27 検討
「落とすっていっても、ウェルズリー指導官は……大して悪いことはしてないと思うな。基本的に私のことは酷く言うけれど、立場のある人には丁寧だし」
「地位が低くても男には基本的に好意的に接するよな」
「若い女の子にたいしてはあれだけど……あとは悪いことって言っても、たまに魔法局で時間を潰してサボったりしてる……けど、本当にそのくらい」
フィオナは頭をひねってすぐに問題視できるような事柄を探すが、多少のサボり程度では、信用を落とすほどとは行かない。
しかしローズマリーが言っているのはそういうわかりやすい部分ではなく、先ほど彼女が言っていた話の中にあった部分のことだ。
「ふむ。そういう方向性もいいですが、先ほどフィオナ様がおっしゃっていた、魔法局と話がかみ合っていないと言う違和感についてお聞きしたいですわ」
「あ! そうだったね! そうなんだよ! ウェルズリー指導官は魔法局の備品や支給品の発注申請の確認とかしているんだけど、いっつも魔法局の事務官たちとは意見が食い違ってて」
「と、言うと?」
「事務官たちは、最新の予算的にも効率がいい魔法具とか魔法薬がどれだけ役立つかを話してるんだけど、ウェルズリー指導官は……そもそも魔法とは、って話してるんだよね」
たしかに、何を使うかを話しているのに、魔法とはこういうものだからという話をするのはかみ合っていない。
「ウェルズリー指導官が言うには、魔法の根源とは魔力で、限界まで使えば使うほど強くなるとか、薬に頼ると逆に弱くなるとか、便利なものが出始めたことによる弊害が出ているとか……?」
「……」
「たしかに調べてみるとそれって本当のことではあるみたいで、そういったものを削減していくことこそ魔法団全体の成長と今後の予算削減につながるんだって……でも実際魔法局の事務官の人たちは、結構必死で……っていうか大体怒ってて……」
詳しく聞くとウェルズリー指導官の言いたいことが見てきて、ローズマリーはどうにもあきれてしまって額に手を当てて目をつむった。
たしかに、魔力は限界まで使用することによって量が増えるし、高度な魔法紋の組み込まれた用途が固定された最新の便利な魔法具ばかり使っていると、様々なことに自分で転用し操ることができた事を忘れてしまう。
しかしそれはあくまで、訓練段階の話であって、実践の話ではない。
魔獣の討伐など命の危険がある仕事をしている人間が限界まで魔力を使えば、魔法が打てなくなって死ぬのである。
魔法具だって高度で素早く使えるものがある方がいいに決まっている。
そんなことは考えなくてもわかるだろう。ウェルズリー指導官は本当に魔法使いの資格を持っているのか。
「ウェルズリー指導官は、今の時代はおかしいって思ってるみたい。指導官が魔法使いを目指していたときは、もっと魔法を操るのも高度な技術が必要で、誰も薬になんて頼ってなかったんだって、そうやって強くなったんだって」
「誰も……ですか」
「うん。今は甘すぎるって」
フィオナの話を聞けば、ウェルズリー指導官の理論を打ち崩すのは割と簡単で、彼女は大して正しいことなど言っていないとわかる。
ただ、ローズマリーにはわかると言うだけで、そのローズマリーの答えを大衆に納得させる方法はない。
なぜなら、ウェルズリー指導官は資格をもっていてローズマリーは魔法学園を退学しているからだ。
そして、現在苦しんで居るであろう魔法局の事務官たちもまた、ウェルズリー指導官を、必死になって説得するしかない状況にある。
「……」
「どう? ローズマリー、ローズマリーの目線からどっちが正しいのかな? 魔法局の人たちだったら魔法局の事務官の言い分をラルストン課長に持っていってウェルズリー指導官を叱ってもらうとかできるかも!」
「…………」
「難しい?」
ローズマリーの頭の中には様々な考えが巡っていた。フィオナのやりたいこともわかる。
しかし、ローズマリーにはその正しさがわかるが、誰から見ても明確な正しさとは言えない。
それを証明することが難しいから、ウェルズリー指導官はそんな自分勝手な論理を掲げていてもこうして女性最年長になるまで勤め上げているのだろう。
けれど同時に、完全に崩せない鉄壁というわけでもないのである。
その壁を突き崩す方法をローズマリーは持っていると言えるのか。
フィオナにも動いてもらう必要があるが、こんな時間まで残業があって日々の業務も重たい彼女にそれができるのか、懸念だらけで答えは簡単に出せない。
それでもローズマリーはフィオナと話してみて、ウォーレスの気持ちをそばで見ていて、やっぱり動きたいと思った。
「……前向きに検討しますわ。時間をください」
「! もちろんっ、ありがとうね! ローズマリー」
「なんかできそうな事があったら俺も! 協力するからなっ」
そうして夜の三人だけの会合は幕を閉じて、王国事務院の建物から外に出た。
夜の空気は少し冷たくて、月と星が輝く時間に「また明日」と挨拶するのがとても新鮮な夜だった。




