31 友人
普通に整理整頓してあれば問題なく見つかると思ったのだが、普通の範疇を超えているらしい。
思わぬ事態だがどうにかするしかないだろう。せっかく許可をもらったのだから実行したい。
しかし、ローズマリーには本来の仕事もあって時間が無く、自分でその作業をすることは難しい。
それは物理的な制約で、休みの度にやってきて作業をすると言うのは無理がある。
ほかに何か手はないかと思考を巡らせていると、セオドアが言った。
「だから僕も考えたんだけど、彼女たちに手伝ってもらうのはどうかな? 口外していいかわからなかったから伝えてなかったんだけど、きっとシェリルさんもクロエさんもイーディスさんも君がお願いすれば喜ぶと思うし……」
セオドアの言葉に彼女たち三人の顔が浮かぶ。
学生時代、手を貸すだけ貸したものの、なんとなしに距離を置いてしまった三人だ。
先日、素敵な男性も紹介もされたので、未だに恩を感じてくれているのだと思う。
「あと……実は、今日ローズマリーが来ることバレちゃって、多分、こっそり扉の外で話を聞いてると思う……」
セオドアがそう言った途端に扉がガチャンッと勢いよく開いて三人がなだれ混むように入ってきた。
それからクロエが一番前に出てビシッとセオドアを指さした。
「なんで言っちゃうんですの! セオドアのおたんこなす!」
「そうよ、そうよ! 作戦が台無しですわ!」
「そもそもあなたがわたくしたちにローズマリー様のお願いごとを教えてくださらないのが悪いんですのよ!」
彼女たちはやんややんやと文句を言ったが、ローズマリーが目を向けるとピタッと黙る。
三人寄り添ってそれからイーディスが「お見苦しいところをお見せいたしましたわ、ごきげんよう、ローズマリー様」とキラキラした瞳で言った。
今まで彼女たちにその瞳を向けられるとぽわぽわと父や母の顔が思い浮かんだ。
「あれに利用しよう」「これに利用しよう」「どこそこの令嬢だからこういうつながりが」と言うだろうと思うし、それが間違ったことではないと思っていた。
だからそういうふうにするべきだと漠然と思っていたがどうにも、口を開けない。
目をそらしたくなる。
自分がそうだった理由をローズマリーはもう知っている。
だから、その気持ちを打ち破ることができる。ローズマリーはただ人と、利益も打算もなしに付き合っていいし家族とは違う人間だ。
助けたから利用するのではなく、必要な時には手を貸して、時たま手を貸してもらうこともあって、そこにあるのは彼らに対する敬意と情だ。
もちろん全員にそういうふうな接し方を求めてやるわけではないけれど、打算だってあっていいけれど、無いまま手を取り合うことだって、誰に咎められることでも無いはずだ。
自分もそういうふうに人と関わっていくべきだと思っていた。
「……ごきげんよう。シェリル様、クロエ様、イーディス様、とても懐かしいですわ。お久しぶりですね」
「おっ、お久しぶりですっ」
「聞いた!? ローズマリー様に名前を呼んでもらえましたわ!」
「なんてこと! 時を止める魔法があったら今のまま止まってしまいたいですわ!」
彼女たちは相変わらずかわいらしい感情表現をするので、ローズマリーはクスクス笑って、続けて言った。
「先日は素敵な殿方の紹介をありがとうございましたわ。でも、わたくし、公にはしていないけれど心に決めた人が居ますの」
「まぁ!」
「初耳ですわ!」
「ですから、良い返事をできなくてごめんなさいね」
「滅相もございませんわ!」
「お気になさらず!」
「お幸せに!」
「でも、あなた方とは、わたくしもっと仲良くなりたいと思ってますの。本当は……学生の時から心の中では……その、多分……友人になりたかったんですわ」
「「「!」」」
三人は一同そろって驚き、お互いの手をぎゅっと握っていた。
突然のことに驚いただろうが、そういうふうに関わっていきたいのだ。
打算しかない人も居るだろうし、ローズマリーもそういうふうに動くときもある。
けれども、ローズマリーが進んで関わって、一緒に居て嬉しかったり楽しかったりするのはやっぱり、セオドアのようなまっすぐな人たちだ。
そう思えたから、時間をかけて自分の性分を知れたから言えた言葉だった。
「今度長期休暇があったら、お茶会でもしませんか?」
「する!」
「します!」
「全力でしますわ!」
「ありがとう」
お茶会の予定を全力で肯定されてローズマリーはほっとした。
なんだかここ最近胸につかえていたものがとれて、とてもすっきりとした気持ちだった。
しかし、本題は忘れてはいけない。
クロエ、イーディス、シェリルと友人になるためにここに来たわけではない。
「ところで……クロエ様、イーディス様、シェリル様……わたくしの新しい友人が少し困りごとを抱えていて、それを解決するために、人手が必要なんですの。お時間があれば――」
「時間なんて有り余ってますわ!」
「その通りよ!」
「この期に及んで時間が余ってない人なんて居ませんわ!!」
「え? ふふっ、余ってない人が居ないってどういうこと?」
シェリルの言葉にセオドアが、笑いながら突っ込みを入れると彼女はぷいっとそっぽをむく。
「あら、セオドアったら野暮な突っ込み入れないでくださいませ!」
「さ、行きますわよ! せっかくローズマリー様が頼ってくださったのだもの!」
「書類だかなんだか知らないけれど見つけますわ!!」
「これ、廊下を走ってはいけない。まったく、なぜ三年になっても落ち着きがないのだ」
クレイン先生はゆっくりと立ち上がって、これまたゆっくりと歩き出す。
その周りをシェリルたちは取り囲んで、ローズマリーとセオドアは彼女たちのことを見ながらゆっくりとついて行った。
どうやら三人はローズマリーがあれこれやっている間もあまり変わっていないらしい。
何はともあれ力強い友人ができてローズマリーも心強く思ったのだった。




