25 幼馴染み
「フィオナと話すには?」
ローズマリーの前に座っているウォーレスは、ローズマリーの言葉を復唱してどういう意味かと問いかけた。
彼は、見習いの同期であり、同じ課。二週間前には隣に並んで挨拶した人物であり、今では希に昼食をともにする仲だった。
特殊な経歴があり、彼よりも二つ年下のローズマリーに対しても、気さくに接して、あれこれと話をしてくれる気のいい友人だ。
そんな彼とともに食堂で食事を取りながら聞いてみた。
「ええ……彼女はいつも忙しそうにしていますもの。突然声をかけて、迷惑をかけるわけにもいきませんし」
「なるほど」
向かいの席で彼女を観察していると、多くの仕事を割り振られ、それでもウェルズリー指導官に怒られないように気を張って必死にこなしている印象だ。
そんななかでローズマリーが気さくに声をかけて、ペースが乱れて隙が生まれ彼女が怒られるようなことになるのはいただけない。
できるだけ、空いた時間に余裕を持って交流を持てるのがいいと思うのだが、そのタイミングに心当たりもないので、身近な友人のウォーレスに聞いてみたと言うわけだった。
しかし、彼に聞けば兆しが見えるだろうという、なにかしらの理由があったわけではない。
単に、身近で聞きやすいと言うだけで有力な情報源とは考えていなかった。
「……話すにしてもなんの用事だ? 見てわかると思うが、あいつ指導官がちょっとだからな、結構参っているぞ」
ウォーレスは食事を取る手を止めて、少し視線をそらしてそっぽを見ながらそんなふうに言った。
その言葉はまるで、フィオナをすでによく知っている関係性みたいに聞こえる言葉であり、さらに言うと、ローズマリーのことを少し警戒しているみたいに思えた。
「……ノークス見習い事務官とお知り合いなんですか? 彼女、この課に入ってからすぐに忙しそうにしてたので誰とも面識はないと思っていたのだけれど……」
「知り合いってか、同郷……幼馴染み? 腐れ縁?」
「そうだったんですか」
「まぁな。お互い末っ子で親に期待されない同士、反抗してみたり、下町に降りてはっちゃけたり、いろいろしたな」
ウォーレスはフィオナとの思い出を懐かしむように優しい声で話す。
まさかこんなに身近に、彼女に近い人間がいたとは思わなかったのでローズマリーは意外に思いながら深く頷いた。
「でも、まぁ……それでもなんか、人生変える手が欲しいなって。それで二人で王都の事務官目指した……ってだけの普通の幼馴染み」
「いい関係ですわね」
「そうかぁ? まぁ、悪くはないけど……だからっつうかなんつうか、あいつ今余裕ないと思うから、あんま付き合いは良くないと思うが……」
彼はどうやら、ローズマリーをあまりフィオナに関わらせたくない様子だった。
きっと、彼なりに大変な彼女のことを気遣ってそっとしておいてやるために言葉を選んでいるのだろう。
しかしローズマリーは、なんとなく好意的に思っているから、とか興味本位で話してみたいからとか、そういう理由でフィオナと面識を持ちたいわけではない。
説明したい事項はいろいろとあったが、その前にローズマリーは彼がフィオナをそっとしておこうとするのが彼の優しさだと思ったので口にした。
「ノークス見習い事務官のことを大切に思っていらっしゃるのね」
「べ、別にぃ? っただ、あ、あいつが気ぃ立ってて同僚の間でもこじれたら、ローズマリーも嫌だろ、だから俺はな、別に、二人の快適な職場環境をだな、守ろうとしてるだけっつうかな!」
ローズマリーに指摘されると、ウォーレスはなんとか否定しようとするが、それが照れ隠しであることはさすがにわかる。
その、あからさまなのに隠そうとする様子にクスクスと笑って「それは、失敬見当違いでしたか」と言ってそれ以上指摘しないことにした。
ローズマリーが引き下がるとウォーレスは「おう」と短く返し、話を続けることにした。
「それで……ウォーレス様、気遣いは嬉しいですけれど、わたくし、ノークス見習い事務官のお話を聞けば提案できることもあると思いますの」
「提案?」
「ええ、ご存じのとおり、わたくしは魔法学園へ通っていたこともありますもの。魔法の知識がそれなりにございますわ」
「!」
「少しは有益なお話ができると自負していますわ」
ローズマリーは自身の胸に手を当てて、少し強気に笑みを浮かべる。
任せてほしいと示すための笑みだった。
しかし彼は少し、黙ってそれからぽつりと言った。
「ありがてぇとは思うけど……なんで、わざわざ?」
その疑問にローズマリーは、簡単に答えを見つけることができる。
論理的な理由付けをすることができる。しかしながら、最近少し自分について思うところがある。
もしかするとローズマリーは、自分で思っているほど論理的な人間ではないのかもしれない。
ベアトリスの時も、理論よりも先に体が動いた。
いつだって人に手を貸したときには、それらしい理由をつけたけれど、その後、合理的にその人たちを利用したりしない。
ローズマリーは別に恩を売りたいからやっているわけでもなんでもないのだ。
そんな自分が最近よくわからない。
けれど、最近、将来のことを考えると浮かんでくるのは、ローズマリーがいたことによって、喜んでくれた人たちの顔だ。
「…………そう、したいと思ったからですわ」
「ふぅん。いい奴だな。ローズマリーは」
「そうでも、ない、と思います」
「そうか?」
ウォーレスはローズマリーが理論的な説明をしなくても、いい奴と言って納得してくれる。
それは少しむずがゆくて否定したのだった。




