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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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閉じ込められて5

俺を閉じ込めた三人が、鍵が壊れた扉の前に立っている。


倉庫を揺らしていた戦闘音は、ぴたりと止んでいた。

舞い上がった砂埃はまだ濃く空気に残り、外から差し込む光も途中で遮られて、奥の様子まではほとんど判別できない。


入口付近にいる三人は、倉庫の奥を覗き込むようにしながら首を傾げている。

その視線が向けられているのは、俺と――その前に立つレヴィだけだった。


「あれ?お前か?この扉開けたの」


場違いな声が飛んでくる。


「いやいや、無理だろ。こんな奴に鍵、壊せるわけねぇって」


嘲るような笑い声が重なる。

実際に扉を壊したのはエリさんであって、レヴィではない。

だが砂埃のせいで見えていないのか、倉庫の奥にいるはずのグリーンやエリさんの方へ、三人の注意が向くことはなかった。


俺のすぐ前に立つレヴィは、微動だにしない。


「365番の助けを乞う声を聞きに来たってのにさぁ。余計なことしてくれたな?」


そんなことを言いながら、三人は距離を詰めてくる。


幹部相手に、その口の利き方で大丈夫なのか。

……あれ?こいつら、もしかしてレヴィのことを知らない?まぁ、俺もつい最近知ったくらいだし、無理もないのかもしれないが――


それでも、今この距離まで近づく判断は、致命的だと思う。


レヴィは、相変わらず動かなかった。

だがその沈黙は、嵐の前触れのように重く、場に落ちている。


足元から、ひやりとした気配が滲み出す。

冷気のようなものが、じわじわと床を這い、こちらへ広がってくる感覚。


……もしかして――怒っているのか?


