第七十七話 白洲の裁き
収二郎、間崎哲馬、弘瀬健太の三人に下された罪状は、「藩主の頭越しに朝廷へ働きかけ、令旨を私的に得た越権行為」であった。
藩の評定所、重々しい沈黙の中で、詮議役が三人に、その罪状を読み上げた。
「平井収二郎、間崎哲馬、弘瀬健太。おんしらは、藩主の命を待たず、青蓮院宮様へ直に接触し、令旨を賜り、それをもって先々代・豊資公へ改革を迫った。これは、藩の秩序を乱し、主命を軽んじる、重大なる越権にござる」
その罪状は、命に関わるほどの重罪と断じられた。詮議役の声は、淡々としながらも、重い響きを持っていた。
「おんしらの行いは、たとえ国を思う一心から出たものであったとしても、藩という秩序の根幹を揺るがすものである。これを見逃せば、以後、家臣の誰もが、勝手に朝廷や他家と通じ、主命を軽んじることになりかねぬ」
その理屈は、収二郎たちにとって、決して理解できないものではなかった。だが、理解できることと、納得できることは、また別の話であった。
「……我らは、ただ、土佐の行く末を案じたまでにございます」
収二郎が、静かに、しかし、はっきりとした声で、そう述べた。だが、その言葉に、詮議役は、何の反応も示さなかった。
「言い訳は、聞かぬ。……沙汰を申し渡す」
その言葉に、評定所の空気が、一段と張り詰めた。だが、三人には、一つだけ、最後の「武士の情け」が残されていた。彼らは、郷士とはいえ、士分を持つ身である。士分ある者には、たとえ死罪であっても、斬首という不名誉な処刑ではなく、自らの手で腹を切り、武士としての誇りを保ったまま死ぬことが許される。それが「切腹」という、最後の慈悲であった。
「……三名とも、切腹を申し付ける」
その沙汰が下された時、収二郎は、静かに、深く頭を下げた。その顔には、もはや、恐怖の色はなかった。
(せめて、武士として、死なせていただけるがか。……それだけが、救いじゃ)
その安堵にも似た思いを、収二郎は、隣に控える間崎、弘瀬と、無言のまま、分かち合っていた。三人は、互いに、一度も、目を合わせようとはしなかった。だが、その沈黙の中に、確かな絆が、まだ、通い合っていたのである。
その沙汰の報せは、間もなく、瑞山の元にも届けられた。それを聞いた瞬間、瑞山は、その場に、崩れ落ちるようにして座り込んだ。
「……そんな、馬鹿な」
瑞山の声は、震えていた。あれほど懸命に、涙ながらに嘆願したにもかかわらず、容堂の決断は、覆ることがなかった。
(わしが……。わしが、悪かったのだ)
瑞山の胸に、深い自責の念が、津波のように押し寄せた。
(わしが、殿の御心を、見誤ったのだ。……いや、それだけではない。わしが、あれほどまでに、殿を信じ切っておったからこそ、収二郎たちに、正しい忠告一つ、してやれなんだ。あの者たちが、あれほど危うい橋を渡ろうとした時、わしが、もっと早くに、その危うさを、はっきりと諭してやっておれば……)
その悔恨は、瑞山の魂の奥深くに、消えることのない傷跡として、刻み込まれていった。切腹という「武士の情け」が与えられたことに、瑞山は、僅かばかりの安堵を覚えながらも、その安堵の裏で、自分自身への激しい断罪を、止めることができなかったのである。




