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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場14−8

 彼を信用してしまった自分を責めているのだろう。そして、敵兵だと気付かずに軍に入れてしまったことを悔やんでいるに違いない。

 頭の中で色々と考えている雰囲気を感じる。

「あんなにわかりやすい罠に引っかかっちゃって。俺は心の中で大爆笑でしたよ。いくらヴェアール家の次期当主でも、まだまだ子供なんだなって。案外、すんなりとサウス=リアクター軍に入れて驚いちゃいましたよ。結構難しいだろうなって思っていたんですけど、簡単すぎて拍子抜けしました。そんなに俺の顔はあなたの国の人間に見えますか? 俺はあなたの国のことは大っ嫌いなんですけどね。黙ってないで、なんとか言ったらどうなんですか、リア様!」

 レンゼムがこちらに向けて、ナイフを投げてきた。その切先はまっすぐにリアへと向かっており、それに気づいたショウが長剣でそれを弾き飛ばすと、目の前がふっと暗くなった。

 はっと目を向けると、目の前にレンゼムの姿があった。ナイフに意識を向けさせ、一気に木箱を登ってきたらしい。

 人間にしては動きが素早すぎる。もしかしたら、敵国の魔法使いから身体強化の魔法をかけられているかもしれない。レンゼムは普通の人間のようだから、魔法耐性もなさそうだから魔法を直接身体にかけることは可能だろう。

「魔法使いが接近戦に弱いことはわかってるんだからな!」

 この距離でリアが魔法を使えば、確実に三人とも巻き込まれる。リアとショウは魔法耐性でダメージを受けることはないだろうが、魔法による衝撃を受けるのは間違いない。レンゼムはそれがわかっていて、危険を犯してまでも接近戦に持ち込む気でいるようだ。

 武器を持たないレンゼムの手がショウの胸元へ伸ばされたが、それよりも早くショウの手が彼の胸ぐらを掴み上げ、一気に地面へと振り落とす。

 抵抗する暇もなく落下するレンゼムは空中でくるりと体勢を変えて着地し、ブーツの中に隠していた投げナイフを瞬時に取り出し、ショウに向かって投げる。それを顔を軽く傾けることで避けたショウに、レンゼムは三度舌打ちをする。

「さすがは最前線を生き残ったやつだな。全然歯が立たねぇわ」

「だったら、投降してくれないか?」

 ショウの問いかけに、レンゼムははっと笑った。

「誰が、お前らサウス=リアクターの人間に投降するかよ。お前らの捕虜になるくらいなら、死んだ方がマシだな」

「……」

 本当に、レンゼムはサウス=リアクターが嫌いなようだ。言葉の端々に、この国の人間に対する憎しみのようなものを感じる。

 ノース=カイマートとしては、戦争している敵国の人間は嫌悪の対象なのだろう。サウス=リアクター側は、ノース=カイマートにこれほどまでの憎しみを覚えていない。国土を侵そうとしてくるから応戦しているだけに過ぎない。

「ーーショウ、私に構うな。レンゼムを捕らえてくれ」

 背後から声が聞こえ、ショウは肩越しにちらりとリアを見やる。

 決意を固めたような強い眼差しがこちらに向けられており、リアはこの状況を受け入れたのだとわかった。レンゼムが敵国の人間で、自分を殺すためにサウス=リアクター軍に潜入したのだと、しっかりと理解した上での頼みだった。

 こくりと頷いたショウは、高く積まれた木箱の上から降りる。

 地面に着地すると、レンゼムが「もう高みの見物はいいのか?」と訊ねてきた。それには答えず、長剣を構える。それがショウの答えだった。

 レンゼムはどこに隠していたのかわからないナイフを再び手にし、一気にショウに迫った。

 一撃、二撃、三撃、とナイフによる攻撃を防いでいると、地面に片手を突いたレンゼムの足が振り上げた。レンゼムのブーツが目の前をものすごいスピードで通り、反応が間に合ってぎりぎりで避けることができた。きらりとしたものを見た気がして視線だけを向けると、レンゼムのブーツの踵に小さなナイフのようなものが飛び出していた。

「……っ」

 もう少し避けるのが遅かったら、あの刃物で目をやられていたかもしれない。視界を失ってしまえば、いくらショウが亜人でもレンゼムが有利になる可能性が高くなる。

 ーーレンゼムは本気だ……

 それがわかったショウは、振り上げられていたレンゼムの足を掴んで背負い投げる。

「ッッッ!」

 レンゼムが大きく目を見開いて体勢を整えようとするものの、それよりも早く予備の武器を入れていた木箱に背中から強くぶつかる。武器同士が木箱の中でぶつかり合い、大きな音がした。もしかしたら、今の音でほかの隊長たちが目を覚まして、ここに駆けつけてくる可能性がある。

「……っ」

 すぐに置い上がったレンゼムは、自分の背後にある剣の存在に気づき、一本引き抜いた。

「剣で敵わないのはわかってるんだけどな。それでも、俺はお前と戦わなくちゃならない」

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