信頼と裏切りの戦場15−4
「リアには本当に申し訳ないとは思ったよ。でも、あの時はそうするしかなかった。その後ろめたさでリアとはギクシャクしちゃうし、結局そのまま疎遠になったし。それだけはずっと後悔してた」
「あの時のお前の態度は、そういう理由だったのか……。私はてっきり、レンゼムを簡単に軍に入れてしまったことを怒っているのかと思っていた。私があの時に見抜けていれば、こんなことにならなかったのにと責めているのかと思っていたぞ」
そんな風に思っていたのだとは知らず、ショウは慌てて首を横に振る。
「そんなことを思ったことないよ。実際、レンゼムの演技がうますぎてオレだって見抜けてなかったし。あの場にいた全員が完璧に騙されていたと思う」
「……そうか」
リアは少しだけホッとしたような様子を見せた。
そこで、ローゼムが口を開いた。
「でも、今ここに二人でいらっしゃるということは、その時のわだかまりはなくなったということですね」
「まぁ、あれから数年は経ったので気まずさはなくなりました。再会した時に、リアが普通に声をかけてくれて正直ホッとしましたよ」
「逆だ。お前が普通に私に話しかけてきたからだ。あれだけ気まずそうにしていたお前が、私に対して何事もなかったかのような態度を取るから、私も昔のようにお前と接することができた」
「まぁ、あの時はそんな余裕もなかったし、知り合いと出会えた安心感がすごかったっていうか……」
「時間が解決してくれたということですね」
「そうなるな」
ローゼムの言葉にリアが答え、二人揃って頷く。
「しかし、レンゼムの死後、あまり間を置くことなくフレストでは戦争が始まった。あの戦場でたくさんの人間が戦死し、私とショウはなんとか生き残ることができた。最終的にはサウス=リアクターの勝利で終わったが、それは両国が多大なる犠牲を払った結果だ」
「レンゼムはリアを生かすことが、自分を裏切ったノース=カイマートに対して一つの反抗になると考えたと思う。リアがいれば、この戦場での勝敗はサウス=リアクター側にかなり偏るだろうから。だから、リアを殺そうとする演技をしながら自分を監視している者たちを騙し、自分が死ぬことによって弟が生きながらえる道を作ったんじゃないかなって」
「どう転んでも、兄に生きる道はなかったということですね」
諦めがついたような声音。これでもう、ローゼムが兄の面影を求めて彷徨うことはないだろう。
「あの時、レンゼムは守りたいものがいるって言ってたけど、弟のことだったんだな。自分の命を投げ打ってでも、弟を守りたかったということか……。レンゼムらしいと言えばらしいかもしれん」
リアが納得いったように小さく微笑んだ。
結局、あの場にいた者たちはそれぞれになにかを抱えて戦っていたということ。
それぞれに守りたいものがあって、帰りたい場所があった。
レンゼムは命よりも大事なものを守るために、自分の命を犠牲にした。リアとショウを利用する形で。
それは特別なことじゃない。そういうことは戦場ではよくある。
「リア様、ショウ様。ありがとうございました。兄の話が聞けて、よかったです。私も諦めがつきました。もう兄を探すのはやめます。これからは、兄の分までどうやって生きるかを考えていきます」
そう言ってローゼムは頭を下げる。少ししてから頭を上げた彼の笑顔は、憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
言葉通り、レンゼムのことに対して諦めがついたのだろう。ずっと本当に死んでいるのか、実はどこかで生きてるんじゃないかと思いながら過ごす日々だっただろうから、これでローゼムは過去に縛られることなく前を向いて生きていけるはずだ。
ローゼムはリアに視線を向ける。
「リア様。旅で薬が必要にはなりませんか? 今なら、兄のことを教えてくださったお礼に薬を調合いたしますよ。当店は様々な薬の調合ができますから、ご期待に添えるかと思います」
その言葉にリアは少しだけ目を瞠って驚いた様子を見せたものの、すぐに楽しそうに笑った。ローゼムの提案が面白かったようだ。
「商魂逞しいな。そういうのは嫌いではないぞ」
その言葉を、彼は褒め言葉と受け取ったらしい。
「ありがとうございます」
「……そうだな。いくつか欲しい薬があるのだが、頼んでもいいだろうか」
「喜んで。お代もいりません」
「いや、それは支払わせてほしい。労働の対価はしっかりと支払わなくては、ヴェアール家の名が廃る」
「そういうことでしたら、受け取らせていただきます」
その後、リアはいくつかの薬の注文をはじめ、ショウは黙ってその様子を見守る。
傷薬や体調不良になった時の薬などを注文している姿に、レンゼムのことを強く引きずっている様子は見受けられなくて、ショウは密かに安堵した。




