本当に偶然ですか?
最後に出勤してから4日後、俺はまた、ディヴァイアンの控え室にいた。
このバイト、やめた方がいいのでは?と心の中で警鐘を鳴らしつつも、実際のところ仕事内容が苦なわけではない。
むしろ、たった1時間雑魚として立っているだけで1万もらえるなんて、バイトとしては最高クラスだ。
ただ問題は──2日連続でグリーンと遭遇したこと。
正直、ちょっと、いや、だいぶ怖い。なので少し出勤を渋っていたのだが……。
今日もモブたちの控室には、たくさんの戦闘員が集まり、それぞれ黙々と準備をしている。
顔見知り同士で軽く会話しているやつもいるが、基本的には静かな雰囲気だ。
そんな中、上司格の男が本日の配置先を読み上げていく。
「えっと~お前はコード365か。前線サイドのA班に加わってくれ。ゼットレッド、ゼットピンクが出陣予定だ」
レッドとピンク。今日はグリーンがいないのか、よかった。
まぁさすがに俺のことなんて忘れてるだろう。あれだけ人が多い中の一人だし。
今日は静かに現れて、静かに消える。目立たず倒れて、給与をもらう。それでいい。それが理想だ。
*
だが──現場に到着して10分も経たぬうちに、予想は裏切られる。
「ちょ、なに!?レッドが“今日グリーンと交代する”とか言い出してるんだけど!?!?予定にないよね!?」
ピンクの叫びが通信機越しに響いた。
『あー、それなー。グリーン様、本部に直で“予定変更”って連絡入れたらしいわー』
……なんだそれ。ヒーローってそんなに勝手にスケジュール変更していいのか?
ていうか“様”って何??グリーンってそんなに偉かったの?
そして数分後。
突如、全戦闘員の通信機にジジッとノイズが走る。
『──こちらグリーン。少々遅れましたが現場に到着。状況報告を』
その声が入った瞬間、現場の空気がピリついた。
「おいおい……マジで来たのかよ……」「聞いてねぇぞ……」
皆がざわつく中、俺の心拍数だけが異様に跳ね上がっていた。
(ま、まさか……来ないよな。俺のとこには来ないよな……?)
──そう思ったのも束の間。
瓦礫の陰から、颯爽と現れる緑のマント。
真っ直ぐに、まるで狙いを定めたかのように、グリーンが俺の方へと歩いてくる。
(……え、嘘だろ。これ、俺?俺に向かってきてる?)
そして次の瞬間には、彼は俺の目の前に立っていた。
「お久しぶりです、365番。偶然お会いできるなんて、嬉しいです」
仮面の下からは、丁寧すぎる微笑み。なぜ、俺がここにいると??????
そして、ごく自然な動きで、俺の手を優しく握った。
(……は?)
握られた手が、じんわりと熱を持つ。グリーンの声が、また響く。
「今日は湿度が高いので、体調を崩しやすいかと思いまして。こまめな水分補給を忘れずに。……あ、こちら。補給用の水です」
差し出されたのは、やたら高級感のあるミネラルウォーター。
「冷蔵保存しておいたので、ちょうどいい温度かと」
仮面越しでもわかるほど満足げに微笑むグリーン。
「安心してください。私はあなたのサポートに徹しますので。任務に集中してくださいね」
え、まって、俺はなぜ敵であるヒーローのサポートを受けることになるんだ...?
このグリーンという男は、本当に俺のことを認識しているというのだろうか。
マスクの下の顔を見たことがあるわけでもないはずなのに、どうしてここまで──
というか、手、まだ握ってるんだけど!?
引き抜こうとしたら、それよりもわずかに早く、指先に力が込められた。
見せつけるように、決して離さない、そんな意思すら感じる強さで。
「……心拍数が高いですね。緊張していますか?あまり無理なさらずに」
(決してトキメキではない。恐怖でな!)
と、叫びたいのをぐっと堪え、なんとか手を振り解くと、俺は半歩、いや一歩、距離を取った。
しかしグリーンは微笑を崩さず、まるでそれすら計算済みであるかのように──優雅に一礼した。
その姿に、周囲の戦闘員たちは何も言わずに視線を交わす。
グリーンは、任務中であろうと、俺との接触を絶対に逃す気がないらしい。
なんなんだこの異常なヒーローは。いや、もはや正義ってなんだ。
とにかく、これだけは確実に言える。
──次は、絶対別の現場にしてもらおう。




