49 強さ
「……まぁそれで、皆様も気になっている様ですけれど、そこにいるのは、どこの誰とはいわないけれど、勝手に他家の跡取りをたぶらかし、迷惑を掛けた、常識知らずの女なのよ」
マルヴィナはローズマリーのことを紹介すらせずに、不名誉な言葉でローズマリーのことを言い表した。
名前を名乗らずとも、顔をみれば誰だかわかる人は多いだろう。
ローズマリーもそれなりに社交界には顔を出している。
「メイスフィールドの……」
「ええ、ですね」
小さな声で夫人たちはやりとりをして、その顔に浮かんでいる感情は様々だ。
「貴族としてあり得ないでしょう? いくら、バークレイ侯爵夫人の地位が魅力的だったとは言えねぇ? 今日も聞きつけて勝手にやってきて、見苦しい。結婚してもいないのにエスコートをする男性もいないなんて」
マルヴィナはとても楽しそうにローズマリーのことをなじる。
彼女の言葉に困惑していた夫人たちも厳しい表情へと変わっていく。
「……」
反論は思いつくけれど、口にはしない。
悪意のある言葉も、厳しい視線も突き刺さる。少し手を動かすことすら、身じろぎすることすら許されない様な苦しさがのしかかってくる。
ローズマリーは、意思が強い方だが、何をされても動じないと言うわけではない。
頼る相手もなしに、たった一人悪意と敵意を浴びて、大勢のさらし者にされれば足も震える。
なぜ、こんなことになったのか。
こうなったのはローズマリーがマルヴィナよりも劣っていたからか。
「ふふっ、なんの反論もできないなんてよっぽど図星を突かれて痛いのね。でも、悪いのはあなた自身ですわ。わたくしはただ当たり前のことをしただけ。息子をたぶらかして執着してみっともない」
マルヴィナとの話し合いを終えたとき、セオドアの気持ちを優先して強くいさめることが出来なかったから?
「あの子だって迷惑していたはずよ、現にここには戻ってこない! 今頃ロレッタ嬢と仲良く二人きりの時間を楽しんでいるでしょうね。惨めに捨てられて、あなたいつまでそこにいるの?」
だからローズマリーはこんな目に遭っているのだろうか。合理的に動かなかったことの罰なのか。
「あなたなんてお呼びじゃないのよ。いつまでも惨めをさらしていないで、また新しい男でも探したらいいんじゃないの?」
セオドアを選ぶ上でローズマリーは自分の生き方を見つけたせいで弱くなったから負けたのか。
……答えは、否だ。
明確に違うと言える。
だからローズマリーは動かない。
たとえ、いくらこの場にいても傷つくだけだとしても、絶対に動かない。
「……」
「……何よその目」
たしかに、完璧ではないかもしれない。
それでも、セオドアと寄り添って生きたいと決めたのだ。
打算だけで生きていた方が楽だったかもしれないが、そうしているときよりも強い指針を得た。
楽ではないけれど、それでも勝算がなくても、信じている。
彼も、ローズマリーと同じように手を尽くしてくれることを信じている。
それが実を結ぼうが結ぶまいがだ。だからローズマリーは待つのである。
勝ち目がないからとあっさり逃げ帰ったりしない。
そうして、同じだけの気持ちで思い合って、生きることの方がきっとどんなふうに引き離されたって強いはずだ。
「見捨てられた女らしくもっと惨めな顔をすれば、ちょっとは優しくしてあげようという気も起きるのにね。……生意気だわ」
たとえ傷つけられたって、きっとセオドアはローズマリーの元へとやってきてくれるから。




