信頼と裏切りの戦場14−3
魔法耐性はもしかしたら厄介な体質なのではないかと思っていたのだが、こういう側面ではかなり便利であると思い知らされた。リアもいちいち魔法を解除しなくていいし、ショウとしても気が楽だ。
結界を通り抜ける時は薄い膜で身体を撫でられるような感覚がするのだが、不快な感じはしないので気楽に通り抜けができる。
リアの話では、この軍内部では結界魔法をすり抜けられるほどの魔法耐性を持っているのはリアが確認する限り、リアとショウのみらしく、亜人の混血種である将軍はある程度の魔法耐性は持っているものの、結界魔法を無効化できるほどのものではないらしい。なので、リアは将軍と会う時は一回一回張ったり解除したりする必要があるようだ。
結界をすり抜けて天幕を開けたショウは、少し離れた場所から二人分の食事を持って近づいてくる見知った兵士の姿があることに気づいた。相手もショウに気づいて笑顔を向けてくる。
「お待たせいたしました、ショウ隊長。お食事です」
そう言ってショウの目の前で立ち止まった兵士は、にこにこと笑って食事が乗ったトレイを差し出した。
「こちらがリア様の分で、こちらがショウ隊長の分です」
受け取った後に手で説明されたのだが、明らかに量が違うので言われなくても一目瞭然だった。リアの食事量はショウから見れば心配になるくらいに少なく見えるのだが、リアからは「これくらいで充分だ」と言われただけだった。
人間はそんなに食べなくても生きていけるのだろうかと疑問に思ったのだが、考えてみれば部下たちはかなりの量を食べている気がするので、リアが特別少ないのではないかと思い直す。里にいた同じくらいの子供ももう少し食べていたような気がするので、この量で普通に活動できているリアが不思議でならない。
食事を作っている人も持ってくる人も、リアの量が少ないことをなんとも思っていないらしく、これが当たり前だと思っているようだ。
「ありがとう」
とりあえず、礼を言う。食事を届けてくれた若い兵士はニコリと笑って敬礼した後、背中を向かて歩き出した。また少し経ったら食器を取りに来るのだろう。聞いた話では、厨房担当の兵士なのだが、まだ入ったばかりの下っ端なので包丁すら触らせてもらいないらしい。各隊長たちに食事を届け、頃合いを見て食器を下げて回り、その食器を洗うのが主な仕事だと言っていた。それでもいつかは料理を担当したいと言っていた。
兵士の姿を見送ってから、両手で持っている食事を見下ろす。右手がリアで、左手がショウのものだ。一見すると普通の食事に見えるのだが、今回のもリアは念に念を入れて浄化魔法を施すのだろう。
とりあえず、浮かんだ疑問を頭の隅に置いて、器用に天幕を開けて結界をくぐる。途端に、ふわりと全身を薄い布で触られたような感覚がした。この感覚がなければ、ショウは結界魔法の存在には気づけないだろう。
「リア、食事だって」
そう言って、ベッドに座っているリアの近くにある丸テーブルに二人分の食事を置く。
「もうそんな時間になったのか……」
呟いたリアはすぐにショウの分から浄化魔法をかけ始める。食事の上に手をかざすと、リアの手のひらからきらきらとした粒子のようなものが食事に向かって落ちていく。これが浄化魔法であるらしい。
最初はリアが砂をこぼしているように見えたショウだが、これはリアの体内で精製された可視化された魔力であるらしく、この魔力が人間に害を及ぼす危険性のあるものを無効化するようだ。
リアは詳しく説明してくれるのだが、ショウとしては「そうなんだ」と言う感想しか思い浮かばない。どういう原理でどういう作用が起こるのかと説明されても、まったくもって理解できなかった。斬ることしかできないショウとは違い、リアはどういう原理でどういう作用が起きるのかを理解した上で魔法を使っているらしい。
この少女の頭の中には魔法に関するそういう情報がたくさん詰まっているようで、何倍もの時間を生きているはずのショウは少しだけ自分の無知が恥ずかしくなる。けれど、それも仕方ないかと開き直ることにした。魔法とまったく関係ない場所でずっと生きてきたのだ。魔法に関する知識がなくて当然だろう。里の知恵者と呼ばれる学者の家の本棚にも、魔法に関する本なんてまったくなかった。魔法の説明が少しだけ載っている本を一冊見かけた程度だ。
「終わったぞ」
リアの手のひらから舞い落ちるキラキラした粒子を見つめて考え事をしていたようで、リアの言葉でハッと我に返る。どうやら浄化の魔法が終わったらしい。
ショウの分の食事が乗ったトレイを差し出され、それを受け取る。
「前から思ってたのだが、お前もよく食べるんだな」
「……も?」
その口ぶりでは、まるでショウ以外にもよく食べる人物を知っているかのように聞こえる。




