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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場14-9

「だったら引いてくれ」

 ショウの懇願するような一言に、レンゼムはカチンと来たらしい。苛立った様子を見せて叫んだ。

「ここで引いたら、守りたいものが守れねぇだろうが!」

 強く足を踏み込んで駆けたレンゼムが振り下ろした剣を受け止めて流す。レンゼムの言う通り、剣はあまり得意ではないらしい。太刀筋がわかりやすかった。

 体勢を崩した彼の脇腹を思いっきり殴りつけると、なにか硬いなにかにショウの拳を跳ね返した。どうやら、服の下になにかを仕込んでいるようだ。

 それでも衝撃はあったらしく、小さく息を呑んだレンゼムが「くそが!」と叫んで、剣を逆手に持ち替えてショウの背中を突き刺そうと振り下ろす。

 それに気づいたショウがその場から逃げようとしたが、レンゼムに服を掴まれていて動けない。掴まれている部分を破って逃げようとか判断する暇もなかった。

 衝撃と痛みを覚悟する。

 だがーーーー


 がぎん


 甲高いような鈍いような、そんな音が響いた。

 覚悟していた衝撃も痛みもなく、代わりにレンゼムの驚いたような声が響く。

「なっ!」

 レンゼムが後ろへ跳び、ショウから距離を取る。自由になったショウが振り返ると、レンゼムは呆然とした様子で握っていた剣を見つめていた。

 その手には刀身が真っ二つに折れた剣が握られており、なにが起こったのかを考えたショウは一つのことに思い当たってハッとしてリアを見る。

 ショウの視線を受け、木箱の上にいるリアは力強くこくりと頷いた。

 ーーそうか……。守護の魔法か……

 今のショウは、リアの魔法で守られている。それを数時間ほど前に見たばかりだった。すっかり忘れていた。確かに彼女の言うとおり、今のショウに通常の攻撃は通用しないのだろう。だとしたら、存分にレンゼムの相手をすることができる。

 驚いて剣を見つめていたレンゼムだが、折れた剣をギュッと握りしめ、「うぜぇ」と吐き捨てて、それを投げ捨てた。忌々しそうな瞳をリアへと向ける。

「やっぱり、こいつにはお前の魔法がかかってんのかよ! 今のは確実に殺せると思ったのに!」

 確かに、リアの守護の魔法がなければ今ので確実にショウは死んでいただろう。ショウは相手が人間だからだと油断している自分の気づき、考えを改めることにした。

 人間は亜人よりも身体能力が劣っている。だが、その油断で命を落とせばリアやルトからどう言われるかわからない。

 身体強化の魔法がかけられた人間は、亜人と同等の身体能力を手に入れることができる。だとしたら、今のレンゼムの身体能力はショウと同等レベル。少しの油断で負ける可能性だってある。

 ーーオレが負けたら、リアが殺される……

 リアが殺されたらこの戦争には確実に負ける。たくさんのサウス=リアクターの兵士が死ぬことになるだろうし、国土が蹂躙されればたくさんの国民が死ぬことにもなるだろう。

 だから、ショウは絶対にレンゼムに負けてはならないのだ。

 また隠し持っているナイフを取り出すのかと思っていると、「リア様!」と第三者の声がした。

 ハッとした三人がその声のした方向へ視線を向けると、副官が数人の兵士を連れてこちらに向かって駆けているところだった。

 あの鉄面皮の副官が珍しく焦った様子を見せていることに若干の驚きを覚えたショウは、視界の端でなにかが動いたような気がして、そちらの方へ目を向ける。

「よそ見すんじゃねぇよ!」

 そう叫びながら、目前にまで迫ったレンゼムがショウに対して高く足を振り上げた。

「ッ!」

 一瞬で反応したショウがその蹴りをぎりぎりで躱すと、レンゼムが猛追してきた。足だけの攻撃で一撃、二撃、三撃と続けて攻撃してくる。一撃がかなり重い。ブーツの踵に取り付けられている小型のナイフに気をつけながら、ショウはぎりぎりでレンゼムの蹴りを躱し続ける。

 確かにレンゼムは剣術ではなく、体術の方を得意としている感じだ。そこに魔法による身体能力の底上げが行われているとしたら、亜人であるショウが苦戦するのも仕方ないだろう。

 ーーオレにリアの身体強化の魔法をかけることができたら……!

 そう思っても仕方ない。亜人は魔法耐性が高いから、魔法を直接身体にかけることができないとリアから説明されたので理解はしている。だが、身体強化の魔法をかけられて亜人と同等の身体能力を手に入れたレンゼムの姿を見ていると、やはりこの魔法があればとは考えてしまう。

「リア様、ショウ=アステール! そのまま聞いてください!」

 ある程度まで近づいてきた副官が声を荒げる。あの人がこんな大声を出しているところは初めて見た。

「その者が村の若者だと騙った村が存在していた場所から少し離れたところで、複数の遺体が発見されました! その数はざっと二百人ほど! 私たちは、その遺体はあの村本来の村人ではないかと考えています!」

 その言葉にショウは目を見開き、目の前のレンゼムを見る。

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