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30 教師



 ローズマリーは久方ぶりに、魔法学園内へと足を踏み入れた。事前に教師に連絡を取り、約束をしているので制服を着ていなくてもすんなりと中へと入ることができる。


 学園内は、生徒たちで賑わっていて、一時は自身もその一員で、何の違和感も持っていなかったが、今は疎外感を感じて少しそわそわしてしまう。


 入っては行けない場所に入ってしまったようなそんな心細さだった。


 緊張しつつ校舎の応接室へと向かう。

 

 指定されたその場所の外では、セオドアが待っていて、ローズマリーを見つけるとパッと表情を明るくして、笑みを浮かべる。


「ローズマリー、学校内で会えるとまたなんか特別な気分だね!」

「そうですね。先生はもう待っているかしら」

「うん。入ろっか……あ、そうだ。これって、すごく内密な話だったりする?」


 ふとセオドアは、キョロキョロとしながらそう言った。


 彼の言葉を不思議に思いつつもローズマリーはかぶりを振って「いいえ」と答えた。


「ならよかった、さ、いこ」

「ええ」


 応接室へと入るとそこには、白髪のひげをたっぷりと蓄え、丸い眼鏡をかけた壮年の男性が座っている。


「お久しぶりです。クレイン先生」


 そばによって、挨拶すると彼はゆっくりと立ち上がって、ローズマリーに手を差し出した。


「久しいなぁ、メイスフィールド。息災であったか」


 彼の手を取り、ローズマリーはなんだか少し胸が苦しくなった。


 彼、クレイン先生は、一年生のときのローズマリー担任の教師である。


 当時は少々腰を痛めていて、書類運びから授業の準備までいろいろと手伝って交流を深めたものである。


 ローズマリーが学園をやめるときも一番引き留めて、追試を提案してくれた。

 

 そんな彼であれば少しばかりローズマリーのお願いを聞いてくれるだろうと踏んで連絡したのだ。


 セオドアにも腰の悪い彼に頼み事をしたから支えてほしいと伝えたのだ。


 どちらとも快く動いてくれて、ローズマリーはやっぱり違うと思った。


 昨日の家族との会話は間違ってはいないけれど、ローズマリーの今いる……居たいと思う場所とは違うのだ。


「はい。先生。……長年目指していた仕事ですから、とても充実した日々を送っています」

「後に、君から詳細を聞いたときには驚き、試験はどうか、初日はどうかと気を揉んだものだが、その顔を見るに嘘ではないようじゃ」


 言われてローズマリーは自身の頬に触れてみる。クレイン先生から見てどんなふうに見えているだろうか。


 不本意な学園生活を送っていた時に出会ったからこそ、違いがわかるのだろうか。


「良かった。君を見ていた期間は短いながらも印象に残る生徒だったからのう。君のおかげで助かったこともあった」

「……」

「そんな君の願いだ、もちろん叶えよう、じゃが内緒だぞ。褒められたことではないからのう」

「ええ、承知してますわ」


 クレイン先生は早速、本題に触れる。


 こうして手助けしてくれるのは、ローズマリーが意図的に恩を売ったからその効果が出たわけではない。


 ただ、担任が腰を痛めたおじいちゃん先生だったから手伝おうかと声をかけただけなのだ。


 その結果、彼も好意でローズマリーのお願いに答えてくれるだけ。


 そこには強制も絶対もないのだ。


 行動と結果は同じで、変わるのは見方だけかも知れないがそういうふうに考える方がローズマリーは性に合っているし、打算や利益がなくたって自分の意思に従った行動がしたい。


 フィオナを助かる合理的な理由はない、けれどもそうしたいからそうするそれでいい、と思いたい。


「ならば問題ないな。……ただ、たまにはまた顔を見せておくれメイスフィールド」

「はい。必ず」

「よし、では、早速……渡したいのはやまやまなんじゃが……実はのう」


 クレイン先生は自分のあごひげをわしわしとなでながら困った顔をした。


 言いよどむ彼に隣からセオドアが言った。


「実は、昨日、倉庫を開けてみたんだけど、ごっちゃごちゃですっごい量でね、僕一人だと……見つけられるか、どうか……」

「次から次に詰め込んでいるからのう。自然とああなるのじゃ。その中から数枚の書類となると……時間がかかるかもしれぬ」


 言われてローズマリーは口元に手を当てて考えた。


 もちろん探すのに多少手間がかかるとは思っていた……が、まさか見つけられるか怪しいほどになっているとは思わなかった。

 



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