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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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8/22

正義の腕の中が、逃げ場だった

町外れの廃ビル群。今日もヒーローとの小競り合いだ。


……とはいえ、俺の役目はいつも通り、やられ役。

敵組織ディヴァイアンの“モブ戦闘員”として、ヒーローに吹き飛ばされ、転がって、死んだふりをする。ただそれだけのバイトだ。


俺は全身スーツにマスクを被り、指示通りに配置につく。

聞いた話では、今日現れるのはイエロー一人。


(それが本当なら平和だな)


イエローは比較的まともなタイプだ。戦闘も最小限、流れ作業のように処理して終わる。体感的には、そこそこ当たりの現場。

俺は適当に威圧感っぽいポーズを取りつつ、頭の中では晩飯のことでも考えていた。


「イエロー、現場到着!」


廃ビルの天井を破って、黄色いスーツの男が飛び込んでくる。ヒーローらしい決め台詞と共に。

それを合図に、周囲の戦闘員たちも戦闘モードに入った。

俺も一応、それっぽく構えだけは取っておく。吹き飛ばされる準備くらいはしておかないと。


そう思っていた、次の瞬間。


「グリーン、援護に入ります」


聞き慣れた声が、戦場の空気を一変させた。


(あー……誰か冗談だと言ってくれ……)


すぐさま通信がザワつく。


『グリーン?嘘、編成にいたっけ?』


『え、マジで来るの!?なんで!?』


こっちが聞きたい。スーツの中で、俺は思わず深いため息をついた。

イエローが肩越しに振り返って、困ったように言う。


「グリーン…今日は別任務だったはずだろ~?」


「処理は全て終えました。こちらに365番が入っていると聞いたので」


何を言ってるかは聞こえないが、嫌な予感しかしない。

グリーンが俺のいる方向を一直線に見てくる。というか、他の敵戦闘員は視界に入ってないらしい。


その視線だけで、背筋がうっすら寒くなる。


「また今日も、こんな危険な現場に……。健気ですね」


「お前、敵組織の戦闘員にそういうこと言うのやめろ。混乱するだろ」


グリーンは視線を逸らすことなく、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。

身の危険を感じるのでこれ以上近づかないで欲しい。


もはややられ役どころか、現場ストーカー被害の真っ只中である。


(あ、待って、本気でヤバい)


一応中ボスポジションの敵がいるので、こちらに一直線に向かってくるのはやめていただきたい。


まずい予感を察知し、俺はさりげなく近くで起きた爆発のタイミングに乗じて、勢いよく吹き飛ばされたふりをして──倒れた。


瓦礫の陰に転がり、静かに“死んだふり”モードに入る。


(よし、完璧なやられ役。これでスルーしてくれ)


──だが、甘かった。

グリーンの足音が止まり、すぐそばまで近づいてきた気配がする。


「365番、安心してくださいね。私がすぐに助けますから」


(いや、ちょっとまって怖い怖い)


イエローが慌てて間に入る。


「ちょっとグリーンさん~?何しようとしてるのかなぁ?」


イエローが苦笑気味に手を広げて、グリーンの前に立ちはだかる。


「まずはこっちじゃなくてね?中ボスの方が奥にいるから、まずそっちから倒そっか?」


グリーンは一瞬だけイエローを見る。そして、微笑んだ。


「もちろん、後ほど。まずは彼を保護します」


「いや、保護って……それ敵!それ敵側の戦闘員だからな?ね?」


「重傷の可能性もあります。安全を確保し、早急に救護処置を」


「だからそれこっちがやった側ね!?グリーンこっち側の人間だよね!?」


「承知しています。ですが、365番に関しては、例外です」


「なんで!?」


イエローの絶叫が、廃ビルにこだまする。


(まったく話が通じてないぞこれ)


スーツの中で、俺は静かに息を殺す。


こっち見るな。絶対気づいてるだろ、死んだふりって。頼むから空気読んでくれ。

グリーンは穏やかな笑みを浮かべたまま、俺にそっと手を伸ばしてくる。


「起きてください、365番。ああ、でも無理に動かなくて大丈夫です。あなたのことは私が守りますので」


(だから俺、死んだふり...)


周囲の敵戦闘員たちはすでに戸惑いの極地にあり、中ボスですら様子を見て動けずにいる。


「ダメだ、こりゃ……」


イエローは目を伏せ、深くため息をついた。

そして、グリーンが俺をそっと抱き上げた。

死んだふり中の俺は抵抗もできず、ただ抱えられる雑魚モブに成り果てる。


「体温は平常、脈拍も問題ない……ふふっ、安心しました。今日も無事ですね」


「だからなんで敵戦闘員のバイタルチェックしてんの!?」


イエローの叫びを無視し、グリーンはそのまま抱えた俺を、大事そうに胸に収める。


「……連れて帰ります」


「待て待て連れて帰るな!?お前何しにきたの?!まずボス倒そ!?」


イエローが慌てて声を張り上げる。


だがその声が届く前に、グリーンはすでに動いていた。

無駄のない一撃が中ボスの懐へと深く突き刺さり、数秒も経たずに敵は地面に倒れ込む。


「……終わりました」


グリーンは冷静に告げ、俺をしっかり抱え直した。

イエローはぽかんと口を開けたまま、目を丸くしている。


「……は、早っ……」


「では、帰って問題ありませんね?」


グリーンの言葉にイエローが焦って声を荒げる。


「だから帰るなって!!」


イエローが必死に止めるも、グリーンは俺を抱っこしたまま、一歩も動じない。


「365番の安全を確保し、拠点で休ませる必要があります。疲労も見受けられますし」


「疲労もクソもそいつは敵!それ仕事中の敵だよ!?!」


イエローはとうとう諦めたように頭を抱える。

そしてグリーンは、俺を抱っこしたまま、まっすぐ廃ビルの出口へスタスタと歩き出す。


──その時だった。


――ズドォンッ!!!


外で爆発音。建物が揺れ、警報が鳴り響く。そしてグリーンの元へ通信が入る。


『グリーン、緊急事態発生!本部が襲撃された!至急戻れ!』


足を止めたグリーンが、俺を抱えたまま静かに見下ろす。

その目は、いつもと変わらぬ穏やかさで──なのに、背筋がすうっと冷えた。


「……運が悪いですね」


小さく息を吐いて、彼はそっと俺を地面に下ろす。


「残念ですが、今日はここまでです。またすぐに会いに来ます。必ず」


そう言って、名残惜しげに俺に手を伸ばしかけ──しかし、寸前で止める。

そして何事もなかったかのように、踵を返して走り去っていった。


……静かになった空気の中、俺はぼそりと呟く。


「うん……やっぱ正義って、怖ぇわ」


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