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兄が提案した食事会というのは、バークレイ侯爵家とメイスフィールド侯爵家の共同事業の提案を目的としたものだ。
そしてその場に、第一夫人であるマルヴィナは出てこなかった。
代わりに誰が来たのかというと第二夫人のハリエットという女性だった。
アルフレットはそのことをわかっていて、こういう形の交流を提案したのだろうか、それとも偶然か。
(お兄様のことだもの、わかっていて直接敵対するマルヴィナではなくバークレイ侯爵家に別の角度からアプローチできる機会を作ってくれたんだわ……)
あの人はもっと素直になって、こういうときこそ、兄をしたって抱擁してほしいと言ってくれればローズマリーも素直に応じるのに、なぜだか顔を出さないのである。
とても不器用である。
当日やってきた、バークレイ侯爵と第二夫人であるハリエットにローズマリーは瞳をパチパチと瞬いた。
「いやぁ、僕らも上り調子のメイスフィールド侯爵に声をかけていただき、嬉しい限りですよ」
なんせ、ダイニングテーブルを挟んで斜め向こうにいるバークレイ侯爵はセオドアととてもそっくりで、似たような話し方をする。
ただ若干の違いもあり、似ているのは魔法学園一年生のセオドアであり、今のセオドアよりも頼りない印象のまま年を取った様な感じだ。
しかし間違いなく血のつながりが感じられて、バークレイの血筋が強くて良かったとローズマリーは思ったのである。
あのマルヴィナに少しでもセオドアが似て無くてよかった。
「ご息女は、事務院の最上部からも声がかかるほどの功績をもち、ご子息は並外れた社交の才があり、我が妻のマルヴィナもメイスフィールド侯爵の教育の腕には感嘆しておりました」
「そう謙遜なさるな、バークレイの跡取りも先日魔法団への入団が決まったのだろう、素晴らしいことだ」
父は、気さくな笑みをうかべてセオドアのことを引き合いに出した。
家族以外には普通の父を演じるので、ローズマリーは隣でニコニコとしているだけで話は進む。
「いえいえ、まだ息子はこれからですし……でも私は、とても嬉しく思ってるんです、大変な子でしたから」
「子供は親の気持ちなど知らずに、行動に出るからな。この娘も一時は魔法学園に通わせたが学年首席の成績を持ちながら退学してきたことがあった。まぁ、今の仕事での成果を見る限り、間違いではなかったのだろうがな」
「おお、なんと魔法学園でも首席とは、息子の成績と取り替えたいぐらいです」
「はははっ、ご冗談を」
和やかに話をしている体を装いつつも、父はバークレイ侯爵に娘の成績を使ってマウントを取る。
喜ばれることではないだろうが、同格の家同士が事業を進めるとなったら将来性も大切な一部だ。それを示すことによって事情の主導権を奪い合っているのである。
この場に、母ではなくローズマリーが同席できているのも、兄が同じ年頃の子供がいるバークレイ侯爵にはローズマリーを自慢した方が優位をとれると言ったからだそうだ。
もちろん、異を唱えるつもりはない。
しかし、ローズマリーの成績の話に、ぱっとハリエットの視線がローズマリーに向いた。
「……」
「……」
「……ところでお話を頂いていた、素材の融通の話ですが……」
ある程度、前起き的な話が終わるとおずおずとバークレイ侯爵が切り出した。
彼の潜めるような声に会わせて、父も少し前のめりになって言う。
「まぁ、可能性の話だがな……今使ってる他領の工房が、街道の通行税のせいで……まぁ」
「ほう、なるほど。であれば、大きく迂回する形でこちらに」
「あの森は通れるのか?」
そうして二人は先ほどのにこやかな笑顔も忘れて、思案しながら言葉を交わす。
そこにしれっとハリエットが入っていき「お話が成立するなら開拓するもの手です」とバークレイ侯爵へと耳打ちした。
以降、ハリエットの言う言葉は大体理にかなったものばかりで、彼女がバークレイ侯爵家の実務面で活躍していることは簡単に想像できた。
食事会が終わると、ローズマリーが声をかける間もなくハリエットがローズマリーへと話しかけた。
「突然聞くけれど……あなたがセオドア様と一年のときに仲が良かったローズマリー様、なのですか」
父やバークレイ侯爵はこれから込み入った話をすると言うことで、すでに席を外し、ハリエットの後の予定は帰宅するだけだった。
ローズマリーはきょとんとして、それから問い返した。
「どうしてそうお思いに?」
ハリエットはセオドアと同じバークレイ侯爵家の人間だとしても母親ではない。
それにセオドアには、一緒にいると決めてから、ローズマリーのことを実家の周りの人間に言わないようにと口止めしてあった。
ローズマリーとセオドアが仲が良いことを知っているのは、二年以上前に聞いた話を覚えていて、なおかつ気に止めていたということになる。
それはあまりに不自然だった。
「あ、大したことではないんです。ただ、一時とても親しい相手だと話しているのを小耳に挟んだものだから」
「小耳に挟んだ、ですか」
「ええ、ええ。わたくしは長年子供を授からなくて、第一夫人のマルヴィナ様の生んだ、セオドア様を陰ながら見守っていまして、その名残でつい気になってしまったんです」
ローズマリーの問いかけに彼女はぎくりとした様子で狼狽し、いろいろと言い訳を重ねた。
一応、セオドアから聞いた限りでは、年の離れた異母弟がいるということなのでハリエットの言い分は矛盾していない。
それでも、矛盾はなくても違和感はある。
「学生時代あの子は、どんなふうでしたか? 他にご友人はいるのかしら? 今でも交流はありますか? セオドア様がお好きなものはわかりますか?」
ローズマリーは、その違和感をいぶかしんでいるというのに、彼女はそんなことも気にせずに質問をする。
「……セオドアは……」
「些細なことでも、かまいませんわ。少しでもあの子の情報を教えていただければ……もし事業が始まったときには、心ばかりのお礼をいたします、ですから、少しだけでも」
「…………」
ハリエットはニコッととてもキレイに笑ったけれど、明らかに様子がおかしい。
彼の情報をなぜ底まで欲しがるのか、ほしいならば本人に聞いてもいいだろう。
それをわざわざローズマリーから引っ張ってこようとして、怪しい以外の何物でも無い。
しかし、予感がある。
これはなにかの糸口だ。
ローズマリーは今までのバークレイ侯爵家の情報を全力でパズルのピースの様に組み合わせる。
情報を埋めていけばなにか隠されたピースの答えが見えてきそうだった。




