魔力が込められていなかったら本当にただの鉱石なのだろう。
「私の父もこの魔鉱石を手に入れるために、ノース=カイマートの最北端の鉱山に足を運んだと言っていたからな。不純物がほとんどなくて透明度の高い魔鉱石が採掘されたらしいという話を聞いて、直接買い付けに行ったようだ。確か、ノース=カイマートに存在する最北端の鉱山だったと聞いたことがある。その鉱山は質の良い魔鉱石がよく採れると有名だったらしいからな。今から十四年ほど前だったかと思う」
「……その噂は耳にしたことがありますよ」
そう言って、なにかに気づいた様子のローゼムはリアの杖についている魔鉱石に視線を向けた。
「これほどまでの魔鉱石が採掘されれば、大陸中の貴族や名のある魔法使いが欲しがりますから、国内でかなり噂になるんですよ。そうですか……、ヴェアール家の方の手に渡ったのですね」
なぜか、懐かしいものを見るかのような目になる。
それを不思議に思ったリアが、「どうしたのだ?」と訊ねると、ローゼムは困ったかのような表情で苦笑する。
「いえ……、これも神のお導きなのかと思いまして」
「どういうことだ?」
「リア様がお持ちの魔鉱石を鉱山で採掘したのは、たぶん兄だと思います」




