信頼と裏切りの戦場13−1
13.
「兄は、リア様を殺害するためにサウス=リアクター軍に潜入したのですか?」
さすがに驚きを隠せない様子のローゼムに、ショウはこくりと頷いた。
「本人が言っていたので、間違いないと思います。そして、レンゼムは悩んでいたと思います」
「……悩む?」
「はい。リアを殺すことについて、レンゼムはかなり躊躇っている様子でした。でも、当時のレンゼムにはリアの命を殺すしか道はなかった」
レンゼムがリアの命を狙わなければならない理由。リアはそれは自分の母親を追い詰めた祖父と同じ貴族だからだと思っていたのだが、ローゼムはそれだけではないと言う。加え、ショウもほかに理由があるのだとほそめかすようなことを口にする。
軽く混乱する二人は、ただ黙ってショウの言葉の続きを待つ。
その状況で、ショウは話を変えることにした。
「ローゼムさんは、どういう経緯でサウス=リアクターに来ることになりましたか?」
「……え?」
話の流れが突然変わったことに、ローゼムは小さく声を漏らす。リアとショウとパティの三人の視線を受けながら、少し戸惑った様子を見せた。
リアは少しその後、少し視線を下げて口元に指を当てる。考え込んでいる時の仕草だ。それを視界の端に映しながら、ショウは言葉を記憶を思い返しているような表情のローゼムを見つめる。
「私は……、兄が生きているのではないかと思っていて、この国にくれば兄に会えるのではないかと思ったからで……」
それは、先ほど聞いた内容と同じだ。本当に、レンゼムの死を信じることができなかったのだろう。
「生まれ育った街を出るきっかけになった出来事がありますか?」
ショウの言葉に、ローゼムが怪訝そうな表情を見せる。話の流れが読めなくて困っているのがよくわかる。
「国境を越える決心をするくらいのきっかけがあったんじゃないですか?」
ショウは問いを重ねる。
いくら戦争が終わったからといって、終戦直後に国境を越えるのはかなり大変なことだ。国境付近には未だに盗賊が出るという話だし、戦場となった場所には穢れが溜まっており、数多くの魔物が跋扈していて人間が近づける場所ではなくなっているらしい。
それでも危険を冒してでも国境を越えようと決めたきっかけがあるはずだ、とショウは訊ねている。
ローゼムはショウの言葉に、考え込むような仕草を見せる。サウス=リアクターに来るまでの過程を思い返しているのだろう。
「兄が死んだと聞かされた後、これからどうすればいいんだろうと途方に暮れていると、サウス=リアクターに住む母方の親戚の人から手紙が来て、それに移住を勧める話が書いてあったからーーーー」
そこまで言って、ローゼムはハッとした表情になった。
「そういえば、どうして母方の親戚は私の住んでいる場所を知っていたんでしょうか……?」
レンゼムとローゼムの両親は、駆け落ちという形で国を出ている。貴族であるフィッツラルド卿から逃れるために、誰にも居場所を教えてはいなかったはずだ。
なのに、母方の親戚は居場所を知らないはずのローゼムの元へ手紙を送ってきた。どうやってその住所を知ったのか。平民が居場所を探すのはほとんど不可能であるはずだ。
両親は身内に居場所を教える前に亡くなっているようだし、残されたローゼムに心当たりがないとすれば、導き出される答えは一つ。
「兄が……、母方の親戚に私が住んでいる場所を教えたってことですか?」
ローゼムが出した答えに、ショウがこくりと頷く。
「レンゼムはどうしてもあなたを守りたかった。そのためには、あなたがノース=カイマートにいては危険だと判断したんです。無視されるかもしれないことを承知で、レンゼムは母方の親戚を頼った。自分になにかあれば弟を頼みたい、と。そして、レンゼムが戦死したことを知った親戚は、手紙に書いてあった通り、あなたをノース=カイマートから出すためにこちらに来るように勧めた」
ショウの今の言葉で、リアはなにか思い浮かんだのかハッとした表情を見せた。
ローゼムの方は、気づいていないようできょとんとした様子を見せる。
「私がノース=カイマートにいたら危険? それは一体どういうことですか?」
ショウは小さく深呼吸をする。これから先は、ローゼムの予想を裏切るような内容かもしれない。自分のせいだと責めるかもしれない。それでも、ショウは話すと決めた。
誰も知らない、リアすらも知らない、ショウしか知らないことを。
「レンゼムは人質を取られていた。だから、ノース=カイマート軍の上層部からの命令に逆らうことができなかったんです」




