45 協力
「なんで、わたくしたちが!」
「魔法団に入ってまで!」
「へなちょこなセオドアと組まなくてはいけないんですの!!」
セオドアは廊下で、さっさとチーム編成の書類を出そうと事務室へと向かう三人を呼び止めて、用件を話すと酷い剣幕でそう言われ少したじろいだ。
王宮魔法団へと入団直後のこと、現役魔法使いと戦う試験があり、それを突破するとそれぞれ新人魔法使い達は評価を受ける。
魔法使いは、騎士団よりも実力を重視し、その実力がものを言う。
希有な魔法具の制作技術や、魔法に関する研究などでも、もちろん評価の対象にはなるが、一番評価されるのはもちろん強さだ。
シェリル、イーディス、クロエの評価はめっぽう良かった。
現役達を次々と打ち負かし、魔法団のエースと張り合い、多くの自由と権利を勝ち取った。
一方セオドアは、魔法具制作については評価されたものの、強さという点ではまったく評価されなかった。
そうなることはわかっていたが、それでもセオドアにはやるべきことがあった。
それが、三人とチームを組んでもらうことである。
「お願いっします! どうしても、君たちのチームに入れてほしい!」
彼女たち三人は、好きな人間と好きな様にチームを組める。
基本的に、普通の評価を受けた人間は、自分が得意な方向性を極めるためにそれらを得意としている魔法使いの先輩と組んで依頼をこなす。
そして少しずつ、魔獣討伐の依頼もこなしながら、長期的な実力の向上を目指すのが定石で、そのようにするようにと魔法管理局の事務官からも説明を受けた。
しかし、評価の高い人間から誘われてチームに入るのだったら別なのだ。
すでに魔獣をどうとでもできる彼女たちは、教えを受けるまでもなく好きに仕事をこなすことが出来る。
それにセオドアも混ぜてほしい。
そういう願い出だった。
「どうしてもですって? どうしてもなんて言ったって、あなたったらお荷物ですわ! と言うか危険ですわ! わたくしたち、難易度の高い魔獣の討伐依頼を受けますもの!」
「チームになったら一つの依頼しか受けられないし、支給品の魔法具もチームで動く前提ですわ! 別行動は出来ないのよ?」
「チームを組んだら一蓮托生! いろいろなものを分け合うのよ! 一人だけ実力が見合わなければどういう目に遭うか、わからない訳ではないはずだわ!」
彼女たちは、単純に嫌だと言うわけではなく、それがどういうことなのか、どういう危険があるのかまで怒りながら説明した。
三人の言っていることは正しく、支給される魔法具の中には、リーダーにチームメイトの位置を筒抜けにさせる様なものもあり、別行動をすることは前提とされていない。
「まぁ、わたくしたちはローズマリー様に丁寧に魔法団の仕組みやチームの重さ、依頼の重要度や難易度についてまで丁寧に教わったからしっかりとわかるのだけれどね!」
なんでも突っ込んでいく彼女たちにしては冷静な言葉だと思ったら、どうやら、事前にローズマリーからの教育があったらしい。
ローズマリーのことだ。それはもう丁寧に教えてくれたのだろう。
そう思うと、セオドアは当たり前のように嫉妬しそうになった。
自分もわからないふりをして教えてもらいたかったと、思うがそんなことで手間をかける訳にはいかない。
セオドアは彼女に頼るばかりの男ではないのだ。
自分の力でローズマリーの手を取って幸せにしたいのだ。
しかし、理屈としてはそうだがやっぱり感情としてはうらやましかった。
「……な、なんて声かけたら、教えてくれたの?」
「ふんっ、声など変えなくても、わたくしたちのことを心配したローズマリー様が自分から教えてくださったのよ!」
「ふふふっ! うらやましいでしょう!」
「っ……」
(うらやましい……)
言葉にはしなかったが、心の中でそう思った。
教えてほしいと言うよりも、気にかけてもらっているという事実がうらやましかった。
セオドアのことをローズマリーが気にかけていないなんてことはまったくないとわかっているし、そんな彼女をセオドアも大好きだ。
しかし、どこの誰でもどんな相手でも、ローズマリーの注目を得ていると思うと問答無用でうらやましいのである。
ローズマリーへの愛を自分の中に閉じ込めてきた期間が長くなりすぎて、変に増幅していたのである。
セオドアはローズマリーが絡むと不安になりすぎて行動がおかしくなったり、かと思えば今度は誰も彼もをうらやんで嫉妬の鬼になってしまいそうだ。
自分は、彼女と絡むとどうしようもなくなってしまうしょうもない人間なのかもと思ったが、よく考えると元々割と情緒は不安定な方だった。
これがセオドアの通常運転かもしれない。
「……まぁ、そういうわけで今のわたくしたちは、安易にチームに人を入れたりしませんわ」
「あなたの提案は却下」
「それにしてもなんで突然そんなことを言い出したんですの? あなたはゆっくり制作をしたいのではなかったの?」
彼女たちは勝ち誇った様子でセオドアをあしらったが、シェリルが最後に首をかしげて聞いた。
その言葉にクロエもイーディスも「それもそうね」と言ってセオドアに視線を向けた。
「……わたくしたちだって、ローズマリー様の思い人を危険な場所に連れ出して怒られたくありませんわ。セオドアだったことに不満もあるし!」
「そうよ! まぁ、セオドアは優しいけど納得いきませんわ」
「だってあんなに一緒にいたのに、教えてくれなかったんですもの。怒りますわ」
今度は話が変わって、ローズマリーの思い人がセオドアだったことへと話題が移る。
「え、あ……ローズマリーが教えたの?」
「ええ、あなたからではなくてね!」
「そっか、言えなかったのは……ごめんね。……僕の問題で…………クロエさん、シェリルさん、イーディスさん」
プリプリと怒っている三人に、セオドアはまず謝罪をした。
言えなかったのも、それから、こうして彼女たちにお願いをしているのも元をたどれば全部セオドア自身の問題だ。
ローズマリーのことを誰より、愛している自信はある。
彼女は、長いこと待ってくれて、セオドアがきちんとするまで時間がかかっても見捨てないでいてくれた。
もう不安はない。でも、きっと自分はローズマリーを誰より幸せに出来る男じゃない。
いろいろなものが足りていない。自分のことを端から見てローズマリーにふさわしいかと言われたら今でも答えは否である。
でも、それでもそばにいたい。
彼女とともに生きられない人生なんて、セオドアはいらない。
だから、身を引くことは出来ない。覚悟の上で、戦うほか無いのだ。
「こうして、チームのお願いをしているのも、全部僕の問題なんだ。僕は……ローズマリーにふさわしくない男だって、自分でもわかってるよ。っでも、一緒にいたくて……」
「なっ、なんですの突然!」
「のろけなんて聞きたくないのよ!」
「……もしかして、わたくしたちと組むとローズマリー様になにかいいことがあるのかしら?」
最後にクロエがそうセオドアに聞いた。
そうすると二人も「あら、そうなの?」と落ち着いて、セオドアを見やった。
「す、少なくとも悲しませないために、できることがあるんだっ」
そうしてセオドアは、場所を移す提案をして三人を説得した。
彼女たちは一様に、セオドアの母に怒り、セオドアにしっかりしろと怒ったが、最終的には協力を約束してくれたのだった。




