信頼と裏切りの戦場14−5
亜人は基本的に隠れ里からは出てこない。リアもそれをわかっている上での質問だった。
ショウはこくりと頷く。
「するんじゃないかなって思ってる。ルトは里の中じゃ変わり者って呼ばれてるから。物事に対する考え方が昔から変わってるんだ。オレはそこが面白いと思ってるんだけど、ほかの者たちからは白い目で見られてる。だから、ルトは少し肩身が狭いんだよ。両親すらも、ルトの考え方を否定してるからな。あの里で、オレ以外の理解者はいない。そんなルトは人間社会だったら、あの里よりものびのびと生きられるんじゃないかなって思って」
「そうか……。それなら、里を出るのも選択肢の一つかもしれないな」
リアは反対もせずに賛成してくれた。それが嬉しかった。里の者たちだったらショウの考えを正そうとするだろうから、その何気ない賛成の言葉はショウに明るい未来を見せてくれた気がした。
「いい住処が見つからなかった場合は、ヴェアール領に来るといい。お前なら喜んで受け入れよう」
実際に亜人が住んでいるという話を聞いたヴェアール領は、ほかの貴族の領地よりも亜人を受け入れる体制が整っていて居心地がいいかもしれない。
ルトと結婚したら、ヴェアール領を目指して里を出るのもいいかもしれないと思い始める。
「ありがとう、リア」
礼を言ったショウは食事を再開し、すぐに食べ終わる。
リアの分の食器も片付けたショウが結界魔法をすり抜けて出入り口の外にまとめて置いておく。あとで配膳係の兵士が持っていってくれるシステムになっているのだ。
その後は他愛もない話をしながら夜の帷が降りていくのを確認し、ほかの隊長たちが自分たちのスペースに戻って寝静まるのを待つ。
「そろそろ行動を起こすか」
そう言ってベッドから立ち上がったリアを見て、ショウもその場から立ち上がる。もうなにを言ってもこの子を止めることはできないだろうと、ほとんど諦めの境地だ。
それに、兵士からこれ以上の被害者を出さないのはショウも望んでいること。新たな被害者を出さないためにも行動を起こすしかないだろう。
リアは持っていた杖の魔鉱石で地面を叩き、結界魔法を解く。途端に開かれたような空気が漂い始め、虫の鳴き声や夜番の兵士たちの話し声がかすかに聞こえてくる。
ショウが少しだけ天幕をめくって周囲を見回すと、周辺に人の姿はなかった。本営内にも人の気配は感じられない。今は見回りの時間ではないらしい。
敵軍の間者が潜り込んでいるかもしれないから見回りを強化すると思っていたので、人の姿がないのを不思議に思ってしまう。
すると、リアが後ろから「将軍に頼んで人払いをしてもらったのだ」と言ってきたので、それで納得した。
振り返ると、リアは魔法使いのみが着ることを許される赤いローブを身に纏って、顔を隠すようにフードをかぶっているところだった。輝くようなリアの赤い髪は隠れたが、赤いローブを着ていることによって、誰もがリアだとわかるだろう。
それが、リアの狙いだった。
「では、行くとするか」
リアはショウの立っている出入り口に向かって歩き、ショウの前で立ち止まってこちらを見上げてきた。
「念のため、お前の周辺に守護の魔法のほかに違う魔法をかけておこう」
「……そんなことができるの?」
「身体に直接作用させる魔法であれば重ねがけは負担を与えてしまうが、身体の周辺にかける魔法であれば重ねがけは可能だ。身体に直接魔法をかけているわけではないからな」
そう言って、ショウの胸元に指先で小さく円を描いた。そこに小さな魔法陣が現れ、杖の魔鉱石が小さく光ったと同時にその魔法陣も淡く光る。その瞬間、ほんの一瞬だけだが自分の気配が揺らいだような気がした。
「……?」
一瞬だけ感じた変な感覚に、ショウは不思議そうな表情で自分の両手を見下ろす。特に自分の身体に変わった様子はない。
「今の……なに?」
「お前の気配をかなり薄くした。気配を隠すのがうまいのはわかっているが、念のためだ。姿が見えないというわけではないから、気配に敏感なものはすぐにその存在に気づけるだろう。だが、普通の人間であればその姿を視認するのはかなり難しくなる」
そんな魔法もあるのか、と思わず感心してしまう。ますます便利な力だなぁ、と思ってしまった。
もう一度フードを深く被り直したリアは、「行くぞ」と言って天幕から出ていく。
その姿を見送ったショウはしばらくしてから天幕をくぐった。リアを見失わず、なおかつリアが一人でいるように見える距離を保って、物陰に隠れながらリアの後を追った。
リアは一度本営内を歩き、そのまま何気ない様子で人気の少ない荷駄置き場に向かう。そこは用事がなければ誰も立ち入らないような場所で、見回りもほとんどないような場所だ。ショウがリアに連れ込まれた思い出の場所でもある。あの時と比べると少しだけ荷物の位置が変わっているが、薄暗くて人気がないのはあいかわらずだ。
その荷駄置き場に入ったリアは、なにかを探すような仕草をする。その様子を物陰から息を殺して見つめていたショウは、一つの迫り来る気配を感じて反射的にその場から走り出す。
こちらに背中を向けているリアに向かって煌めく白刃が迫る。ショウは背負っている長剣を瞬時に抜き、一気に距離を詰めてそれを弾いた。
金属がぶつかり合う音が響き、リアに迫っていた白刃はくるくると回りながら高く空に上がり、そのまま落ちてきて少し離れた場所で地面に突き刺さった。
ショウが第二撃に備えて長剣を構えると、その後ろでリアが振り返ったのがわかった。ショウを信頼して、わざと相手の攻撃に反応しなかったのだろう。
「お前だな? 二人の兵士を手にかけた犯人は」
そう言いながら光の魔法で相手の顔を照らしたリアは、大きく目を見開く。




