第百四話(エピローグ四話)雪解け
その瞬間、同席していた元勤王党の面々の胸に、熱いものが込み上げた。長年、心の奥底に澱のように溜まっていた、言葉にできない悔しさ、怒り、悲しみ。それらが、板垣の真っ直ぐな言葉によって、雪解けのように溶け出し、流れ去っていった。
一同は顔を見合わせ、二十数年ぶりに、心の底から晴れ々々とした心持ちで、半平太の思い出を語り始めた。
隅の席でその光景を見つめていた富子は、膝の上で震える自分の手を、もう一方の手でそっと抑えた。半平太が江戸から送ってきた「七回の謁見」に喜ぶ手紙。あの手紙を読んだときの半平太の輝きが、ようやく今の板垣や後藤の言葉によって「正義」として認められたのだ。
(半平太様、聞こえましたか……。土佐の皆が、あなたに頭を下げています。あなたのあの一途な『誠』が、長い年月をかけて、ようやく土佐の心を一つにしたのです)
もし、その問いかけが、本当に空の向こうまで届いていたなら――半平太は、少し遅れて、ようやく気づいたような顔をしていたかもしれない。
(……ほう。そうか。ようやく、そういうことになったか)
生前、あれほどまでに焦がれ、あれほどまでに求めていた「殿の御心」も、「土佐の一致」も、半平太が生きているうちには、ついぞ手に入らなかった。それが、彼の死から二十六年もの歳月を経て、ようやく、こんな形で結ばれようとは、半平太自身、想像だにしていなかったに違いない。
(皮肉なものだ。わしが命を懸けて求めたものは、わしが死んでからでなければ、手に入らなんだのか。……いや、それでよい。それで、よかったのだ)
外は、麗らかな五月の陽光が降り注いでいた。かつて土佐の赤土を濡らした悲劇の雨は、今や、新しい日本を潤す清らかな川の流れへと変わっていた。
半平太の三文字割腹、そして富子の板間での祈り。その物語は、ようやくここに、一つの大きな区切りを迎えたのである。




