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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場15−2

「あんなに貴族を嫌っていた兄が、リア様と関わったことで考えを変えてくれたなら、それは嬉しい限りです。母を死に追いやった祖父のような貴族ばかりではないのだと、最後にわかってくれたのなら……」

 ローゼムのその言葉に、ショウは深く頷く。ショウだって同じ気持ちだった。

「レンゼムは確かに自分の祖父のことは憎んでいたと思うよ。自分たちを助けてくれたはずの国には最後の家族であるあなたを人質に取られて敵軍に潜入するように強要され、彼は何度も信頼したものに裏切られ続けて絶望すら感じていたと思う」

 絶望の中で、唯一の心の拠り所だった弟を人質に取られた時のレンゼムの心境は計り知れないものだったはずだ。それでも弟を守るために、考えうるすべての策を講じて、彼は戦場で命を落とすことを選択した。

 すべては、大事な弟を守るために。

「生きている限り、レンゼムはあなたの命を盾にノース=カイマートにいいように扱われてしまう可能性があった。だから、敵兵の手にかかって命を落としたという合法的な逃げ道を使うことを思いついた。それに利用されたのが、リアとオレだったんじゃないかな」

「……本当に、すべてはレンゼムの手のひらの上ってことか」

 リアが納得いったかのような声音で呟く。

 自分の目的のために利用できるものは利用する。あの時のレンゼムの考え方は、リアやショウとまったく一緒だった。

「レンゼムの想定外は、憎んでいたノース=カイマートの貴族であるリアが彼の知っている貴族とはまったく違ったってことみたい。最期に、『リア様のような貴族の方に早く出会っていれば』って言っていたよ」

 そう言えば、とリアはレンゼムが最期を思い出す。

 レンゼムはずっとリアのことを『リア様』と呼んでいた。どんなに怒っている様子を見せても、その呼び方を崩さなかった。

 あれは、レンゼムなりのリアを認めているという意思表示だったのだろう。今となっては本当のところはわからないが、ショウはそうではないかと思っている。

「レンゼムの気掛かりは、あなたがすべてを知ってしまった時、自分を責めるのではないかということだったらしい。でも、今のあなたを見ていたらわかるけど、それはレンゼムの杞憂で終わりそうだ」

 確かに、リアも貴族としては考え方が変わっているタイプだが、ローゼムはローゼムで同じく考え方が変わっている方だ。

 ここまで知っても、自分の兄を殺した相手を責める様子をまったく見せないのだから。

「でも、兄の最期を知ることができてすっきりしました。これで、兄の面影を追いかけずにすみます」

「もしもこの土地から離れるつもりがあるのであれば、ヴェアール領に行くことも選択肢の一つに入れておいて欲しい」

 リアがそう言うと、ローゼムは「そうですね」と笑った。

「ヴェアール領は研究者の間では有名ですよ。研究費用を惜しみなく出してくれると。そして、結果を残した場合には、その研究で得られた売り上げのほとんどを研究者に還元してくれ、その上で成功報酬も出してくれると。研究者には夢のような土地ですね」

「研究で得られた成果は研究者のものだ。その成果を中抜きするのは、研究者の意欲を削ぐ行為に等しいとヴェアール家は考えている。それに、研究成果によってはそれを目当てに領地内の財政が動く。そうなると、売り上げのほとんどを研究者に還元したとしても、ヴェアール領はそれ以上の富がもたらされるからな。研究者には、そのお金を元手に新たな研究をしてもらい、その研究成果によってさらに領地を発展させてもらう意味も込めている」

「それを考えると、ヴェアール領は研究者を大事にしてくれるので、今後はそこへの移住も選択肢の一つかもしれません」

「もしもあなたがヴェアール領にくるのであれば、私は歓迎しよう。今は兄が当主代理を務めてくれているので、兄に一筆書いておく。移住した場合には、ヴェアールの屋敷を訪ねるといい」

「ありがとうございます」

 そこで、ローゼムが冷め切ったお茶を飲む。それを見たリアもカップを手に取って口をつけた。

「……これは」

 少し驚いた様子でカップを見つめているリアを見て、不思議に思ったショウもお茶を一口飲む。

 その瞬間に、口の中に広がったのは甘い香りだった。温かかった時の比ではないくらいに、強い甘い香りだった。

 二人のその反応を見たローゼムは、「驚きましたか?」と楽しそうに笑う。いらずらが成功した子供のような表情だ。

「このお茶、冷めるとさらに甘い香りになるんです。不思議ですよね」

「……ああ」

 リアはもう一度カップを口へ運ぶ。どうやらお気に召したようだ。

「兄にも飲ませてあげたかったです。父の故郷には、こんなものがあるんだよと」

 その言葉に、ショウはローゼムに対して頭を下げた。

「本当に、申し訳ありませんでした」

 あの時、レンゼムを斬らなければ今頃この人の隣にはレンゼムの姿があったかもしれない。そう思うと、ショウはやるせない気持ちになった。

 でも、レンゼムを斬らなければ、リアとショウはここにはいなかっただろう。

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