信頼と裏切りの戦場13−2
ショウの言葉に、ローゼムは大きく目を見開いた。
「ひと、じち……?」
言葉の意味は理解できているのに意味がわからないと言ったような表情をして呟いたローゼムは、それ以上なにも言えなくなってしまったようだ。
隣で、同じくリアが唇を引き結んだのがわかった。当時のレンゼムがどれだけ悩み、どれだけ傷ついたのかを、やっと知ることになっただろう。
「自分が死んだ後、ノース=カイマートが大事な弟に危害を及ぼすのを恐れたレンゼムは、母方の親戚を調べ上げて無理を承知で弟のことを頼む手紙を送ったんだと思います」
「……兄は、自分が死ぬことをわかっていたということですか?」
「死ぬことがわかっていたというよりも、レンゼムは死ななければならないような状況に置かれていたのではないかと。大事な弟を守るためには、自分がそれしか手段がなかったのだとと言っていました」
「……」
ローゼムは口を閉ざした。ショウの話す内容が、まったく予想していなかったことだったらしい。兄を追い詰めたのは自分だったのだと知ったからだ。ローゼムの存在がレンゼムを死へと追いやった。
だが、レンゼムは死ぬ間際になっても弟を責めるような言葉は一つも口にしなかった。ショックを受けている様子のローゼムに、それだけは伝えなければならないとショウは決める。
「レンゼムはサウス=リアクター軍に潜入する兵士の一人として選ばれたが、元々はその役目を担うのはあなただった。レンゼムはそれを知って、あなたの代わりに戦場に行ったんです」
ショウは言葉を重ねる。
「リアの目を欺いて無事にサウス=リアクター軍に潜入したレンゼムは、命令を守るために兵士を手にかけた。命令を守らざるを得なかった。じゃないと、あなたが殺されるからだ」
「ノース=カイマートは私を人質にして兄を脅し、いいように利用していたということですか?」
「そうなる。この世界に残されたたった一人の大切な家族を守るために、レンゼムはサウス=リアクター軍の兵士を手にかけた。敵軍内を混乱させ、その解決のためにリアに魔法を使わせ、その魔力を削ったところで攻め入る目的のためにだ。その駒にあなたの代わりに戦場へ行ったレンゼムが選ばれた」
予想だにしていなかった言葉に絶句するローゼムだが、そんな彼にショウは「レンゼムは自分にもしものことがあった場合、あなたをノース=カイマートから守れるように手を打った。それが、母方の親戚にあなたを託すことだった」と言う。
「母方の親戚の方々が私によくしてくれたのは、そういう理由があったからということですか?」
「推察になってしまうけど、そういうことだとオレは考えてる。天涯孤独の身になってしまう弟を心配したレンゼムは、必死に母方の親戚の所在を調べたはずだ。ノース=カイマートに残しておけば、自分がしくじった際にあなたに危害が及ぶかもしれない。あなたがこの国から逃げるためには、ローゼムに危険を承知で国境を越えてもらわなければならない。だが、意味もなく国境を越えさせることはできない。そして、レンゼムが考えたのが、自分がいなくなった後は母方の親戚を頼るようにさせること。あなたは母方の親戚に移住を勧められ、レンゼムの望み通り国境を越えた。サウス=リアクター国内であれば、ノース=カイマートからの手が届かなくなると考えたんだと思う」
「私は……、自分で考えて行動しているようで、兄の手のひらの上だったということですね」
力なく笑うローゼムは、兄がそんな立場に置かれているなんて思いつきもしなかったのだろう。ショウだってレンゼムから聞くまでは知りもしなかった。そして、リアですら知らない話だ。
「兄がショウ様に斬られるまでの話を聞かせてもらえますか?」
「……レンゼムはリアを手にかけることを望んではいなかったと思う。それでも、あなたを守るためにリアを狙うしかなかった。レンゼムには監視がつけられていたからだ」
ショウのその言葉に、リアがハッとしたような表情になる。
「まさか、レンゼムと一緒に軍に志願した者たちか?」
こくりと頷いたショウは言葉を続けた。
「あの人たちもレンゼムと同じで、サウス=リアクターで生まれた両親を持ち、ノース=カイマートで育った人たちだったんだと思う。だから、リアを簡単に騙すことができた。あの人たちは、レンゼムの監視だったみたい。レンゼムが命令通りに動くか、命令に背いた場合はすぐにローゼムを殺すぞという脅しの意味も込めて」
「……それでは、レンゼムは命令に従うしかないではないか」
リアの唖然とした様子に、ショウはこくりと頷く。
「だから、レンゼムは命令に従った。あの日もーーーー」
言葉を切ったショウはリアとローゼムを交互に見て、レンゼムの最期の姿を脳裏に思い浮かべ、口を開く。
「レンゼムの最期になったあの日、レンゼムは命令通りにリアを狙った」




