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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場16−3

 巨大な炎の塊に気付いた兵士たちが、逃げ惑うようような声をあげてその場から走り出す。

 それを聞きながらも、ショウはその場から一歩も動かなかった。違う。動く必要がなかった、というのが正しいかもしれない。

「隊長! 逃げてください!」

 静かにその迫り来るものを見ていたショウに対して、走って逃げてきた隊員が声をかけてきた。

 その場に突っ立っているショウの腕を掴み、「隊長! 早く! 死にたいんですか⁉︎」と引っ張ってくる。

 それでも、ショウはその場から動くことはなかった。

 死にたいわけあるか。

 死ぬために、最前線にいるわけじゃない。

 守りたいものがあるから、ここに来たのだ。

 ただ、大きな炎の塊は無情な速さで迫り来る。走るだけでは、絶対に逃げ切れないだろう。これが、戦場では魔法使いが剣士よりも強いと言われている所以。剣では魔法に絶対に敵わない。

 ショウがあの炎の塊に切りかかっても、まったく歯が立たないだろう。

 だから、周りの兵士たちと同じでこの場は逃げるが正解なのだ。ただし、逃げたからといって助かる可能性も低いのだが。

 それでも、ショウの中には大丈夫だという安心感しかなかった。

 脳裏に不敵に笑う、赤い髪の少女が過ぎる。

 だって、こっちにはーーーー


 キィンーー……


 先ほどまで目の前にあった炎の塊が一瞬にして消え去り、それと同時に空から澄んだ音が響いた。

 キラキラとした残骸らしきものが地面に降り注ぎ、それらは音もなく空気に溶けるように消え去った。

 あまりにも一瞬の光景を、誰もが呆然とした様子で見ている。

「なにが……」

 驚いた様子で呟いた部下に、「俺たちには赤い女神がついているからな。なにも恐れることはない」とショウが言うと、ハッとした様子で見上げてきた。

「リア=ヴェアール様!」

 その言葉に、次々と逃げ惑っていたサウス=リアクターの兵士たちが反応した。

「そうだ! 俺たちにはリア=ヴェアール様がついている!」

「リア=ヴェアール様がいる限り、我らの勝利は約束されている!」

 声をあげた兵士たちの士気が上がったのがよくわかった。

 この場の雰囲気に、ノース=カイマートの兵士たちが呑まれていくのが見える。

 兵士たちの士気は充分に上がった。このまま押し切れば勝てる可能性は高い。

 そう思ったショウがわずかに後ろを振り返る。ずっと後方にいるリアの存在を確かに感じた。

 ーー行こう!

 背中は任せた。自分はただ突き進むのみ。

 ショウが一歩を踏み出すと、前方にいた敵軍の兵士たちが見えないなにかに吹き飛ばされて、一直線の道ができあがった。

 それを驚いた様子で見ていると、背中から吹いてきた風に、とん、と軽く押されたような気がした。

 ーー行けってことか……

 これはリアが作り出した道だ。

 リアと共に戦っているのだと実感した。

「行くぞ!」

 ショウが声を上げると、部下たちも声を張り上げた。

 駆け出したショウに続いてくる。ショウはリアが作り出した道を走り出し、迫り来る敵兵士たちを薙ぎ倒していく。

 ショウや部下たちが危なくなった場面では、まるでその場で見ているかのようにリアが魔法で助けてくれた。遠く離れた場所にいるのに、座標を狂わすことなくピンポイントで魔法を出現させて助けてくれる。

 本当に、これほど心強い仲間はいない。

 だからこそ、ショウは戦場を思いっきり駆け抜けた。

 何度か敵軍の魔法使いが魔法を使う場面があったが、それらはすべてリアが防ぎ切ってくれた。それに加えて、何度も敵軍を魔法で攻撃して撹乱してくれる。だから、なにも怖くはなかった。

 敵軍の魔法使いが魔法を使えば、それ以上の魔法をぶつけて敵兵士たちの戦意を削っていく。逆に、リアが魔法を使うたびにサウス=リアクター軍の兵士たちの士気は上がっていく。世界最高峰の魔力を持つリアだからこそできる戦い方だった。

 もともと、相手側の魔法使いはそれほど多くの魔力量ではなかったらしく、数発の魔法で魔力が枯渇したらしい。その後は魔法が使われることはなく、リアは自軍の兵士を魔法で手助けすることに集中できるようになった。

 最前線の兵士たちの手助けをしながら、魔法で敵軍の中心部を襲い、壊滅的なダメージを与えていく。

 ショウたち、最前線にいる兵士たちが戦場でなにか行動を起こそうとすれば、それを読んでいたかのように先回りして魔法を使って道を作ってくれる。そんな場面が何度もあった。

 この場にいないのに、一緒に背中を預けて戦っているような、そんな気持ちになる。


 そんな日々が数ヶ月続き、サウス=リアクターの勝利で戦争は終わりを告げた。


 その後、ノース=カイマート国王から和平の申し込みがあり、サウス=リアクター国王がそれを受け入れたことにより『フーゲン大陸南北不可侵絶対条約』が締結され、両国の間には平和が訪れた。

 魔物の脅威はあるものの、それでも人々は前を向いて歩いていけるようになった。

 戦場で共に戦った仲間たちと別れ、ショウは里へ戻り、リアはヴェアールの領地へと戻った。

 そして、二人の道は二度と交わることはなかったはずだった。


 一つの存在が二人が守りたかったものを奪わなければーー……

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