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第百一話(エピローグ一話)贈正四位

 明治24年(1891年)5月8日。東京、九段坂上。初夏の風が薫る靖國神社の境内に、かつて土佐の歴史を動かした面々が顔を揃えていた。

この日、執り行われたのは武市半平太への「贈正四位」奉告式である。「罪人」として、あまりにも凄絶な最期を遂げてから26年。半平太はついに、坂本龍馬や中岡慎太郎らと共に、国家の功労者としてその名誉を完全に回復されたのである。

式典の席、ひときわ静かに、しかし凛とした佇まいで座る老婦人がいた。半平太の妻、富子である。彼女は実弟の島村笑児を伴い、遥々高知からこの日のために上京していた。

富子はすでに、六十を過ぎた歳月を数えていた。夫を失ってからの二十六年という長い時間は、決して平坦なものではなかった。夫の菩提を弔いながら、養子として迎えた甥を育て上げ、幾度となく、夫を「逆賊」と呼ぶ声を耳にしながら生きてきた。それでも富子は、一度たりとも、夫の名を恥じたことはなかった。

(この日を、生きて迎えられるとは、思うてもおりませんでした)

汽車に揺られ、遥々高知から東京へと向かう道中、富子の胸には、様々な思いが去来していた。夫が生きていた頃には、想像すらできなかった速さで、時代は移り変わっていた。蒸気の力で走る汽車、洋装の人々、電信という不思議な仕組み。夫が命を懸けて夢見た「新しい日本」は、半平太が思い描いていたものとは、まったく違う形で、確かにこの国に訪れていた。

富子の目の前には、信じがたい光景が広がっていた。祭壇の前に進み出たのは、かつての土佐藩主・山内豊範。そして、かつては敵味方に分かれ、夫を、そして勤王党を徹底的に追い詰めたはずの、あの後藤象二郎であった。さらには、共に戦った板垣退助、佐々木高行、土方久元、田中光顕……。

彼らが一列に並び、半平太の霊前に向かって、深々と、長く頭を垂れている。その背中は、かつて「柳川左門」を翻弄した権力者の傲慢さも、同志を死に追いやった冷酷さも消え失せ、ただ一人の偉大な先駆者に対する、心からの敬意と懺悔に満ちているように見えた。

(ああ、半平太様……ようやく、ようやくこの日が……)

富子は、この光景を、半平太にどうしても見せたかった。あの獄中で、震える手を隠しながら書いてくれた手紙の一枚一枚を、富子は今も、大切に文箱の底に仕舞っている。あの手紙に込められていた、誰にも見せなかったであろう弱さと、それでも決して折れることのなかった誇り。そのすべてが、今、この瞬間、静かに報われようとしていた。

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