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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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閉じ込められて

ディヴァイアンに着いた頃には、空はすでに夕方に差しかかっていた。アスファルトに反射する陽射しが、寝起きの目にはやけに眩しい。


重たい足を引きずるようにして、建物の中へ足を踏み入れようとした、その瞬間。


「お前、まさか……365番……?」


背後から、喉に引っかかるような声が飛んできた。


「……あー、はい」


振り返ると、そこにいたのはいかにも下っ端といった風体の男たちが三人。見覚えがあるような、ないような――記憶の端に引っかかる程度の存在だ。下っ端なんてたくさんいる中、よく俺が365番だとわかったな?


「今話題の有名人様が、今日は何の用だ?」


「シフト、入ってなかったよな?」


気づけば、逃げ道を塞ぐように三人に囲まれていた。有名人って‥俺が?


「……呼ばれただけです」


事実をそのまま口にしただけだった。それでも、男の一人は露骨に舌打ちをする。


「ふーん……」


一瞬の沈黙のあと、吐き捨てるように言った。


「呼ばれてんなら、さっさと行けよ。邪魔だから」


その言葉とは裏腹に、三人の視線だけが粘つくように背中に絡みついていた。

そう言われて、俺が入口に向き直った――その時だった。


「……あ、待てよ」


背後から、さっきの男が声を投げてくる。


「?」


振り返ると、男は顎で奥を示しながら言った。


「……呼ばれたのって、幹部からか?」


「まぁ、そうですね」


「さっき急にさ、幹部の人たちが集合場所を変えたらしくて。『365番が来たら教えろ』って、受付に言ってるの聞いたんだよ」


一拍置いて、男は続ける。


「場所は俺らも分かってるからさ。案内してあげるよ。……こっち」


胸の奥に、ちくりとした違和感が引っかかる。


場所が変わった、ね。

電話口でエリさんは確かに『いつもの場所でいいわよ』と、言っていた。


それに、こいつらから向けられている視線は、決して好意的とは言えない。とはいえ、露骨な敵意を向けられる覚えもなかった。


(……まあ、いいか)


多少の引っかかりはあっても、わざわざ疑って突っぱねるほどの材料はない。恨みを買うようなことをした覚えもないのだから。


「じゃ、こっちだ」


男はそう言うと、建物の入口とは逆方向へ身を翻し、人通りの少ない方角へ歩き出した。


――違和感は、すぐに形を持って積み重なり始める。


照明が一段、また一段と落ちていく。人の気配が薄れ、代わりに足音だけがやけに大きく響いた。通路の雰囲気も、いつものディヴァイアンとは明らかに違っている。


「……こんな道、あったんですね」


思わず漏れた言葉に、男は振り返りもせず、軽く言った。


「あー、最近は使われてねぇな~」


(最近は、ね)


その一言が胸の奥に引っかかり、嫌な予感がじわりと背中を這い上がってくる。


三人はどこか薄ら笑いを浮かべ、逃がさないと言わんばかりに距離を保ったまま俺を囲って歩いていた。


やがて通路は裏口へと繋がり、扉が開いた瞬間、冷えた外気が一気に流れ込む。

建物の外――敷地の端に並ぶ、古びた倉庫群が視界に広がった。


そのうちの一つの前で足が止まる。

男は無言のまま鍵を取り出し、錠前に差し込む。


錆びた金属同士が擦れ合う音が、やけに大きく、耳に残った。


「ほら、入れよ」


言い終わるより早く、背中を強く押される。バランスを崩したまま、半ば放り込まれるように中へ踏み込んだ、その瞬間――


――バタン!


重たい鉄扉が閉じる音が、耳元で炸裂する。間髪入れず、外側から鍵が回る乾いた音が続いた。


「……は?」


反射的に振り返り、扉へ駆け寄る。


「おい、何のつもりだ?」


返事の代わりに、扉の向こうからくぐもった笑い声が漏れてきた。


『悪く思うなよ、365番』


金属越しの声は歪み、やけに耳に残る。


『お前さ、後から入ってきたくせに、上からやたら気に入られて待遇いいよなぁ?』


『番号だって俺らより後ろだろ?生意気なんだよ』


「……は?」


扉に手をかけ、力任せに押す。だが、びくともしない。


使われていない倉庫らしく、中は薄暗く、埃と油の混じった匂いが鼻を突いた。


『俺らなんて、クロウ様たちから番号すら認識してもらえてないんだぜ』


『お前だけ優遇されてよ、同じバイトで不公平だと思うだろ?』


『せっかく呼ばれたのに、お前がすっぽかしたってなったら失望されちまうなぁ?』


『しばらくそこにいろよ。まぁ出すかどうかは……俺らの気分次第だけど』


重なって響いていた笑い声と足音は、やがて完全に遠ざかっていった。

残されたのは、静まり返った倉庫と、固く閉ざされた鉄扉だけだ。


……つまり、恨みを買った覚えはないと思っていたが、実際は、嫉妬されていたってことか?


「……冗談だろ」


思わず漏れた声は、だだっ広い倉庫に虚しく吸い込まれていった。


俺はただ、バイトとして働いていただけだった。余計なことをした覚えもなければ、出しゃばったつもりもない。

いい歳した大人がやることじゃない――そう思っていたからこそ、完全に油断していた。


俺が優遇されてるのは、どの辺りか聞きたいもんだ。


昔から、こういういじめじみたことを受けたことはなかった。絡まれた経験もなく、こんな感じなのかと、どこか他人事のようにぼんやり考えながら、ポケットからスマホを取り出して画面を確認する。


――圏外。


その文字を見つめたまま、俺は小さく息を吐いた。

倉庫の中には、もう何の物音も残っていなかった。

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