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「はぁ、下品。若い子ってどうしてこうなんですの? そうまでして注目を浴びたいの? それに、似合ってないわあなたのセンスっておかしいんじゃないかしら? 言われたことありません?」


 また始まったとローゼマリーは向かいをチラリと見ながら思った。


 向かいの席で行われるフィオナいじりの言葉は、今日も切れ味が抜群だった。


 フィオナは、それほど主張の強くない控えめなリボンを髪につけているだけだが、それ一つを見てセンスの話まで飛躍させるのはさすがと言える。


 ここ二週間は聞き流すしかなかったが、今日は違う。ローズマリーは静かに机に手をついて立ち上がった。


 人を傷つけないように、仲良くなるために話をすることは時に難しいと感じることもあるが、あえて怒らせる言葉というのはとても簡単に思いつくものだ。


 なんせ長年聞いてきたので。


「他人のリボン一つにそこまで言う人は、たとえセンスが良くても……ほかのところで損をしそうだなとわたくしは思いますわ。申し訳ありません。つい、口を出してしまいしたわ。ウェルズリー指導官があまりに自覚がなさそうでしたから」


 これはレジナルドのやり口である。


「……」


 ウェルズリー指導官は突然自分の向かいから敵が出現したことに、未だ理解が追いついていない様子だった。

 

 その隙にローズマリーは続けていった。


「自覚がないところで損をしては不憫ですもの。言って差し上げます。センスが良かろうが、悪かろうが毎日他人のアラを探して貶す人間の方がよっぽど避けられるものですのよ?」

「……なん、なんですの」

「ウェルズリー指導官のことを思っての指摘ですわ。見習いの身分で申し訳ありません。でも、言いたかった、あなたのために」


 ローズマリーはデスクを挟んで向かいにいる彼女にも、それ以外の人間にも聞こえるよく通る声で言った。


 特に隣に座って、フィオナへの文句に顔を渋くしていたホワイトリー指導官はぽかんと口を開いていた。


 言うだけ言ってローズマリーはなんてことがないように静かに着席した。


 事務室は途端に静まり帰った。


 全員がウェルズリー指導官の様子を窺うように視線をやっていて、しばらくするとバンッと机をいつもよりも強くたたく音がして、立ち上がった彼女は顔を真っ赤にしていた。 


 握った拳をわなわなと震わせて、目の下をピクピクとさせながらローズマリーを鬼のような表情で凝視していた。


 しかし、堪えて身を翻しずんずんと歩き出して、事務室を出て行った。


 それからしばらくして、ホワイトリー指導官が「少し外にでましょうか」とローズマリーを誘ったのだった。




「なぜ突然あのようなことを?」


 ホワイトリー指導官は、中庭が眺められるベンチに座って、そう言った。ローズマリーも隣に腰掛けて、にこりと笑みを浮かべる。


「ノークス見習い事務官には少し時間が必要なのです。しかしウェルズリー指導官が障害になるので、すこしわたくしが肩代わりをと考えまして」


 ローズマリーはフィオナのために作戦を立てた。


 それなりに成功率の高い代物であり、すでにウォーレスとフィオナには共有済みである。


 もちろん彼女は喜んで絶対に成功させると意気込んだが、このまま実行するにはフィオナの負担が大きすぎる。


 ということで彼女に了解を取らずにローズマリーは独断で彼女が動きやすいようにウェルズリー指導官の矛先を強引に自分に向けたのだった。


「考えがあって、ということですか」

「はい」

「……」


 ホワイトリー指導官は細く息を吐き出して、自身の膝に肘をついて廊下の地面をじっと見つめた。


 ホワイトリー指導官は、いつもウェルズリー指導官のことを気遣うように声をかけていたが、ローズマリーもさすがに、好意からではないことは気がついている。


「……ふふっ、やはり大物でしたね。あなたは」


 そう言ってホワイトリー指導官はとても砕けた笑みを見せた。


「あれほど怒っているウェルズリーさんのことは久しぶりに見ましたよ。実は、私も彼女のことを良くは思っていません」

「知っています」

「おや、意外です。バレていないと思っていました」


 ローズマリーは彼がバレていないと思っていることの方が意外だった。


 なんせウェルズリー指導官に彼が声をかけるときは、いつも理不尽に他人に当たり散らしているときだ。


 本当にああいう女性が好きな人間はわざわざそういうときに声をかけたりしないだろう。


「ただ、情けないですが、あんなふうにしか、私はあの人のことを止めることができません。職場で揉めるというのは案外恐ろしいことでして、穏便にと思ってしまうんです」


 それをホワイトリー指導官は悪いことのように言ったが、ローズマリーはそんなふうに彼を思っていない。


 職場で問題を起こすことを恐れる気持ちがありながらも、できる限りのことを自分もやろうと思って実践している。


 それが何より大切なことなのではないだろうか。


「でも、若いあなたたちが、理不尽にあらがおうとしているのですから、応援します。まぁ、それにあなたは私の見習いですから……守りますよ」


 そんな彼のことを見越してローズマリーは行動を起こしたのだ。


 ホワイトリー指導官の見習いであるローズマリーならば、ウェルズリー指導官の矛先が向いても手出しはしづらい。


 ホワイトリー指導官も、目の前で文句をつけられればローズマリーを守ってくれるだろうとわかっていた。


 そういう打算があって大きく一歩踏み出したのだ。


 そんな、打算まみれで自分勝手でも彼は笑って許してくれる。それはありがたいことでだからこそ、きちんと成功させなければと改めて思うのだった。




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