12.リーリアとの出会い
レイモンが初任務の報告書をセリウスに提出するため、勝手についてくるアリスと共にセリウスの執務室を訪れた。
セリウスに報告書を確認してもらい、OKをもらったところ、セリウスから「あ、そうだ、レイモン、ちょっと待って。」と引きとめられた。
「レイモン。近いうちに、一度、リーリアのところに顔を見せにいきなさい。その時、初任務の言い訳だった『3ヵ月間の留学』の途中の休暇という設定を忘れないようにね。リーリアは、いまだにレイモンが任務に行っているのではないかと心配していたからね。」
「はい!そうします。明日にでもメナード公爵家へ行ってきます。」
「もちろん、そこのアリスは置いていくんだよ。
今のリーリアは妊娠中だから、人の魔力を喰らうアリスは本当に危険だ。絶対、近づけさせないでね。」
「はい!もちろんです!!」
「ええー、何で?私も行きたい!!」
「黙れ、アリス。行くぞ!」とセリウスの執務室からレイモンは急いでアリスを連れ出す。
「お前は!父上の前であんなことを言って、死にたいのか?」
「私もレイモンのお母様に会いたい!!」
「だめ!!父上に殺されるよ、アリス。絶対にダメ。」
「レイモンのお母様ならきっと魔力も美味しくて、見た目はすごい美女か、すごく可愛い女性だと思うの~。ねえ、ねえ、レイモンに似ている?」
「いや。瞳の色くらいしか俺と似てない…。って、やっぱりお前、母上の魔力を喰う気だな?そんなことしたら、本当に父上に存在を消されるぞ?」
「ばれないように…。」
「無理だ。母上は特に今、妊娠中だから、父上が心配して四六時中、監視…じゃなかった、見守られている。だから、お前が会おうものなら、ほんの数分もしないうちに、父上に殺られるぞ。」
「そこを何とか!!」
「だめ!何とかできない!!俺すらもアリスを会せたことで、きっと罰されるから、無理。」
「行きたいよ~!」
「ダメ!留守番!!」
「レイのけちんぼ!!」
「アリスのわからず屋!!」
「ふん!勝手についていっちゃうもんね~。」
「本当にお互いのためなのに、わからないのか?しょうがないな。」
そう言って、ため息をつきながら、レイモンは魔法を発動した。
『拘束!強固拘束!!“強固な檻”』
「なっ!なんてもんを出すのよ!本当に子供なの!?」とガッチリと二重に強固な魔法の鎖で拘束された上に、鳥籠のような檻に閉じ込められるアリス。
「あー、ついでにお前の魔法を発動できないように口にも拘束魔法をかけておくか。たぶん、それが外れる頃には帰ってくるからな。その拘束の魔力でもちょっとずつ喰っていれば、飢え死にもしないだろう?」
そういって、さらに口も拘束したアリスを、王宮内のアリスに与えられた部屋に閉じ込めるレイモン。
アリスは「モゴモゴモゴー!!」と文句を言っているが、数日くらいなら、魔力さえあれば、魔女なので飲まず食わずトイレ行かずでも実は大丈夫な特異体質のため、放置。
「あぁもう、行く前から疲れた…。」と言って、のろのろとリーリアの元に向かう準備をするレイモンであった。
馬車にゆられて、レイモンはリーリアのいるメナード公爵領に着いた。
「お母様!」
「まあ、レイモン、おかえりなさい!会いたかったわ!」
「僕もお会いしたかったです!」と言って、久しぶりの再会を喜び合う母子。
今日はいい天気のため、中庭のテラスでお茶会をする二人。
「留学先で、お友達はできた?」
「はい!部屋は4人部屋だったのですが、同室の子は二人いて、1人はリーガンという黒髪のしっかりした子で、もう1人はアドルフという赤毛の可愛い子でした。それで…」と任務の際に知り合った友人をうまく話しに含め、リアリティを出しながら、設定された留学先の話をするレイモン。
