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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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閉じ込められて1

昨日は散々だった。


昼はイベント会場でのバイト。

夜はそのまま、バーのシフト。


体を動かしていれば余計なことを考えずに済む、という判断自体は間違っていなかったと思う。

ただし――単純に、体力の限界というものは存在する。


その結果がこれだ。


カーテン越しに差し込む光は、明らかに朝のそれじゃない。感覚的に、もう昼をとっくに過ぎている。

にもかかわらず、まだまだ眠気は冷めそうになかった。


が、何かが遠くで鳴っている。


規則的で、しつこくて、無視すると逆に頭に響く音。夢の一部だと思って、寝返りを打った。


……まだ鳴っている。


(うるせぇ……)


半分眠ったまま、意識の底からゆっくり浮上してくる。耳鳴りにしては、やけに具体的だ。


「……あ」


そこでようやく、それが電話の音だと気づいた。


枕元じゃない。机の上――いや、床に落ちてるのか。鳴り止まない振動が、床を伝って微かに伝わってくる。


「……どんだけ鳴ってんだよ……」


重たい体を引きずるように上半身を起こす。

頭がぼんやりして、視界が一拍遅れてついてくる感じがした。


床に転がったスマホを拾い上げる。画面が光った瞬間、目が覚めた。


未読着信――十数件。知らない番号からの着信だ。


嫌な予感が、寝起きの頭にじわりと染み込んでくる。ちょうどそのタイミングで、また着信。

画面が震え、無慈悲な着信音が部屋に響いた。


「……はい」


喉が完全に起きていない。低く、掠れた声で応答した。


『やっと出た!もうー何回電話したと思ってるのよ。寝てたのかしら?』


「……エリさん?」


『そうよ!あらやだ、寝起きの声も可愛いじゃない』


「……」


『意外と寝起きは悪いタイプ?それもギャップあっていいわねぇ』


「……」


まだ完全に覚醒していない脳で、いきなり何を言い出すんだと理解が追いつかず、言葉に詰まる。

――で、この人は何の用で電話をかけてきたんだ。


『そうそう。ねぇ、トオルちゃん。レヴィに、何かした?』


「……何か、とは?」


『昨日あの子が帰ってきてから、まるで使い物にならないのよ。今まで、こんなこと一度もなかったのに』


昨日――と聞いて、イベント会場での出来事が脳裏をよぎる。


……確かに会った。近寄るな、とも言った。まさか、それが原因だとは思いたくないが。


『仕事もしないで、ずっと引きこもってるの。人の言うことは……まぁ、いつも通り聞かないけど』


電話越しに、軽く肩をすくめる気配が伝わってくる。


『でもね、トオルちゃんの名前を出したら、一瞬だけ反応したの。だから――トオルちゃんと、何かあったんじゃないかしらって思って』


いや、俺は関係ないだろう。仮に――万が一、俺が原因だったとしてもだ。

それで、俺にどうしろと言うんだ。


ごめん、って謝ればいいのか?なにに対しての謝罪だ。彼を怒らすようなことをしてはない……はずだ。


それに、今はあまりグリーンを刺激するようなこともしたくない。


昨日の、あの空気を思い出すだけで、胃の奥がきりっと痛む。

また敵組織だの、レヴィだのに関わって、面倒を増やしたくない。とにかく、余計な火種を一つでも増やしたくないのだ。


「……関係ないと思いますけど」


少し間を置いて、そう答える。


『ふぅん、そう?まぁ関係なくてもいいのよ。レヴィ、なんとかしてちょうだい!』


あっけらかんとした声に、思わず頭を抱えたくなる。


「なんとかって……言われましても」


俺に一体、何ができるというのだ。


『今日、予定ないわよね?このあと来れるでしょう?待ってるわね』


……なぜだろう。

どうして俺には、最初から拒否権というものが用意されていないのか。

そして、人の予定を当たり前に把握しているの本当にやめてほしい。


『いつもの場所でいいわよ。迎えは必要かしら?』


「……迎えはいりません」


自分でも拍子抜けするほど、抵抗のない声だった。


『あら、そう?迎えが必要だって言ったら、ボスが張り切って行くつもりだったみたいだけど。残念ね、ボス』


背後にいるのだろうか、最後のほうは距離が開いたように声が遠ざかる。


『ボスも甘いものを用意して待ってるわよ。気をつけていらっしゃい!』


電話越しでもはっきり分かる、満足そうな響き。甘いもの用意してって俺は孫か何か。


「……」


『それじゃあ、よろしくね』


通話は、そのまま一方的に切られた。

俺はしばらく、スマホを手にしたまま動けずにいた。


(……マジか)


小さく息を吐いて、ベッドに仰向けに倒れる。


敵組織。

レヴィ。

ディヴァイアン。


正直、今はどれも触れたくない。

それでも――行かないという選択肢は、最初から用意されていなかったようだ。


「……」


ふと、別の名前が頭に浮かぶ。


グリーン。


……連絡を、しておくか?


今まで、バイトの予定をわざわざ伝えたことなんてない。言わなくても、勝手にバイト先には来るし、私用の予定まで把握されている。

おそらく、この電話の内容だってもう知っているのだろう。

どうやってかは知らないが。


スマホを握り直し、グリーンの連絡先を開く。


自分から予定を送るのは、どうなんだろうか…。

指が、ほんの少しだけ躊躇って止まった。


せめて少しだけでも、彼の行動が落ち着いてくれればいいか。そう考えた末、短く打ち込む。


> 今日、ディヴァイアン行ってくる。


送信。


たったそれだけの文だが、何かが変わるだろうか。

――いや、変わらないか。


そう思いながら、俺は出かける支度を進めた。


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