表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/67

昼の面倒ごと1

その日は、夜のバーのバイトまで妙に時間を持て余していた。

横になって目を閉じてはみたものの、どうにも寝つけない。

結局、気分転換でもしようと、昼下がりの繁華街をあてもなく歩くことにした。


どこかで昼飯でも食べようかと思ったが、ちょうど昼時だ。どの店も人で溢れ、行列ばかりが目につく。

さてどうしたものか、と立ち止まった、そのときだった。


視界の端に、見覚えのある色が引っかかった。


――薄いピンク。


反射的に、足が止まる。


人混みの中にいたのは、ピンク色の髪に、やけに整った顔立ちの美女だった。

遠目からでも目を引くその容姿に、意識せずとも周囲の視線が自然と彼女へ集まっているのが分かる。


(……なんで、こんなところに)


レンジャーの一人――ピンク、桃崎さんが、そこにいた。

しかも一人ではない。隣には、彼女より少し背の高い女性が並んで立っている。


茶色の長い髪。人の流れに紛れて表情までははっきり見えないものの、どこか可愛らしい雰囲気が漂っていて、二人並ぶ姿はやけに絵になっていた。

だが、その立ち姿や纏う空気に、言いようのない既視感を覚える。


――どこかで、見たことがある。


なんとなく胸がざわつく。

あまり関わらない方がよさそうだ、そんな気がして、気配を悟られないように踵を返そうとした。


――その時だった。


「……っ」


肩に、硬い感触がぶつかる。


「すみません――」


反射的に謝りながら顔を上げて、言葉が途中で止まった。


ぶつかった相手は、背の高い男だった。

漆黒の髪に黒い瞳、無駄のない体つき。

鋭さを感じさせる目元でありながら、全体には不思議と落ち着いた空気をまとっている。


一瞬、場違いな考えが頭をよぎった。


(……レンジャーにいたら、黒が似合いそうだな)


そんな連想をしてしまうほど、その男は周囲の人間とは一線を画す存在感を放っていた。相手もこちらを見下ろして、次の瞬間、ほんのわずかに目を見開いた。


「……お前……」


低く、喉の奥に引っかかるような声。


「え?」


思わず聞き返すと、男は一拍遅れて視線を外す。まるで、口にしかけた言葉を飲み込んだかのようだった。


「……いや」


短くそう言って、首を振る。


「なんでもない。こちらこそ、すまない」


それだけ告げると、男は静かに身を引く。それ以上こちらを見ることもなく、そのまま人混みに溶けるように消えていった。


……なんだったんだ、今の。


胸の奥に、説明のつかない違和感だけが残る。


(知り合い……では、ないよな)


当然だ。見たことも、話したこともない。それなのに、あの一瞬の視線には、確かに“認識”があった気がした。


首をひねりながら、その背中を見送る。


――直後だった。

ざわり、と周囲の空気が揺れる。


何事かと視線を巡らせれば、ざわめきの中心はすぐに見つかった。


「ねぇ、ちょっとだけでいいからさ」


軽い調子の男の声。

それに重なるのは、少し困ったような、それでも強く出きれない声。


「……結構です」


――ああ、これは。


視線を向けた先では桃崎さんと、その隣にいるもう一人の女性が、数人の男に囲まれていた。


見なかったことにして立ち去る、という選択肢が頭をよぎる。面倒ごとに首を突っ込む趣味はないし、正直なところ、できれば関わりたくない。


それに桃崎さんは正義のヒーローだ。下手をすれば、俺なんかよりよほど強い。

――俺が出る幕じゃない。そう自分に言い聞かせる。


「そんな警戒しなくてもさ~。俺たち、怪しい者じゃないし」


男たちがじりじりと距離を詰める。

押されるように、女性二人は一歩、また一歩と後ろへ下がった。


相手は四人。

女性相手に、数を頼んで取り囲むその様子は、どうにも後味が悪い。


(……ほんと、余計なお世話だよな)


胸の奥で、ため息がひとつ転がり落ちる。

できれば知らん顔したかった――のに。


気づいたときには、俺はすでに半歩、前に出ていた。


「……すみません」


男たちの背後に立ち、できるだけ感情を抑えて声をかける。


「嫌がってるみたいなんで。その辺にしといたらどうですか」


その一言で、空気がぴたりと止まった。

次の瞬間、男たちの視線が一斉にこちらへ向く。


「……は?」


先頭に立っていた男が、あからさまに眉をひそめる。


その瞬間だった。


「トオル君!」

「トオルさん!」


二人から、ほとんど同時に名前を呼ばれる。

え――。

思わず目を瞬かせた。


どこかで見覚えがある気はするが……知り合い、だっただろうか。

そう考える間もなく、先頭に立っていた男が舌打ちし、一歩踏み出してきた。肩を大きく揺らし、こちらを威圧するように距離を詰めてくる。


「なんだよ、テメェ」


さらに隣にいた男が、鼻で笑いながら口を挟む。


「だいたいさぁ、お前一人で何ができるってんだ?怪我したくなきゃ、さっさとすっこんでろよ」


そう言い終えるより早く、男の手が胸ぐらを掴み上げてきた。

やけに威勢だけはいい。


……なんだか最近、こんな三流を相手にことが多い気がするな。


「ちょっ……!死にたくなかったら、トオル君に手を出すのはやめた方がいいわよ!!」


桃崎さんが焦った声で制止するが、男たちは聞く耳を持たない。

もし“あいつ”のことを指しているのなら、確かに俺に手を出さない方がいい――と、俺自身も思う。

とはいえ、俺だって男なわけで……。


胸ぐらを掴んでいた男の手首を捻り、そのまま体を引き寄せる。

相手のバランスが崩れた瞬間、勢いに任せて地面へ押し倒し、背中に膝を乗せて完全に動きを封じた。


「いってぇええええっ!」


男はじたばたと抵抗し、苦悶の声を上げる。


……正当防衛だろ。


「トオルさん、かっこいい!俺も参戦するぜ!」


「え…ちょ、待て」


そこでようやく、俺は気づいた。桃崎さんの隣にいた“女性”。

長い髪にスカート姿だったから、てっきりそうだと思い込んでいたが――その声、その顔。


「おま……レッド?」


なんでそんな格好してんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