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29 家族


 ローズマリーはホワイトリー指導官の見習いとはいえ、ウェルズリー指導官のチクチクとした攻撃を受けていた。


 食堂へ向かうと食事に誘うくせに文句を言われ、なぜか雑務をローズマリーにふり、朝一番で服装に対して文句を言うのがウェルズリー指導官の日課である。


 フィオナには、自分がウェルズリー指導官の嫌がらせを肩代わりするなんて、なんてことをしたんだと怒られた。


 ローズマリーが肩代わりしなくてもやれたと彼女は言うが、この方が効率がいいことは確かだし、その分頑張ってくれと説得した。


 それに、彼女がいくらチクチクと攻撃したところで、ローズマリーの指導官はホワイトリー指導官なので、言うことを聞く必要がない。


 それに遠回しな侮辱など、対応するだけ無駄である。あれからローズマリーは何を彼女に言われても「ええ」とだけ答える機械と化していた。


 そして一週間を終えて、休日がついに明日へと差し迫る。


 今日は準備を済ませて早く床に就こうそう考えて、帰宅した。



「そういえば、今日小耳に挟んだが、どうやらローズマリーは職場でやっかいな女事務官に目をつけられているらしい」


 家族そろっての夕食の席で、アルフレットがそんな話題を出した。


 彼はにまにまと笑っていて、ローズマリーの様子を窺っている。


 父はその言葉に明らかに機嫌を損ねて、ローズマリーを見やった。


「聞いていないぞ、ローズマリー」

「言っていませんもの」

「なぜ共有しない」

「必要性を感じませんわ」

「必要だ。その事務官がどこのどんな奴か知らないが、我がメイスフィールドの娘に目をつけるとは良い度胸じゃないか」

「……」

「その通り、詳細に話してくれよ? ローズマリー、逆に味方を増やしてそのやっかいな事務官を成敗したっていい、そうすればお前の職場での立場はうなぎ登りだ」

「よく言った。我がメイスフィールド侯爵家の貴族たるもの常に向上心を持たねば」

「……」


 父と兄は、ペラペラとローズマリーのことについて話し出す。


 ローズマリーは黙っているのに、彼らはその先の利益を見据えているのである。


「逆境は利用してこそだ、脱するためにコストを支払い、越えた先でこそ手にできる多くのものがある。ツテ、信頼、出世への道筋、ローズマリーは頭がいい、それがわからない訳がないはずだ。この父が協力してやろう」

「……」

「この兄様のことも頼っていい。代わりに兄様大好きって言ってくれ」


 母は静かにその流れを見ていて、それからアルフレットに大して「そんな対価で手を貸すなど酔狂ですわ」とおっとり言った。


「例えば人事権、その女事務官も多少は口出しできる立場でしょう? 新人をいじめるのはいつも地位のある古株だもの。追い出してあなたがそれを握ってわたくしのお願いを聞いてくださるなら手を貸すわ」

「いや、それよりも、その女を悪人に仕立て上げて、ローズマリーが早々にその女を告発し成果あげさせよう。さすれば、王族の専属への地位も見えてくるではないか」


 ローズマリーの家族はローズマリーが苦しんでいるかもしれないということに興味は無い。


 その状況をどう利用するかしか考えていないのだ。


 だからローズマリーが事務官の夢を話したところで、現実問題としてレジナルドの意見を拒絶する理由も方法もないと言う答えしか出さない。


 魔法学園を勝手に理由もなくすべての責任を放棄して帰ってきたのなら、怒るが、成績を落とせと言う脅しがあった上での結果ならば、相手から損害の分だけ搾り取る方法へとシフトする。


 そういう人たちであり、その中でローズマリーは育ってきた。


 別にローズマリーは彼らのことが嫌いではない。


 嫌いではないが、最近思うのである。ローズマリーはどうやら彼らと違うらしい。


 家族なので少なくとも似通っている人間だと思っていたが、ローズマリーは思うとおりに生きると彼らと意見がかみ合わない。


「すでに、職場内の同僚とともに策を打っていますわ。協力の申し出はその後検討しますわ」

「ふむ、さすが我が娘、まったく魔法学園をあんな形で中退しなければ最高の結婚をさせられたと言うのに」


 父には説明したところでローズマリーが事務官にある種の憧れがあったからその仕事に就きたかったという気持ちがわからないのだ。


 それは魔法学園に入れられたときに理解している。


 損か得かという勘定の中で、どれだけ得を出すかと言う考え方をしていて、明らかに間違いは起こしたりしないが、常に気の休まらない相手なのである。


 ローズマリーは結局レジナルドの件が無くとも、父に操られて、兄に丸め込まれて自分の道を歩いていなかったと思う。

 

 それを警戒しながら、ときにこちらだって利用するそれが、ローズマリーの基盤の人間関係である。


 ただ、それだけがすべてではないと自分の中には確信めいたものが存在しているのだった。




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