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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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昼の面倒ごと3

堂々と目の前を歩くレッドを見て、ふと浮かんだ疑問を口にした。


「……レッドさ、その格好、恥ずかしくねぇの?」


「え?何が?」


心底不思議そうな眼差しを向けられ、思わず言葉に詰まる。

まじか、と口を閉ざした。


……まあ、これだけ似合っていれば、恥じらいも湧かないのかもしれない。


「そういうトオル君は、女性の格好って恥ずかしい?」


「……そりゃまあな」


華奢でもない俺が女装したところで、似合わないのは火を見るより明らかだ。

レッドのメンタルが異常なだけである。


「でも、綠谷君は喜ぶと思うなぁ?」


桃崎さんが楽しそうに言った、その瞬間だった。


不意に、背後から影が落ちる。

次の一歩を踏み出そうとした瞬間、腰に腕が回され、低く落ち着いた声が、すぐ背後で響いた。


「あまり、トオルさんを巻き込まないでいただけますか?」


そのまま動きを止められ、歩く足が止まる。誰か、なんてのは、すぐに分かった。


「あ、グリーン!」


驚いたように、レッドが声を上げた。


「ちょっと、見張りが出てきてどうするのよ。……もう少しトオル君と話したかったのに」


桃崎さんが抗議するが、グリーンは意に介した様子もなく、静かにこちらを見下ろしていた。


「あぁ。敵なら、すでに捕らえましたので。問題ありません」


「ほら、早く見張りに――……え?」


空気が、一瞬だけ止まる。

その沈黙に応えるように、グリーンは淡々と続けた。


「トオルさん、先ほど……視線を感じていましたね」


まるで確認事項を読み上げるかのような口調だった。


「あー……まあ」


「え、そうなの?トオル君」


桃崎さんが、興味深そうにこちらを覗き込む。


「対象がトオルさんを見ていましたから。位置は、すぐ特定できました」


そう言って、グリーンはわずかに口元を緩める。


「え、さすがトオル君のストーカー。凄すぎない?」


面白がる桃崎さんとは対照的に、状況を飲み込めていない様子で、レッドは首を傾げていた。


つまり――

俺を見ていた“視線”を、こいつはさらにその外側から見ていた、ということか。なにその食物連鎖。もはや“見張り”の域を完全に超えている。


「トオルさんを見ていたのが――」


腰に回された手が、わずかに締まる。

逃げ道を塞ぐように身体を寄せられ、低く抑えた声が耳元へと落ちた。


「……運の尽きでしたね」


ぞわり、と背筋に寒気が走る。まさか男を少し見てただけで捕まるとは思わなかったであろう敵に、少しだけ同情してしまった。


「やっぱり需要しかなかった。ありがとう、トオル君」


満足そうな桃崎さんの声が、やけに近くで響く。

――敵より、こっちのほうが、よっぽど危険だろ。


「ところで、蓮。もう囮はおしまいですよ」


俺を抱え込んだまま、グリーンは視線だけをレッドへ向けた。


「なんかよく分かんなかったけど、無事解決できてよかったな!」


状況をまるで気にしていない調子で、レッドはにかっと笑う。


「ええ。ですから、その格好は早く着替えてください」


あくまで冷静に言い切るグリーンに、なぜそんなことを言われているのか分かっていない様子で、レッドはきょとんとしている。

俺だったら、問題が解決した時点で真っ先に着替えるところだが……こいつは本当に、何も気にしていないらしい。


「あなたの保護者が怒り出す前に、早く戻ったほうがいいですから。あちらの通りに、車を停めて待ってますよ」


「え?ここ来てる?わかった!」


元気よくそう返事をすると、レッドはグリーンの指さした方角へ颯爽と駆け出していった。その走り方は、どう見ても女性のものではなくて、思考が一瞬フリーズする。

俺はただぼんやりと、その背中を見送るしかなかった。


――「レッドの保護者」。


妙に耳に残るその言葉を、頭の中で反芻しながら。


「あっちゃ~。私はあとで怒られそうだけど……まあ、本望です。ありがとう」


すべて承知の上だと言わんばかりに、桃崎さんはどこか満足そうに肩をすくめた。

レッドの「保護者」という立場は、どうやら皆に周知の事実らしい。前のボディーガードと同じ奴か。


「さ、トオルさん」


すぐ背後から、いつも通り落ち着いた声がかかる。

腰に回された腕はそのまま、反対の手がそっと俺の手を取り、指が絡められる。

拒む理由もなく、そのまま身を預けてしまった自分に、今さら気づく。


「今夜はバイトでしょう?少しでも寝ておかないと、あとで辛くなりますよ」


「…余計なお世話だ」


そう返しはしたものの、的外れでもない指摘なのが腹立たしい。


「まだお昼も食べていませんよね?デザートも用意しますし、私の家で少し休んでいきませんか。ちょうど私も仕事が終わったところです」


あまりに自然な誘い方に、言葉が一瞬詰まる。


「……デザート、なに」


自分でも驚くほど、それは拒否とは程遠かった。


その間にも、腰に回された腕は離れないまま、空いているほうの手で、俺の指先をなぞるように弄ばれている。


「そうですね」


少し考える素振りを見せてから、グリーンは穏やかに答える。


「シュークリームはいかがですか?外はざくざくで、中はカスタードです」


「……わかってんな」


指先が、くい、と絡め取られる。


「もちろんです」


そう言い切られてしまい、もう返す言葉が見つからない。


腰に回された手と、無意識に絡めていた指。その距離感とやり取りを横目に、桃崎さんがぽつりと呟いた。


「……ねえ、これ本当に、まだ付き合ってないの?」


その声は俺の耳には届かない。

頭の中はすっかり、シュークリームのことで埋め尽くされていた。


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