二人でほのぼのと談笑をしている時であった。
「わぁお!レイモンのお母様、予想よりか~わ~い~い~!しかも、魔力いっぱい、美味しそう~!!」と拘束して置いてきたはずのアリスが突然、中庭に現れたのだった。
「なっ!!貴様、ここまでどうやって…」
「ほほほー!今朝がたやっと、あの拘束を喰い尽してくれたわ。美味しかったよん。
拘束を外してすぐに、レイモンのところに行ったら、ぎりぎり出発に間に合ったからレイモンの乗る馬車の後ろにあるステップに乗ってついてきたの~。」
「ちっ、命が惜しくないようだな。『強固拘束!』」とすぐにアリスをガッチリ拘束するレイモン。
「お母様は、下がっていてください。こいつは人の魔力を喰う危険生物です。そして、お母様の魔力を狙っております!」
「また、拘束!?可愛い女の子に何てことするのよ!助けてレイモンのお母様―!!」と拘束されてエビっぽい恰好になりながらも、あざといアリスは、見た目が大変可愛い幼女のため、哀れっぽくリーリアに助けを求める。
「まあ、どなたなの?レイモンのお友達ではないの?」とちょっと戸惑い気味のリーリア。
「いいえ。友達などではなく、ぶっちゃけ、変た…じゃなかった魔物です。気をつけてください。」
「あら、でも…。」と言って、リーリアがアリスを魔法でスキャンする。
「大丈夫そうよ。それにちょっとくらいなら、魔力を分けてあげてもいいわ。」
「お母様!ダメです、危険です!お腹の子にどんな影響がでるかもわかりませんし、第一、お父様が絶対、許しません!!そいつとお母様が接触したとわかれば、とんでもなく怒るでしょうし、ましてや魔力を分けたとなれば、そいつは瞬時に消されます!」
「ああ、そうね~。その可能性は否めないけど…。」
「はい!なので、すぐに送り返します。」
「ひどい!せっかく来たのに~。」
「アリス!本当に死にたいのか?」
「まあ、落ち着いてレイモン。たぶん、この子、『年齢操作の効率の魔女』ではないのかしら?」
「え?『効率の魔女』をご存じで?」
「ええ。以前、『効率の魔女』は文献でね。『年齢操作の効率の魔女』のことも報告書を読んだことがあって、もう亡くなったとあったけど、もし生きていたのなら是非、お会いしたかったのよね~。だって、年齢をいじれる魔女は若返りたい女性の憧れの存在なのよ!しかも、こんなに可愛いなんて!
女の子にこんなことしちゃ駄目よ、レイモン。『拘束解除』」と言って、リーリアはレイモンの拘束をあっさり解いてしまい、アリスを抱っこしだした。
「初めまして~。レイモンの母のリーリアです。いつも息子がお世話になっております。」とにこやかに挨拶すると、そんなリーリアにぽーっと見惚れるアリスは涎をちょっと垂らしながら「かわいい!子持ち妊婦でも可愛い~。」とつぶやいて、「どもども、アリスちゃんです!」と喜んで抱っこされていた。
「こら!アリス!!絶対、お母様の魔力を喰うなよ!俺のなら後でやるから、頼む!」と必死のレイモン。
「ん~。大丈夫、この方、私でも手が出せない程の強力なシールドが張られているから、喰いたくても無理だわ。これやっているのセリウス殿下かな?」
「まあ、夫もご存じ?」
「はい!実はセリウス殿下にスカウトされまして、情報省に入省して、彼の部下になりました。直属の上司がレイモンになります。」
「まあ、そうだったの。じゃあ、夫も息子も共にお世話になっているのね。でも、アリスちゃんったらセリウス様のスカウトなんてとっても優秀なのね!
