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33 主張




「何を勝手なことをっ! そんなもの読む必要はありませんわ!」


 ラルストン課長のデスクをダンとたたきつけてウェルズリー指導官はヒステリックな声を上げた。


「ま、まぁ、待て、そう慌てなくてもいい……ノークス見習い事務官、現場の意見を尊重するものこの課の事務官として非常に大切だ。しかし我々はいいなりになってはいけない」


 ラルストン課長はフィオナの持ってきた書類をペラペラとめくって、もっともなことを口にした。


 そもそも言いなりになるのなら、申請の確認なんて無用な仕事であり、精査し、時に却下することも大切な仕事である。


 その言い分に間違いはないだろう。


「……その意気込みは素晴らしいが…………システムとして担当のものが権利を持っているのは、前任から教えられた知識と経験で判断することが一番合理的だからだ」

「……」

「その、間を飛ばして私に直接というのは、乱暴が過ぎる。書いてある、薬の有用性や費用対効果も専門用語が多く、一概には判断できない」


 ラルストン課長はフィオナの意気込みは認めつつも、たしなめるような方向性で話を進める。


「ウェルズリー君は今までもこれらのことを精査した上で却下していたはず。魔法局の人間は、あれこれと都合のいい言葉を並べ立て、ウェルズリー君を悪者に話を聞いてもらえないと君を丸め込んだのかもしれない」

「丸め込む、ですか?」

「ああ、そうして利用して自分たちの意見を通そうとしただけに過ぎない、こういうことがまかり通っては、ほかの局の人間もまねするだろう。そういうことがあってはシステムの崩壊につながる」

「……」

「今回は若気の至りとして許そう。これらの書類に載っていたのは、ウェルズリー君から聞いていた魔法薬や魔法具の名前ばかりだ。すでに、決定は下っている。それでいいかな」


 そうして、ラルストン課長はフィオナの訴えを軽く一蹴し、優しい笑みをうかべる。


 ラルストン課長の言葉に、ウェルズリー指導官も満足げに胸を張ってたしなめられたフィオナのことを見下ろしていた。


 彼の言っていることは一見して正しいように見えるが、その理論は正しくない。


 なぜなら、指導官の決定がすべて正しいなら、課長がもう一度申請を確認する必要性がなくなる。


 そういう理論破綻があった。


 しかし、ローズマリーは指摘することなく少し、緊張しながらフィオナのことを見つめていた。


「いいえ!」


 そしてフィオナは真っ向から課長の言葉を否定した。


「私は、私なりにきちんと知識を入れて考えました、ウェルズリー指導官の判断はとても自分勝手で看過できないものだと思っています! その判断は変わりません!」

「何ですって……」

「これらの書類は、たしかに今までウェルズリー指導官にされていた説明や訴えの内容と同じです! 核心的な違いがあるわけじゃない、でもきちんと見れば魔法の知識がなくたって何が正しいかわかるように書かれています! 課長! きちんと精査してください!」

「…………」


 ラルストン課長はフィオナの言葉に、顔をしかめて、一言で言い表すなら面倒くさそうな顔をした。


 そしてフィオナの言葉にすぐにウェルズリー指導官が声を荒げた。


「何を言ってますのっ!! 今までと変わらない?! のなら精査する意味なんてありませんわ! わたくしが間違っているとでも言うつもり?!」

「そうだと言っています!」

「あなたに何がわかると言いますの、事務官としてすら経験が浅いあなたが正しいと言ったところで、何の意味があるって言うのぉ!!」


 ウェルズリー指導官とフィオナの声はすでに喧嘩のような状態だった。


 ラルストン課長は、面倒くさそうに見上げているだけだ。


「勉強しました! 最先端の魔法具も、様々な魔法薬、特に魔力強化薬は魔法使いたちの負傷や死亡のリスクを下げ、高度な治療の経費や、魔法使いの人員不足の解消に役立ちます!」


 フィオナは口頭でその有用性について大きな声で示す。


 しかし、負けじとウェルズリー指導官も声を張り上げた。


「ハッ、そんな言葉はねぇ! 魔法使いたちが、楽をしたいからと申請して事務官が言うことを聞いてでっち上げた数字ですわ! そんなこともわからないで自分で判断したなんて、笑わせないでくださる?!」

「楽をするしないではなく、実際に、起こってしまった負傷や死亡の状況から算出されたデータです!」

「だから! そんな数字など目先のまやかしですわ! 何度も言っているでしょう、わたくしは今後百年ことを長期的に考えて、申請を見ているんですのぉ!!」


 ウェルズリー指導官の声は、遠くに居ても耳を塞ぎたくなるほどキイキイとした声だ。


「わたくしは知っている! 魔法使い側の知識や思惑をわかっていますの! その上で、最近の魔法使いは楽をすることで、どんどんと質が下がって言っている!」

「それはっ、」

「支給品として用意せずとも、勝手に魔法具や魔法薬を購入利用し! 魔法使いにとって命とも言える魔力を出し切らずに戦い、どんどんと衰退しているのよ!」


 フィオナが一瞬言葉に詰まると彼女はさらに、高らかに声を張る。


「それを懸念してわたくしは、支給する必要などないと判断していますのっ! 実際にわたくしの時代では、魔法学園でも魔法薬の支給はごく希でしたわ!!」

「っ」

「そういうものを使っている人間から落第していき、最後に残り立派に卒業するのは、自分の力で精一杯戦ってきたものだけ!!」


 彼女の語り口のボルテージはマックスだ。


「わたくし自身もそうして己を高めてまいりましたわ! そうすることでこれから先の魔法団の経費は削減され強い魔法使いが育つ!! そうした長期的な思考が――」


 そしてローズマリーは紙束を腕に抱えて立ち上がった。




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