「……おい、レヴィ?」


反射的に、レヴィの肩を掴んだ。

俺の後ろへ下がらせようと、思わず力を込める。


だが、その体はびくりとも動かない。


「どうした?俺はなんとも思ってないし……あんな奴らに怒るだけ無駄――」


言い切る前に、空気を裂くような笑い声が被さった。


「は?舐めてんのかよ」


「ちょっと閉じ込められただけじゃ物足りなかったか?」


「さすが上からのお気に入り様は違うな。器が広いってか?」


三人は、悪びれる様子もなく言い切った。


――その瞬間。


空気が、はっきりと変わった。


「……ふぅん」


低く、よく通る声が、倉庫の奥から落ちてくる。


一歩、靴音が響く。

エリさんが前に出た、その気配だけで、場の温度が変わった。


「そう…つまり――」


言葉を区切り、視線を三人に向ける。


「あなたたちが、365番をここに閉じ込めたのね?」


その一言で、三人は完全に固まった。


嘲るような笑いは消え、ようやく“何かがおかしい”と気づいた顔のまま、誰一人として動けずにいる。


「……え?」


「え、なんで……?」


理解が追いつかないまま、視線だけが宙を泳ぐ。


「……え、エリス様が……なんで、ここに……?」


震えた声で名を口にした、その瞬間。

エリさんは静かに歩み寄り、レヴィと並んで――俺の前に立った。


二人がそこに立っただけで、場の空気が一段沈む。圧が、前方から真っ直ぐ押し寄せてくる。


思わず、俺も腰が引けそうになった。

……さすが、ディヴァイアンの幹部だ。当の本人より、怒ってんのは気になるけど。


「ち、違うんです!これには、その……理由が……!」


必死に取り繕うような声が上がる。


「違うも何も」


エリさんは、感情を挟まずに言い切った。


「さっき、自分たちで言っていたでしょう?」


逃げ場を塞ぐような言葉に、三人の顔がみるみる強張っていく。


「事実は事実よ。言い訳は、その後で聞いてあげる」


そう告げたまま、エリさんとレヴィは、じりじりと距離を詰めていく。二人並んで近づいてくるその様子は、正直言って――かなり怖い。


三人は今にも泣き出しそうな顔で、後ずさることすらできずに立ち尽くしていた。


「それと、あなたたち」


エリさんが、ふと思い出したみたいに付け足す。


「レヴィのこと、知らなかったみたいね?私より怒らせると厄介な幹部様よ。覚えておきなさい」


「……う、うそだろ……」


「ま、待って……あの人……?」


「めったに表に出ないって聞いたことはあるけど……」


三人の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「あの人が……あの噂のレヴィ様!?」


……ああ。

やっぱり、知らなかったのか?そりゃ、知っててあの威勢だったら、ある意味尊敬するけど。


そう思った瞬間、背筋を撫でるような悪寒が、遅れて走った。


「……――“助けを乞う声を聞きに来た”?」


低く抑えた声が、すぐ背後から落ちてくる。


振り返らなくても分かった。

グリーンだ。


いつの間にか、俺の真後ろに立っていた。


「閉じ込めたことは……まぁ、いいでしょう」


グリーンは静かな声で言いながら、一歩、前に出る。


その瞬間、3人組の肩が揃って跳ねる。

これまで向けられていたエリさんやレヴィの威圧とは、明らかに質が違う。

もっと個人的で、もっと粘着質で、逃げ場のない圧だ。


「365番が」


名前を呼ぶだけで、声がわずかに揺れる。


「誰かに助けを求める“声”を――」


一拍置いて、視線が三人を射抜く。


「あなたたちは、想像したんですか?」


答えを待っているようで、最初から必要としていない口調だった。


「ちょっと」


エリさんが割って入る。


「怒る気持ちは分かるけど、彼らは私たちが始末をつけるわ」


「ええ。ですが」


グリーンは視線を逸らさない。


「その後で構いません。こちらへ渡していただければ」


さらに一歩、距離が詰まる。3人は、完全に身動きが取れなくなっていた。


「――あなた方が助けを乞う声を聞くまで、追い詰めて差し上げますので」


笑顔で淡々と、そう言い切った。

言葉が落ちたあと、倉庫には重い沈黙だけが残った。


恐怖で声も出ないのか、三人はただ小刻みに震えている。

今まさに、助けを乞いたいだろうに。

その光景を見ていると、ほんの少しだけ――気の毒にも思えてきた。


……だからといって、今の俺に何ができるわけでもないのだが。


「今日は365番を、このまま連れて帰りますが……文句はありませんよね?」


穏やかな口調だったが、異論を許さない響きがあった。


「……いいわ」


エリさんは肩をすくめる。


「目的だったレヴィの件も……解決してるみたいだし?ちょうど、やることもできちゃったしねぇ」


そう言って、三人を一瞥する。

その視線だけで、何が“やること”なのか想像できてしまい、俺はそっと目を逸らした。


「行きましょう、365番」


差し出された手を引かれ、そのまま倉庫を後にする。

何をどう解決したのかは分からないが……まあ、深く考えない方がいい気がした。


外に出て、少し歩いたところで、俺は小さく声を落とす。


「……グリーン。お前、あいつらに何かする気か?」


問いかけると、グリーンは足を止めずに答えた。


「トオルさんが、彼らを気にかければ気にかけるほど」


一拍。


「彼らは、より深い地獄を見ることになりますが?」


淡々とした声だった。

冗談の余地は、微塵もない。


俺は、それ以上何も言えなかった。

――彼らのことは、もう考えない方がいい。


そう悟って、口を閉ざす。


緊張が解けたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。頭も体も重くて、なぜか無性に甘いものが欲しくなる。


「……チョコレートケーキが食べたい」


思わず零れた、ほとんど独り言みたいな声。


「では、ケーキ屋に寄って帰りましょうか」


間髪入れずに返ってきた声は、いつも通り穏やかだった。


手は、まだ握られたまま。

さっきまでの出来事が嘘みたいな平常運転に、気持ちだけが少し置いていかれる。


「トオルさんが助けを乞うのは、私だけにしてくださいね」


声音は穏やかで、お願いみたいだった。

その軽さが、逆に引っかかる。


一瞬、言葉に詰まってから、俺は小さく息を吐く。


「……呼ぶ前に、来てるだろ」


その言葉に、握られた手がわずかに強まる。


「それは…愛している人に、助けを求めさせる状況なんて、あっていいはずがないですから」


……くそ。

際どいセリフ、さらっと言いやがって。


それ以上、言葉は交わさなかった。

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