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藪をつついて蛇を出す

エピソード思いついたので追加しました

 落ち葉がひらりひらりと舞い落ちる、王都中央公園の外れにある小さな林。

 ベンチに並んで腰掛けるのはアルタイル王国の「恵の聖女」レティア姫と、西の大国ドメキア王国の国王宰相ルイ・メルダエルダ。

 艶やかな黒髪を微風にさらさらと靡かせる色白美少女と、少々癖っ毛の黄金稲穂色の髪の凛々しい顔立ちの美青年が、互いに頬を染めて微笑み合っている。

 2人を知らぬ者がチラリとこの光景を見ると、似合いの美男美女の初々しいデート現場だと感じるだろう。

 しかし実際は——……。


(いつまでここで談笑するのかしら。ちっとも市街地視察になっていないわ)


 レティア姫が浮かべているのは困り笑いである。


(やはり可憐だ。それに相変わらず素敵な光を浴びた瞳をしていらっしゃる。ずっとこうしていたい。しかし何度お会いしても私の印象が良くなった気配がない。少々強引に口説いてみろとヴラドから言われたが……口説く、口説く……)


 ルイ宰相は笑顔の裏でグルグル考えている。彼は半年少々前にレティア姫に一目惚れしてからというものの、彼女がユース宰相と婚約してもめげずに横恋慕中。

 ヴラド卿をはじめとした側近達から「馬に蹴られて死ぬぞ」とか「大した利益のない相手との結婚など認められない」などと猛反対されている。

 仕える若き王、シャルル・ドメキア王からは「気が済むまで想うのは自由だが相手に気持ちを押し付けるのは迷惑でしかないと心掛けて常識の範囲内で接しなさい。間違っても強行策など使わないように」と心情自体は尊重されているが、レティア姫の味方だと釘を刺されている。

 レティア姫本人は「他に素敵な女性は沢山いるから早く諦めて欲しい」「申し訳ないけれど、外交や調査を言い訳に毎月毎月数日付き合わされるのは困る」と迷惑がっている。


「ルイ様、そろそろ地下神殿へ参りませんか? 良い景色で癒されますけれど、帰国までに調査を終わらせないとなりませんよね?」

「いえ、調査は終わらなくて構いません。そうすればまた来月貴女様にお会いできます。レティア様、美しい髪に落ち葉が」


 意を決してレティア姫の髪に手を伸ばしたルイ宰相の手を、彼女の肩にだらりんと紐のように乗っていたセルペンスの尾がペシンッと払った。


——姫は(つがい)以外の繁殖期人に触られたくない。人の王の右腕は相変わらず不埒で無礼なり


 セルペンスのこの台詞と行動にレティアは戦々恐々とした。

 この声が自分にしか聴こえていないと分かっていても嫌な動悸に襲われる。


「我が王と同じく、聖なる鷲蛇様が守護されるのは素晴らしいことですが、私が敵視されているのは異国の者だからでしょうか?」


 この問いかけにセルペンスは無反応。


——姫よ、我らはこの者の言葉が分からない。適当な言葉をそなたに任せる


 主であるドメキア王がレティア姫同様にセルペンスに好かれているので、セルペンスに慣れているルイ宰相はセルペンスの尾で叩かれても動じない。無礼者だとレティア姫を責め立てることもしない。話せる訳ではないが話しかけるのも、シャルル国王の真似だ。

 ルイ・メルダエルダは本来ならレティア姫が惚れてもおかしくない好青年。恵まれた容姿に、聡明な頭脳を持つ男。

 彼は正義感に溢れる真面目な働き者で「西の大王は大鷲賢者に律され、支えられている」と各国にその名を広く知られている男である。

 恋は合縁奇縁、ルイ宰相の敗因はレティア姫と出会うのが遅かったこと。ただそれだけ。

 彼女がまだシャーロットという名前の男爵令嬢であった頃、そして自身の初恋に気がつく前に知り合っていたなら、大勝利をおさめていただろう。

 今後彼が想いを成就させられるかは、ユース宰相がどれだけレティア姫を傷つけるかとその時ルイ宰相が彼女の側にいて慰め、支えられる時がある場合だ。

 そのような未来のことは誰にも分からない。現時点では、レティア姫はユース宰相と甘い甘い時間を謳歌中なので、ルイ宰相の勝率は0%である。


「すみません。髪の落ち葉を払い落とそうとしてくれてルイ様の手とぶつかってしまったのかしら」


 すみません、と謝るとレティア姫は肩の上のセルペンスを両手で掴みそっと抱きしめた。ルイ宰相を怒らせてセルペンスに何かされたら困るから。セルペンスを守る為の体制だ。


——姫を守るのは我等の役目。まあここは心地よい。しかし子らがズルイと煩い。姫よ、早くこの危険な繁殖期人と離れてくれ。我は子らと入れ替わり元の職務に戻りたい

(ルイ様が来ると普段の子が親と入れ替わるみたいだけど、今日もなのね。繁殖期人って酷い言われよう……。セルペンスは恋を繁殖期って呼ぶからややこしいわ……)


「レティア様、もうぶつかり合うことはありませんね。落ち葉をお取りします」


 ルイ宰相は、内心ドキドキ、バクバクしながら、表面上はニコリと涼しい顔で微笑み、再度レティア姫の髪に手を伸ばした。

 目指すは落ち葉ではなく、触り心地の良い髪で、欲を出せばそのまま軽く頭を撫でて彼女に接近しようと目論んでいる。

 瞬間、ルイ宰相のおでこにビシッと硬い物が強襲。コロコロ、と彼の足元に落ちたのはドングリ。

 その後ドサドサドサとルイ宰相の頭目掛けてキノコが降り注いだ。調べると分かるが、どれもこれも食用には出来ない毒キノコである。


「えっ……」

「まあルイ様、大丈夫でしょうか?」


 レティア姫が立ち上がり、ルイ宰相の頭や肩、膝に乗るキノコを取り除こうと動く。

 その時、レティア姫と主を触れ合わせてなるものかとルイ宰相の側近ヴラド卿や近衛騎士達が木陰から飛び出した。

 それに準ずるようにレティア姫の秘書官カール令嬢と近衛騎士も登場。


「ルイ閣下に恵の祈りとはありがとうございますレティア様! 閣下、レティア様、お召し物の土などは我等が払います」

「閣下、レティア様、天気が崩れてきそうですので馬車へどうぞ」

「おお、カール令嬢は相変わらず気が利くな。ありがとうございます」

「お褒めにあずかり光栄ですヴラド卿。ささっ、レティア様。私と共に参りましょう」


 こうして、市街地視察を名目にしたデートは終了。

 翌日、アルタイル城の地下神殿調査では彼の想定外な人物、クラウス王子も帯同となったことでルイ宰相はレティア姫が子守りをする姿にたびたび惚けてデート終了。

 ヴラド卿よりその隣を任されたフィラント王子により、ルイ宰相はさり気なくレティア姫から遠ざけられていた。

 こうして、ルイ・メルダエルダ強襲2日間は幕を閉じ——ようとして閉じなかった。

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