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24 攻撃



 バンッとまた机が小さく揺れて、向かいにデスクのいるウェルズリー指導官が目をつり上げて、目の前に居る見習いに伝えるためには大きすぎる声で言った。


「こんなものをもらってこいと誰が言ったのかしら?」

「……ですが、魔法局の方々は正しい申請だと……」

「あちらの言い分ではなく、わたくしはこんなものをもらってこいなんて言っていないという話をしてますのよ!」


 見習いの女性――フィオナ・ノークスに向かって、話題にしている紙を見せつけて、ウェルズリー指導官は続けた。


 彼女たちの担当部署は魔法管理局であり、各局の中で一番小さく、担当の人数が少ない。


 自ずと一人一人の権限が大きくなる。


「魔力増強薬なんて、そんなものは無駄でしかありません。わたくしは魔法使いの資格を持っているからわかります! あんなものは高価なだけで何の身にもならない無駄な出費!」


 さらにウェルズリー指導官は魔法使いの資格持ち、それは魔法局の管理をする上で誰も文句を言えない絶対の権力だった。


 加えて子供も産まず結婚もせず仕事一筋で、女性の中で課の中で最古参。


 身分は高くないものの、課長ですらウェルズリー指導官の言うことを聞くことが多い。


「きちんと言ったはずですのに! それなのに魔法局の連中に言いくるめられてこんな書類を持ってくるなんて……魔法局に顔のいい男でもいたんじゃないの?」


 ウェルズリー指導官は、フィオナをおちょくるように言った。


 大きく周りの人間に聞こえる声で。


「色目使って、媚びてるうちにわたくしの指示を忘れてしまったんじゃない? ここに何しに来ているのかしら? 婚活?」

「ち、違いますっ」

 

 フィオナはぐっと眉間にシワを寄せて、拳を握って震わせる。それでも声を荒らげたりせずにしっかりと返答をする。


「そうは見えませんわね? 派手で下品な化粧、髪も男にアピールするみたいに高く結い上げて……改めて言うけれどここでは”仕事”が一番大事なんですの。男に媚びて下品に愛想を振りまくことよりね?」

「……そんな、つもりは」

「そんなつもりがないなら、きちんと仕事をしてくださる? 教えたでしょう? わたくしの教え方が悪いって言うの? はぁ、献身的な指導官に対して酷い仕打ちですわ」


 もう二週間、こんな調子であった。


 一応誰が見ても、ウェルズリー指導官がフィオナの些細な部分に目くじらを立てていて心が狭いとは思うだろう。


 しかしそれ以前の実務上のことについては、フィオナが本当に、指示を忘れてウェルズリー指導官を困らせているのか、ウェルズリー指導官が悪いのかはわからない。


 ウェルズリー指導官に文句を言う人間は今のところ誰もいない。


「ウェルズリーさん。少し気を抜いて指導をしたらいかがですか? あまり叱ってばかりだと疲れてしまいますよ」


 ホワイトリー指導官は文句は言わないが口は出していた。


 彼は「そうだ」と思い立って、自身のデスクから紅茶の茶葉が入った缶を取り出した。


「先日、購入したものです。香りがいいらしく是非ウェルズリーさんにと思いましてね」

「ま、まぁ!」


 彼らは、机越しに話をして、ウェルズリー事務官はポッと頬を染めてそれから手渡すホワイトリー指導官の手を少し強引に握った。


「嬉しいですわ。前から思っていたけれど、うふふっ、わたくしもまだまだ現役だもの」

「……」


 彼の手の甲をシワのよっている変に痩せた女の指がスリリ、となでる。


 ローズマリーはそれを見せられて、怖気立つ。


 ウェルズリー指導官はホワイトリー指導官がそれを拒絶しないことにご満悦だ。


 仕事のことについてはローズマリーにまだウェルズリー指導官の正しさはわからない。


 けれどもこうしてすぐそばで見ていると、どう考えてもウェルズリー指導官が、フィオナの女性的な部分をなじるのは同じ女として蹴落とすための攻撃に見える。


 少なくとも、それだけでローズマリーに取ってウェルズリー指導官は明らかに間違っていると言えると思う。


 ホワイトリー指導官は無言で笑みを返していた。


 ローズマリーは彼に毎度ウェルズリー指導官を気遣う意図を聞いたことがないのでわからないが、それもなんとなく察することはできる。


 案外不器用なのかもしれない。


 それに、ローズマリーは毎度怒られる度に見ていた向こう隣のフィオナのことも気になっていた。


 二週間、長くもない期間かもしれないが、それでも真面目さは伝わってくる。


 何がしたいかと言われれば、ローズマリーの今の答えは……。




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