もう確信していいよな?
小競り合いがあったらしい現場。
戦闘そのものはもう終わっていて、俺に残った仕事は“後片づけ”だけだった。
戦闘員はまだ何人か現場に残っていたが、それぞれ離れた持ち場を担当していて──この辺りには、俺ひとり。
誰かの声や足音が、遠くでかすかに聞こえるだけ。
静かすぎて、瓦礫の崩れる音すらやけに響く。
そんな場所で、俺は破れたバッグを拾いあげた──その瞬間、背後にぞりとした気配。
「……危険ですよ。そんなに無防備じゃ、いつ誰に背中を取られるか分かりません」
やけに落ち着いた、そして少し甘さを含んだ声。
振り返ると、そこに立っていたのは──
仮面を被った正義のヒーロー、ゼットグリーン。
スーツの上からでも分かる、場違いな存在感。しかも俺の“間合い”に、いつの間にか入っている。
「……またお前か」
低く吐き捨てると、グリーンは嬉しそうに目尻を下げた。
「先日のチーズタルト……お口に合いましたか?」
背筋に稲妻が走る。
「……は?」
「保冷には最新のパックを使いました。上にあしらったミントは私的な趣味でして……気に入っていただけたなら嬉しいのですが」
「…………」
ああ、やっぱりか。
あのカフェに来ていたイケメンと、目の前のこいつは同一人物──グリーン。
「やっぱり、あれお前だったんだ」
「ええ。気づいてもらえて光栄です、トオルさん」
にこり。仮面越しでも分かる、歪むほどの笑顔。
視線が、俺の顔の輪郭をなぞるように滑る。鳥肌が立った。
「……味の感想を聞くために戦場に来たわけじゃないよな」
「もちろん。それは副次的な目的です。……本命は、あなたの無事確認。戦場は何が起こるか分かりませんから」
ヒーローらしい響き──の“すぐ後”だった。
「たとえば……」
グリーンが半歩踏み込む。距離が近い。呼吸が交わる。
「瓦礫をどけた際、あなた、腰をひねる角度が以前より大きかった。少し力みすぎています。……痛めていませんか?」
「……は?」
「それと、物を拾うとき手袋を外しましたね。素手は危険です。注意しようか迷いましたが……あなたが集中していたので」
「……なに見てんだよ」
「当然です。あなたの動きは、どんな高解像度カメラより鮮明に、私の網膜へ焼き付いています」
さらっと言う内容が重犯罪級。
「それに今日あなたが話したのは、お仲間の戦闘員ですが──距離20センチ以内に、3度も踏み込みましたね。……あまり、そういう相手と親しくしてほしくありません」
「…………」
寒気が喉元を撫でる。
「お前……何、数えてんだよ……」
「不安なんです。あなたが、他の誰かと距離を縮めるのを見るのが」
甘い声に潜む、針のような執着。
ヒーローの仮面の下から、狂気が漏れた。
「……それ、ただのストーカーの台詞だろ」
「違います。“見守り”です」
いや同じだ。むしろ質が悪い。
「──お疲れさまでした、トオルさん。またすぐお会いしましょうね」
仮面の奥で笑った気配。
さっきまで“戦場”だったこの場所より、こいつのほうがよほど危険だ。
……まさか、このあと当然のように別ルートで倉庫にも現れるなんて、
このときの俺は、まだ知らない。