アリスちゃんは見た目より、本当はもっとお姉さんなのかしら?」
「えっと、見た目5歳児ですが、本当はもう12歳です。」
「はあ?嘘つけ!!もっとずっと年上だろう?」
「駄目よ、レイモン。女性にそんな失礼なこと。」とリーリアがレイモンをたしなめる。
「いや、もうこいつとさっさと離れてお母様。きっとすぐにお父様が飛んで来る!」
「やーい、レイ君はお父様がこわーい!!」
「当たり前だろ!あの人の恐ろしさがまだわからないのか!?あの人が怖くないのはお母様くらいだぞ!」
「あ、私もたまに怖いと思う時が…。」
「ええっ!本当に!?」
「セリウス殿下って実は何者なの?本当は魔王なの?」
「よせ!この会話を聞かれている可能性が…。」
「ひー!」などと、中庭でレイモンとアリスがぎゃーぎゃー騒いでいると、王宮から早馬が着いた。
もちろん、アリスの接近というリーリアの危険を監視魔法で気づき、仕事を投げ出して駆けつけたセリウスであった。
「レ~イ~モ~ン!何でアリスがここにいるのかな?」
「ひぃ!ごめんなさい、ごめんなさい!拘束の魔法でガッチリ縛って籠に入れてアリスの部屋に閉じ込めて置いてきたのに、何故か馬車についてきたんです!!」
「そして、僕のリーリアによくも接触させたね。何、あの抱っこ。」
「全力で阻止したのですが、母上は子供好きなので、母上自身に拘束を解かれました。アリスの危険性は十分に説明しましたが、女の子にこんなことしちゃ駄目よって。あと、母上も『年齢操作の効率の魔女』をご存じで大丈夫だって…。」
「…そうなんだよね。リーリアは優しくて物知りだから。
まあ、アリスなんか手も足もでないように強固な魔法シールドもしているから、母子ともに影響もないのだけどね。
でも、リーリアを少しで危険にさらす可能性のあるアリスを、まんまと連れてきた管理不行き届きのレイは許さないよ。」
そう言って、がしっとレイモンのまろい頬をつかむと、びょーんと力いっぱい引っ張りだすセリウス。
「いひゃい、いひゃい!ひゃめて、ひひうえー!!」
ほっぺがちぎれる~!!いやだー!
レイモンのほっぺをちぎらんばかりにひねっているセリウスのもとに、リーリアがアリスを抱っこしながらも近寄ってくる。
「まあ、セリウス様もいらっしゃってくださったのですね。嬉しい!」と本当に嬉しそうなリーリア。
「リーリア!!会いたかったよー!久しぶりだものね~。」と蕩けんばかりの笑顔のセリウス。でも手はレイモンのほっぺを、みょんみょんしながらである。
ちーちーうーえー、はーなーしぃーてー!
母上、助けて!!とリーリアに涙目で訴えるレイモンに、「あらあら、親子で仲良しさんね!」なんてのんきなことを言うリーリア。
抱っこされたアリスまで「ふっ、似たもの親子だからね。」と他人事のように言ってくる様子に、誰のせいでこんな目にあっている!?とアリスには殺意を飛ばすレイモンであった。
でも一応、リーリアがセリウスを止めてくれて、無事、ほっぺを奪還したレイモン。
その際、アリスはセリウスにべりっとリーリアから引きはがされ、レイモンに向かってぽいっと投げつけられた。
今はレイモンの拘束魔法でエビぞりのアリスが足元に転がっている。
痛いよ~。アリスのせいだ!
ほっぺが、すもものようにやや赤く腫れたレイモンは、しばらくほっぺをおさえながら、アリスをどうするべきか悩んだ。
対アリス用に魔法省で扱う『効率の魔女』を一時的に拘束できる特別魔道具と同じ物を作ろうかと考えたが、それよりも厄介払いで、今度、実験体として魔法省のクリスに引き渡そうかな、その方が早いかなとも思うレイモンであった。




